上 下
228 / 387
おばけ? 妖怪? 違います!

化け物

しおりを挟む
「まずー、ポロンくんたちが見た人影だけどー、もしかしたら幻だったかもしれない」


 開口一番、アイリーンさんはそう言った。僕らはもちろん、追いかけていった二人が一番動揺を隠せないでいた。


「そ、そんなわけないやい! おいら、ちゃんと見たよ!?」

「そうですよ! 私、足音だって聞きましたし、草が踏まれているところとかを追って行ったんですから、幻な訳ありません!」

「それがさー、出来るんだよね、そういうことー」


 そう言いながら、アイリーンさんは手のひらを上に向ける。


「メイドール」


 すると、その手のひらの上に僕とそっくりな人形が出来上がった。大きさは手のひらサイズだが、見た目はぼくそっくりだ。


「わ……ウタ兄!?」

「メイドールは水魔法と土魔法と光魔法の合わせ技だよー。土魔法で形をつくって、光と水で、光に色をつけて、そっくりに仕上げられるんだー。まぁー化学と魔法の合わせ技ー? みたいなー?
 これをー、えいっ!」

「わわっ?!」


 アイリーンさんが掛け声と同時に腕を大きく振ると、手のひらサイズだった『僕』が僕のとなりに並ぶ。上から下までそっくりだし、動いている。


「目の前の人真似したから結構そっくりだねー! コナンの犯人みたいのも出来るよー!」

「犯人……」

「声だけは再現できないけど、それ以外ならこれで完璧! さわれるしねー!
 人を表現するのは色々方法があるけど、一番オーソドックスなのがこれだよー! これが、二人の追いかけてった正体じゃないかなー?」

「じゃあ……だとしたら、おいらたちにあれを見せたのはなんでなんだろう」


 アイリーンさんは『僕』を消し、人差し指を一本たてた。


「可能性としてはー、ギルドからずっとその人たちがついてきていて、ドラくんがいなくなるタイミングを狙っていた、とかねー。ギルドで話を聞いていたなら、ドラゴンわざわざ相手にはしようと思わないでしょー、レベル100だしねー!」


 魔王レベル10000なの? えー、手応えなーい、とか言ってたのはどこのパーティーでしたっけ? 個性の塊'sですよね? そんなこと言えた立場じゃないですよ?
 ともかく、まぁ、普通の人の感覚からすれば、なんの違和感もない。ドラくんと戦うのは避けたいだろう。


「で、さっきのグランスなんだけど、魔方陣の範囲が狭いんだー。そうすると、折角罠にはめても、誰か一人くらいはみ出して、回復薬とか飲ませちゃうかもしれないじゃーん?
 それが嫌だったから、頭数を減らすために、囮として人影を出したのかなー? スラちゃんを一人にするわけないし、スラちゃん引っ張って人影を追いかけることもないよね」

「そうだ、それでそのあと、ワイバーンが……」


 残った僕らはワイバーンと戦った。そして勝った。拘束した。
 ……はず、だったのに。


「まぁー、ウタくんたちが気を失ったあと、冷静に脱出したんだろうねー」

「で、でも、僕リヴィーで……ワイバーンは炎魔法は……」

「頭はやわらかーくしなきゃいけないんだよー?
 炎で焼く以外にも、例えば、氷魔法で凍らせて、それを砕くってやり方もあるんだよー」

「なるほど……」

「待て」


 アイリーンさんの意見に、ドラくんが口を挟む。


「確かに、その方法ならばリヴィーから脱出することは可能だろう。しかし、自らに巻き付いている蔦を凍らせようとすれば、気をつけないと自分の身も傷つける。
 ワイバーンの力は大きい。知能も高い。しかし、それだけの繊細な動きが出来るとは到底思えない」

「でもさ……ウタくん、スラちゃんを連れてったの、どんな人たちだと思ってる?」

「え……スラちゃんが生まれた研究施設か何かの…………あ」

「だとすればー?」

「……スラちゃんと同じように、人間の知能を植えつけられている可能性」

「うん、正解!」

「なら……あの人影も、罠も、ワイバーンが?」

「その可能性は低いかな。水、土、光、闇……。4つの属性魔法を使いこなすって、相当難しいと思うよ?
 そもそもワイバーンがよく使うのは氷魔法と雷魔法だけだしね」


 つまり……どういうことだ? 人影や罠をかけたのは人で、それは別にいて、スラちゃんの実験施設にいた人。で、その人たちが、おそらく実験で生まれたであろう人の知能を持ったワイバーンとなぜか協力している……?
 目的は、スラちゃんを拐うこと。でも、拐ったところでなんになるのか。人の心を持っているスラちゃんがおとなしく従うとは考えにくい。


「……あいつらの、目的なんだけど、ほぼ100%実験対象だよね」

「あれ以上何を実験するっていうんだ?」

「スラちゃんは、たぶん、その施設の唯一の生き残り。そして、たまたま成功した検体。さらにジュノンの気まぐれで人にまでなっちゃってるときたんだよー。
 ……次の段階に進むにはもってこいだよね」

「次の段階……?」

「『化け物の育成』……ってことかな」


 嫌な感じが背筋を駆ける。僕が感じたそれは、決して間違いではなかった。


「人でなく、魔物でなく、誰の力も及ばない存在……それこそ、魔王に匹敵するほどの。
 ……でも、そのために、多分潜在的な力を強制的に拡張する。感情なんて気にせずに」

「じゃあ……」

「止めないと、スラちゃんはスラちゃんじゃなくなるよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...