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おばけ? 妖怪? 違います!
暗い
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……体にまとわりつくような水は、気持ちが悪い。冷たくて、体力が奪われる。
暗いと、もっと嫌だ。なにも見えない。なにも……自分の指先でさえも見えない。
なんのためにこんなことしているんだろう? ぼくは、実験に成功して、生き残った立場だ。でも、ぼく以外には、生き残れなくて、失敗して、爆発と共にその形跡すら分からなくなってしまった魔物や人もいるはず。
……実験に使われていた人を探しに来る人はいなかった。ウタと旅をしてみてはじめてわかった。あの人たちは、ポロンみたいな、そういう子達だけを連れてきていたんだって。孤児で、家族や友人、探す人が誰もいないような人を選んでいたんだって。
そう思ったら……すごく、すごく、悲しくなったんだ。
ぼくは、元々、イエスとノーすら分からないような、知能の低いスライムに生まれるはずだったけど、改造されて、偶然にも『感情』を手にいれて。
だから分かるんだ。本当は分からないはずだったことだけど、分かるんだ。……愛してくれる人がいるって、大切に想ってくれてる人がいるって、仲間がいるって、家族がいるって……。それってすごく……いいことなんだなって。
そんな、ヒトにとっては、もしかしたら当たり前なことかもしれないことを知らないで死んでいくのは……すごく、悲しいなって思って。
……違う。当たり前なんかじゃない。
ぼくは、みたんだ。エヴァンの死に顔を。……安らかに、眠るようになんて、お世辞にだって言えないあの顔を、見たんだ。
胸が、張り裂けるって、こういうことなんだって思った。
ぼくが傷ついてちゃいけない。アリアは、もっともっと、何十倍も悲しいんだ。ぼくがウタと一緒に、アリアを支えていかないと! ……そう思った。そう思ったのに、やっぱりぼくは弱くて、おさくに連れられてポロンたちのところに戻ったんだ。
……ありがとうって、思った。
あのまま、あそこにいたくなかった。そんなこと、言えないし、伝わらなかったんだけど。
でも、離れても、エヴァンのあの顔と、ぼくを助けてくれたときの優しい顔が交互に頭に浮かんできて、ぐちゃぐちゃになりながら、過ごしていた。
(……はぁ、どれくらい経ったかなぁ…………)
真っ暗だから、時間の感覚がおかしくなる。ひとりぼっちだと、時間の進みが遅い気がする。……体感ではもう二日も三日も経ってる気がするけど、きっとそんなに経ってない。だって――。
(……ウタ達は、ぼくを助けに来てくれるかな。見捨てないで、ここまで来てくれるかな?)
ここが、あの実験施設と同じような場所だったら、目的は、実験でぼくをさらに改造なりなんなりすること。そのあとぼくをどうするのかは分からないけど、なんとなく……これ以上進んだら、ぼくはぼくじゃなくなる気がする。
そしたら、もうぼくは、ウタ達とは一緒にいれない。
「っ…………」
いやだ……いやだよ……。
ぼくがぼくじゃなくなるのが嫌なんじゃない。だって、元々ぼくは、ただのスライムで……『ぼく』なんて人格、なかったんだから。
ぼくは、ウタと一緒にいられなくなるのが、この上なく嫌だ。
ウタと一緒にいたい。
ウタに見放されるのが嫌だ。
ひとりぼっちで生きたって……ぼくは、なにも出来ない。
怖くて、怖くて、見えない壁を、出来るだけの力で内側から叩いた。聞こえることなんて無いって分かってるんだ。でも、ぼくは、それにすがるしかないのだ。
――不意に、壁が割れ、光が漏れ出す。真っ暗だったそこに、ほんのりと明かりが灯り、逆光に人影が写る。
ぼくは思わず体を強ばらせた。顔は暗くて見えない。でも、体つきや雰囲気で分かる。その男は、ぼくが生まれた施設にいた人だ。そうだ。この人にぼくは……。
「……覚えているか?」
「…………!」
機械音を除いて、ここにきて、はじめて聞いた音だった。男は、不気味に微笑みながら、ぼくが入っている何かの壁に触れる。
「まさか……崩れ落ちた研究所から自力で脱出した魔物が、実験に成功していた検体だったとはな。その上、植え付けられた知能が思っていたのの数倍だ! さらに人になって戻ってくるとは」
何が目的なの? 何をするの? ウタ達はどこにいるの? 無事なの?
