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おばけ? 妖怪? 違います!
父への想い
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あのあと、レイナ様とロインは二人の部屋に戻っていった。スラちゃんが大泣きしたのもあるし、僕らだけでゆっくりさせようとしてくれたのもあるかもしれない。
なんにしろ、六人だけになった僕らは、大きなソファーに各々腰掛け、紅茶を飲みながら、スラちゃんの話を聞いていた。
「にしても、なんでまたスラちゃんはうちの訓練場にいたんだ? 私が集めていた……というのも変か。あそこにいたのは、前にドラゴンが街の結界を壊したときに、一緒になだれ込んできた魔物だ。その中に混じっていたのか?」
「え、あそこにいたの、その時の魔物だったんですか?」
「スペース事態はそもそも訓練用の魔物を閉じ込めておく場所だったからな。ドラゴンの対応で忙しくて、魔物はとりあえずここにーって詰め込んだだけなんだ」
「その節は申し訳ない」
「それはドラくんじゃなかったんだろ? それに操られてたんなら、おいらはしょうがないと思うよ!」
「……ありがとう」
「で、スラちゃんは」
「そう、なんでアリアさんのところにいたの?」
フローラが優しく訊ねると、スラちゃんは両手で包むように持ったカップに視線を落とす。ほとんど減っていない紅茶の水面が、その、幼くもどこか儚げな顔を映し出した。
「ぼくは……その……」
「…………」
「……っ、アリア!」
「わ……!?」
なぜかそのタイミングで、持っていたカップをローテーブルに置き、アリアさんに抱きついたスラちゃん。アリアさんは持っていたカップから、熱い紅茶をこぼさないようにしつつ、スラちゃんの頭を、左手でポンポンと撫でた。
「どうした、急に。辛いなら、無理に今言わなくても」
「アリアっ……。悲しまないで……」
「……え」
「泣かないで、アリア……」
急にそう言われたアリアさんは、やはり少し戸惑っていた。しかし、不安げに肩を震わせるスラちゃんを見て、ふっと微笑み、カップを置き、思い切りスラちゃんを抱き締める。
「大丈夫だよっ! 私は……一人じゃないからな! ウタがいる。ポロンもフローラもドラくんも……スラちゃんもいるだろ? 私は大丈夫だ!
……泣かないよ、強くなったんだ」
アリアさんがそう言うと、どこかほっとしたような顔で、スラちゃんがアリアさんを見上げ、そして僕らを見る。それから、アリアさんから少し体を離し、ポツリと言う。
「ぼくを助けてくれたのは、エヴァンなんだ」
「…………」
その事実、その名前に驚くと同時に、『やっぱり』と思っている自分が確実にいた。スラちゃんのこの反応。アリアさんへの精一杯の配慮。……エヴァンさんが関わっていることに、まず間違いないと。僕はどこかでそう、確信していた。
「元々ぼくは、よくわかんないとこにいて……多分、実験施設、みたいなとこだっだと思う。外が見れなくて、どこだったのかは良く分からないけど、そこの人たちがバレるとか隠すとか、そんな話を良くしていたから、良くないとこだったんだと思う」
「どの国でも、魔物や人を使った実験はきちんとした手続きが必要と国際的に決まっている。そのための費用もな。きっと、その金をもったいないと思った連中だ。まともな器具も使えないから、よく……失敗をする」
「多分のその失敗だったんだとおもうよ。
施設が大爆発を起こしてね、ぼくはビーカーみたいなのの中にいたから助かったんだけど、他の実験体はみんな……」
「そっか」
……それならさぞかし、ジュノンさんの研究所での一件は怖かっただろうに。
「それで、よくわからなくて歩いてたら、おっきい魔物に襲われて、危なかったんだけど、エヴァンが助けてくれたの」
エヴァンさんは、スラちゃんを助けて、『思わず庇ってしまったが……君は、人なのかな? それとも、ただのスライム?』と、言っていたんだそう。
マルティネスから少し離れた森。そこにスラちゃんはいた、と、エヴァンさんから聞いたんだとか。
「ちょうど、ドラゴンが街を襲って、流れ込んだ魔物を入れている場所があるからって、エヴァンはあそこに連れてきてくれた。ぼくが他の魔物に襲われないように、薄い結界も張ってくれた。言葉がしゃべれなくて、うまく説明も出来ないぼくを、助けてくれた」
……やっぱり、親子なんだなぁ、と、不意に思った。エヴァンさんのいいところ、アリアさんはちゃんと引き継いでる。助けられるものは助けようとする姿勢。僕の、アリアさんの、一番好きなところだ。
「訓練用だからさ、不安だったんだけど、エヴァンがね、自分と同じ髪と瞳を持った女の子が来たら出ておいでって言ってたの。それで思いっきり遊べば、絶対に殺されることはないからって」
「……だから、結界を出て、私の前に出てきたんだな」
「うん! 最初はヒヤヒヤしたけど、ウタは逃げてばっかりだったし、アリアもぼくを好きになってくれたよね!」
……僕は、そうやって笑うスラちゃんの横顔を見ながらも、その顔に影が落ちるのを見逃さなかった。
そういえば……あぁ、そうだった。スラちゃんは、エヴァンさんが死んだあのとき、あんなに悲しんでいた。強がっていたけど、スラちゃんはエヴァンさんに助けられていたんだ。
「……気づけなくて、ごめんね」
誰にも聞こえないように呟いたはずだった。
