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魔王だよ! 全員集合!

本当の使命

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 自己犠牲の勇気――。僕の勇気はそれだと、ジュノンさんは言っていた。つまり、僕なら奇跡を起こせるかもしれないと……そう言ったのだ。


「……どう、いう…………」

「『勇気』は、それ単体では存在しない」


 ジュノンさんは、また紅茶をすする。そして、表情を変えずに、あえて淡々と、物事を語る。


「『勇気』を出す、きっかけがないと、『勇気』は存在しない。それがどんな勇気であったとしても。その勇気が、善であったとしても、悪であったとしても、なんらかの理由が存在する」


 僕の場合は『自己犠牲』が、ディランさんの場合は『自己防衛』が、その理由……そういう、ことなのか?


「自己犠牲と自己防衛、それが、勇気を発動させている理由になると……ジュノンはそういいたいのか?」


 アリアさんが、僕の思っていたことをいってくれた。当然肯定するものと思っていたが、ジュノンさんは首を横に振った。


「……単純に考えればそうだけど、もうひとつ裏側に、理由が存在すると思う」

「もうひとつ裏側に……?」

「普通に考えて。……自己犠牲が、自己防衛に敵うわけがないんだよ。だって自己犠牲は、自分が攻撃を受けたってどうでもいいわけだもんね。
 それでもなんでか、」


 自己犠牲が勝てるかもと思ってしまった……。そう、ジュノンさんは言っていた。
 僕は……僕が、そもそも、ディランさんと張り合えるなんて思えない。本当は戦いたくだってない。

 ……でも、もしも、本当にディランさんが世界を滅ぼそうとしていたのなら、もし、それを止める力が僕にあるのなら、僕は、そうすべきなんじゃないのか……?


「……転生者は、皆、使命を持って生まれてくる、か…………」


 ドラくんが不意に呟く。それを聞いたジュノンさんが、少し上を見上げながら言う。


「……ウタくんは、今まで自分の使命を『もう一つの勇気を倒すこと』だと思ってたかもしれない。でも、私は違うんじゃないかなーって」


 ……僕は、何を望まれて、この世界にやってきたのだろうか。何を背負って、生きていくべきなんだろうか。
 一番最初に疑問に思ったことであり、まだ、答えが出ていないことだ。答えがあるのかどうかさえわからなくて、手探りで……。


「僕の……使命って……」

「例えば、『世界を救う』とかだったとするよね? でもそうすると、ウタくん自身に言わなかったのが変だと思うんだよ。言わない理由が見つからない。単純に神様がバカだったのかもしれないけどね。仮にも神様だからさ、そういう可能性は低いと思うんだ」


 僕に、伝えられないようなことで、僕が求められていること。……なんで伝えてくれなかったんだろう。言われると断るからか? それとも、知っていたら成し遂げられないようなことだったからか?


「だからそうだね……。例えば、この世界で『生きること』とか、『死ぬこと』とか」

「…………」

「そういうことだったとしたら、ウタくんはそれを拒絶したり、断ったりするかもしれないからね」


 僕の……本当の、使命は……。


「死ぬこ」

「生きること、だったのか?」


 僕の言葉を遮り、跳ね返すかのように強く、アリアさんが言う。……絶対に、死なせやしないと言っているかのように。


「まぁ、あくまでも私の推測だし、それかどうかは分からないよ。ただ、自己犠牲と自己防衛、それぞれの裏側に、なにか別の、大きな力が働いていることには間違いないと思う。
 そして、きっとディラン・キャンベルは、『自己防衛』の裏を知っている。だからわざわざ、私に聞きに来たんだ。『助かる見込みがあるのか』ってことを」

「……それはつまり、裏を知ったディランさんは、助かる見込みがないと思ったから、希望を求めて……?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


 僕は……そのときの僕は、思っていた。『自己防衛』の裏が、『生きること』だとしたら。『自己犠牲』の裏が、『死ぬこと』だとしたら。……その場合、『自己防衛』が勝つのではないかと。
 自己犠牲が死のうとしているからじゃない。生きようと思う力よりも、死のうと思う力の方が強いなんて、とても思えなかったからだ。

 生きようと思う気持ちは、人間、誰しもが持っていて、そのためには、極端な話、他人を殺す。対して死のうと思う気持ちは、誰もが持っている訳じゃない。しかも、その気持ちは自分自身にしか影響しない。自分が死ぬために、他の誰かを殺す必要なんて全くないはずだ。

 アリアさんはあぁ言っていたけれど……僕は、自分の『勇気』は『死ぬこと』のためにあるんじゃないかと思っていた。
 だって……僕はそもそも、死ななきゃいけない人間なんじゃないかと、そう、思っていたから。


「どちらにせよ、改めて考えてみた方が良いと思うよ。『自分の使命について』」

「……疲れたね。チョコレート食べるー?」

「……僕、欲しいです」

「私もだ」

「じゃあたまにはー……ブラックサンダー! ……はい、どーぞ」


 100均とかでも売ってた、どこか故郷を思い出す、懐かしいお菓子。一口食べると、甘い味が口の中に広がって、悲しくなった。


(もしも、僕が死ぬためにもう一度生まれたのなら……)


 僕は、何を思って、これから旅を続ければいいんだろう。


「…………ウタ」


 不意に、アリアさんと目があった。あの人と同じ、赤い瞳。確かに、国王の血を引き継いだ、時期女王なのだと、思い知らされた。


「勝手なこと、思うなよ」


 うなずくことは、出来なかった。
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