言いたいけれど、音にならない。ぼくはひたすらに、目の前の壁を叩いた。
「心配しなくても、あいつらは無事だよ。あのワイバーンは俺らが放ったやつだからな。実験で脳が死んでしまったが、そのおかげもあって俺らはそいつを操ることが出来る。
むやみに人を殺しはしないさ」
ほっとする一方で、ゾッとする。……むやみに、殺しはしない。でも、必要となればいくらでも殺す。そんな風に、ぼくには聞こえたのだ。
ウタなら、たぶん、ぼくを助けに来てくれる。でも、それはこの人達を邪魔することになる。邪魔をするってことは……ウタ達を殺すのは、この人達にとって『無駄』じゃなくなる。
それでも、助けてほしいと思うぼくは、わがままだ。
暗いと、もっと嫌だ。なにも見えない。なにも……自分の指先でさえも見えない。
なんのためにこんなことしているんだろう? ぼくは、実験に成功して、生き残った立場だ。でも、ぼく以外には、生き残れなくて、失敗して、爆発と共にその形跡すら分からなくなってしまった魔物や人もいるはず。
……実験に使われていた人を探しに来る人はいなかった。ウタと旅をしてみてはじめてわかった。あの人たちは、ポロンみたいな、そういう子達だけを連れてきていたんだって。孤児で、家族や友人、探す人が誰もいないような人を選んでいたんだって。
そう思ったら……すごく、すごく、悲しくなったんだ。
ぼくは、元々、イエスとノーすら分からないような、知能の低いスライムに生まれるはずだったけど、改造されて、偶然にも『感情』を手にいれて。
だから分かるんだ。本当は分からないはずだったことだけど、分かるんだ。……愛してくれる人がいるって、大切に想ってくれてる人がいるって、仲間がいるって、家族がいるって……。それってすごく……いいことなんだなって。
そんな、ヒトにとっては、もしかしたら当たり前なことかもしれないことを知らないで死んでいくのは……すごく、悲しいなって思って。
……違う。当たり前なんかじゃない。
ぼくは、みたんだ。エヴァンの死に顔を。……安らかに、眠るようになんて、お世辞にだって言えないあの顔を、見たんだ。
胸が、張り裂けるって、こういうことなんだって思った。
ぼくが傷ついてちゃいけない。アリアは、もっともっと、何十倍も悲しいんだ。ぼくがウタと一緒に、アリアを支えていかないと! ……そう思った。そう思ったのに、やっぱりぼくは弱くて、おさくに連れられてポロンたちのところに戻ったんだ。
……ありがとうって、思った。
あのまま、あそこにいたくなかった。そんなこと、言えないし、伝わらなかったんだけど。
でも、離れても、エヴァンのあの顔と、ぼくを助けてくれたときの優しい顔が交互に頭に浮かんできて、ぐちゃぐちゃになりながら、過ごしていた。
(……はぁ、どれくらい経ったかなぁ…………)
真っ暗だから、時間の感覚がおかしくなる。ひとりぼっちだと、時間の進みが遅い気がする。……体感ではもう二日も三日も経ってる気がするけど、きっとそんなに経ってない。だって――。
(……ウタ達は、ぼくを助けに来てくれるかな。見捨てないで、ここまで来てくれるかな?)
ここが、あの実験施設と同じような場所だったら、目的は、実験でぼくをさらに改造なりなんなりすること。そのあとぼくをどうするのかは分からないけど、なんとなく……これ以上進んだら、ぼくはぼくじゃなくなる気がする。
そしたら、もうぼくは、ウタ達とは一緒にいれない。
「っ…………」
いやだ……いやだよ……。
ぼくがぼくじゃなくなるのが嫌なんじゃない。だって、元々ぼくは、ただのスライムで……『ぼく』なんて人格、なかったんだから。
ぼくは、ウタと一緒にいられなくなるのが、この上なく嫌だ。
ウタと一緒にいたい。
ウタに見放されるのが嫌だ。
ひとりぼっちで生きたって……ぼくは、なにも出来ない。
怖くて、怖くて、見えない壁を、出来るだけの力で内側から叩いた。聞こえることなんて無いって分かってるんだ。でも、ぼくは、それにすがるしかないのだ。
――不意に、壁が割れ、光が漏れ出す。真っ暗だったそこに、ほんのりと明かりが灯り、逆光に人影が写る。
ぼくは思わず体を強ばらせた。顔は暗くて見えない。でも、体つきや雰囲気で分かる。その男は、ぼくが生まれた施設にいた人だ。そうだ。この人にぼくは……。
「……覚えているか?」
「…………!」
機械音を除いて、ここにきて、はじめて聞いた音だった。男は、不気味に微笑みながら、ぼくが入っている何かの壁に触れる。
「まさか……崩れ落ちた研究所から自力で脱出した魔物が、実験に成功していた検体だったとはな。その上、植え付けられた知能が思っていたのの数倍だ! さらに人になって戻ってくるとは」
何が目的なの? 何をするの? ウタ達はどこにいるの? 無事なの?
言いたいけれど、音にならない。ぼくはひたすらに、目の前の壁を叩いた。
「心配しなくても、あいつらは無事だよ。あのワイバーンは俺らが放ったやつだからな。実験で脳が死んでしまったが、そのおかげもあって俺らはそいつを操ることが出来る。
むやみに人を殺しはしないさ」
ほっとする一方で、ゾッとする。……むやみに、殺しはしない。でも、必要となればいくらでも殺す。そんな風に、ぼくには聞こえたのだ。
ウタなら、たぶん、ぼくを助けに来てくれる。でも、それはこの人達を邪魔することになる。邪魔をするってことは……ウタ達を殺すのは、この人達にとって『無駄』じゃなくなる。
それでも、助けてほしいと思うぼくは、わがままだ。
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