「お主が謝る必要はないだろう?」
ドラくんには、聞こえちゃったみたいだけど。
僕はどこか心配そうに僕を見るドラくんに、出来るだけの笑顔を返した。
なんにしろ、六人だけになった僕らは、大きなソファーに各々腰掛け、紅茶を飲みながら、スラちゃんの話を聞いていた。
「にしても、なんでまたスラちゃんはうちの訓練場にいたんだ? 私が集めていた……というのも変か。あそこにいたのは、前にドラゴンが街の結界を壊したときに、一緒になだれ込んできた魔物だ。その中に混じっていたのか?」
「え、あそこにいたの、その時の魔物だったんですか?」
「スペース事態はそもそも訓練用の魔物を閉じ込めておく場所だったからな。ドラゴンの対応で忙しくて、魔物はとりあえずここにーって詰め込んだだけなんだ」
「その節は申し訳ない」
「それはドラくんじゃなかったんだろ? それに操られてたんなら、おいらはしょうがないと思うよ!」
「……ありがとう」
「で、スラちゃんは」
「そう、なんでアリアさんのところにいたの?」
フローラが優しく訊ねると、スラちゃんは両手で包むように持ったカップに視線を落とす。ほとんど減っていない紅茶の水面が、その、幼くもどこか儚げな顔を映し出した。
「ぼくは……その……」
「…………」
「……っ、アリア!」
「わ……!?」
なぜかそのタイミングで、持っていたカップをローテーブルに置き、アリアさんに抱きついたスラちゃん。アリアさんは持っていたカップから、熱い紅茶をこぼさないようにしつつ、スラちゃんの頭を、左手でポンポンと撫でた。
「どうした、急に。辛いなら、無理に今言わなくても」
「アリアっ……。悲しまないで……」
「……え」
「泣かないで、アリア……」
急にそう言われたアリアさんは、やはり少し戸惑っていた。しかし、不安げに肩を震わせるスラちゃんを見て、ふっと微笑み、カップを置き、思い切りスラちゃんを抱き締める。
「大丈夫だよっ! 私は……一人じゃないからな! ウタがいる。ポロンもフローラもドラくんも……スラちゃんもいるだろ? 私は大丈夫だ!
……泣かないよ、強くなったんだ」
アリアさんがそう言うと、どこかほっとしたような顔で、スラちゃんがアリアさんを見上げ、そして僕らを見る。それから、アリアさんから少し体を離し、ポツリと言う。
「ぼくを助けてくれたのは、エヴァンなんだ」
「…………」
その事実、その名前に驚くと同時に、『やっぱり』と思っている自分が確実にいた。スラちゃんのこの反応。アリアさんへの精一杯の配慮。……エヴァンさんが関わっていることに、まず間違いないと。僕はどこかでそう、確信していた。
「元々ぼくは、よくわかんないとこにいて……多分、実験施設、みたいなとこだっだと思う。外が見れなくて、どこだったのかは良く分からないけど、そこの人たちがバレるとか隠すとか、そんな話を良くしていたから、良くないとこだったんだと思う」
「どの国でも、魔物や人を使った実験はきちんとした手続きが必要と国際的に決まっている。そのための費用もな。きっと、その金をもったいないと思った連中だ。まともな器具も使えないから、よく……失敗をする」
「多分のその失敗だったんだとおもうよ。
施設が大爆発を起こしてね、ぼくはビーカーみたいなのの中にいたから助かったんだけど、他の実験体はみんな……」
「そっか」
……それならさぞかし、ジュノンさんの研究所での一件は怖かっただろうに。
「それで、よくわからなくて歩いてたら、おっきい魔物に襲われて、危なかったんだけど、エヴァンが助けてくれたの」
エヴァンさんは、スラちゃんを助けて、『思わず庇ってしまったが……君は、人なのかな? それとも、ただのスライム?』と、言っていたんだそう。
マルティネスから少し離れた森。そこにスラちゃんはいた、と、エヴァンさんから聞いたんだとか。
「ちょうど、ドラゴンが街を襲って、流れ込んだ魔物を入れている場所があるからって、エヴァンはあそこに連れてきてくれた。ぼくが他の魔物に襲われないように、薄い結界も張ってくれた。言葉がしゃべれなくて、うまく説明も出来ないぼくを、助けてくれた」
……やっぱり、親子なんだなぁ、と、不意に思った。エヴァンさんのいいところ、アリアさんはちゃんと引き継いでる。助けられるものは助けようとする姿勢。僕の、アリアさんの、一番好きなところだ。
「訓練用だからさ、不安だったんだけど、エヴァンがね、自分と同じ髪と瞳を持った女の子が来たら出ておいでって言ってたの。それで思いっきり遊べば、絶対に殺されることはないからって」
「……だから、結界を出て、私の前に出てきたんだな」
「うん! 最初はヒヤヒヤしたけど、ウタは逃げてばっかりだったし、アリアもぼくを好きになってくれたよね!」
……僕は、そうやって笑うスラちゃんの横顔を見ながらも、その顔に影が落ちるのを見逃さなかった。
そういえば……あぁ、そうだった。スラちゃんは、エヴァンさんが死んだあのとき、あんなに悲しんでいた。強がっていたけど、スラちゃんはエヴァンさんに助けられていたんだ。
「……気づけなくて、ごめんね」
誰にも聞こえないように呟いたはずだった。
「お主が謝る必要はないだろう?」
ドラくんには、聞こえちゃったみたいだけど。
僕はどこか心配そうに僕を見るドラくんに、出来るだけの笑顔を返した。
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