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魔王だよ! 全員集合!

使命を追って

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「……ところで、話は変わるんだが」


 ブラックサンダーを食べ終わると、今までの雰囲気を払拭するように、アリアさんがこんな風に切り出した。


「ジュノンが魔王を倒すときに使ってた力は……なんだ? あんな魔法見たことない」

「ん? あぁ、魔王って書いて新たなる支配者って読むのよ、あの魔法」

「すごいルビだ」

「特殊魔法のひとつだよ」


 テラーさんが僕の後ろからひょっこり顔を出して説明してくれる。


「闇魔法の熟練度が10であり、その他の属性魔法の熟練度が5を越えているのが絶対条件。闇魔法の中でもトップを争うくらい強力な魔法だね。その難易度の高さから、魔王しか使えないって言われてたらしい。だから、魔王ってこと」

「な、なるほど……?」

「一瞬過ぎていまいち効果が分からなかったんだが」

「対象一体に対して超特大ダメージっていうのが一応の説明。対象は魔方陣の中の誰か一人。自分よりもレベルが低いなら即死させられる。
 まぁ私たちの場合、魔王はHPが10000未満になれば封印できるから、そこまで減らしてもらって、ささっと封印したのよ」

「封印してたんだ……」


 なんというか……塊'sのみなさん殺る気まんたんだったから、さっくり殺っちゃってるのかと思ってた。


「そりゃいくら魔王っていったって殺すのは気が引けるしね」

「魔属なんかは、ほとんど魔力で体を作られてるから、完全に殺すのも大変だし」

「……で!」


 不意に机に乗り出したおさくさんが、いつになく真剣な表情で僕らを見つめる。


「Unfinishedはさ、これからどうするの?」

「…………」

「……世界は広いよ。ただぼんやりと旅をしていても、ディランさんは見つからないし、自分の使命も分からない。
 せっかく二回目の命をもらったんだから、楽しまなきゃ。ちゃんと考えなきゃ」

「……だって、ウタくんはさ」


 不意にアイリーンさんが、ひどく悲しげな瞳を向け、笑った。


「死んでたって……覚えててもらえるんだから。悲観的になりすぎちゃダメだよ。覚えててもらえるってことは、死んでもなお、自分の居場所があるってことだよ? 私たちは…………もう」

「……個性の塊'sは、覚えててもらえないのか?」

「私たちは召喚された。転生したウタくんと違って、急に向こうの世界から消えたことになる」


 ドロウさんがそういいながら、アイリーンさんの肩にそっと手をおく。そして、続かなかった言葉を、テラーさんが続けた。


「世界の均衡を保つために……私たちは、『最初から存在しなかった』ことになってる。
 家族は私たちのことを覚えていない。親友も、友達も、部活のみんなも、誰も……」


 ……こんなに。こんなに悲しそうな五人は、初めて見た。なにかを懐かしむような、あまりにも悲しいその横顔から、目が離せなくなった。
 どんなに強かったとしても、ここに来た当時は、僕とほぼ同い年の女子高生で、急に五人だけになって、言葉も通じないなか、魔王を倒すために手探りで旅をして来たんだろうなぁと。そんなことが、不意に、頭をよぎる。


「……でさ! Unfinishedはどうするの、これから。くらーくなっててもしょうがないでしょ」


 その場の空気を変えるように、おさくさんが言う。僕は少し考えて、そして、頭をあげた。


「……南の方に、行ってみようかと思います」

「理由は?」

「なんとなくです。でも……もしも、僕の使命にディランさんが関わっているとするなら、僕が何となく思ったところにいるんじゃないかって。勝手に、そう思ったんです」

「……そっか。ウタがそういうなら、私は止めないよ。リーダーには従うさ」

「ありがとうございます。……ちなみになんですけど、アイリーンさん、千里眼でディランさんの居場所って分からないですか?」

「それがさー、分からなくなっちゃったんだよね」

「……え?」


 千里眼に、分からないとかそんなのあるのか? いや、千里眼ってそういうのがないから千里眼って言うんじゃ……。


「急に、ディランさんに関するとことと、ウタくんの『勇気』に関すること、分からなくなっちゃった。他のことなら分かるんだけどね」

「それって……アイリーンさんの力が落ちてる訳じゃなくて」

「なにか他の者が私たちに干渉してるって方が正しいかな。魔王倒して、私たちみんなカンストしたし」

「……え。そ、それ以上強くなってどうするんですかぁ?!」

「あとジュノンの職業が完全に魔王になったね」

「えええええっ?!」

「いやー、こんなことってあるんだねー。魔王じゃないのに」

「いや、ジュノンは魔王でしょ」

「あ、そーだ! 新たな道を歩き始める君たちにプレゼントをあげよう!」


 不意にジュノンさんがそういいながら立ち上がり、僕の手をぎゅっと握る。そしてそこから白い光が……って、えええええっ?!


「なに伝授したんですかぁ?!」

「か・が・くー!」

「化学!? ……っていうか、化学ってジュノンさん使ってました?」

「使ってたよーAg銀鏡反応。魔王のやつ跳ね返すので使ったー」

「あれ化学だったんですか!?」


 とりあえず鑑定してみよう。使い方が分からないと……。


化学式……化学式を詠唱することによって、その物質と同じ効果を示す魔法を発動させる。


 ……ふーん、


「僕化学、ぜんっぜんわかりませんよ!?」

「教えてあげよう」

「その微笑みなんか怖いです」

「あとあれだ」


 ジュノンさんは僕に向けた笑顔を、そのまま上に向ける。そこには、僕らを見下ろすドラくんが。


「……え、お主。なにを」

「覚悟っ!」

「なっ?!」

「えっ……?!」


 不意にジュノンさんが飛び上がり、ドラくんに接近する。よく見るとその手には注射器が。


「こっちも試してみたかったんだー!」

「や、やめ――」


 注射針がドラくんの体に刺さる。と同時に、その巨体が光に包まれ、みるみるうちに小さくなり、下に落ちてきた。


「おっと、ストリーム」


 テラーさんが使った風魔法によって落下の速度がゆるやかになり、ストンと優しく、床に落ちた。光はだんだんと弱くなり、そこには、一人の青年が頭を押さえて座っていた。
 赤いメッシュの入った黒髪に金色の瞳。とてもイケメンである。


「うっ……なんだ、これは……」

「ドラくん!?」

「ウタ殿……? …………これは、人に……?! いやまさか、そんな……ジュノン殿、お主、こんなことが」

「出来るんだなぁ」


 そして、個性の塊'sは僕らを見てにっこりと笑った。


「新制Unfinished、六人体勢で再スタートってね」
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