チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

文字の大きさ
上 下
214 / 387
魔王だよ! 全員集合!

自己防衛と自己犠牲

しおりを挟む
「ディランに会った? 本当なのか!? 今どこにいるか、分かるのか!?」

「それに、もう一つの勇気って……」

「いや……悪いけど、どこにいるのかは分からない。でも、会って話したことは本当だよ?」


 ジュノンさんは少し深く椅子に座り直すと、僕らのことをじっと見た。


「ただ、その事実を言うために、確認しなきゃいけないことがあった。だからあのときも、様子を見させてもらった」

「確認しなきゃいけないこと?」

「『自己犠牲』か『自己防衛』かってことだよ」


 ジュノンさんのその言葉に、少し首を捻った。……『自己犠牲』と『自己防衛』? 僕らのどこを見て、犠牲か防衛かを見定めていたんだ? そもそもその理由って……?


「ディラン・キャンベルってのは、ずいぶん用心深いみたいだね。……ま、常にそうとも思わないんだけど。
 ……私の研究所に彼が来たのは、ちょうど、Unfinishedがハンレルに着いた日。私の研究室の中、私の後ろに、気がついたら立ってたよ」


 未来永劫、でも使ったのだろうか。ジュノンさんの後ろをとるのは、正直、魔王に勝つよりも大変かもしれない。なんせ、ジュノンさんは半端なく強いから。


「私に会いに来たのは、単純に聞いてみたかったんだってさ。『助かる見込みがあるのか』ってこと」

「助かる見込み……?」


 誰が? ……何が?


「それは、あれでしょ?」


 不意に、テラーさんが口を挟む。そして、アリアさんをちらりと見てから、ジュノンさんを見る。


「……世界が助かる見込みがあるのか、ってこと……でしょ?」

「そうそう」

「え、待て。逆にいうと、助からない可能性もあるって……ことか?」

「まぁどちらかというとその可能性の方が高いね。世界が滅ぶっていう」


 ドロウさんもそんな風にうなずく。なにがどうして、世界が滅ぶんだ……?


「詳しくは聞いていないし、聞けなかった。でもそれを聞いてきたのはきっと、『自己防衛』の勇気を、ディランが持っていたから」


 不意におさくさんが「お茶でも飲むー?」声をかける。僕はそれにうなずくだけうなずき、ジュノンさんを見る。


「『自己防衛』の勇気と、『自己犠牲』の勇気……なにが、違うんですか?」

「ウタくんは『自己犠牲』の勇気。何がって言われても困るんだけど、決定的に違うのはスキルが発動するタイミング」

「どういう……」

「……アリアさんさぁ、覚えてる? ウタくんが『勇気』を発動させたときのこと」

「あぁ……」

「どんなとき?」

「え……最初は、ドラくんから私を逃がそうとしたとき。二回目は、ポロンをキルナンスから守ろうとしたとき。三回目は……メヌマニエの前で、私たちが動けなくて、それを助けようとしてくれたときに、多分発動してた。あとは」

「いや、もういいよ」


 おさくさんがお茶を淹れてきてくれた。紅茶だ。ジュノンさんはそれを一口すすると、ふっと微笑んで、僕を見る。……紫に反射する、その黒い瞳は、僕の心の中を覗き込んでいるようだった。


「……勇気を発動させているとき、ウタくんには、自己犠牲の気持ちが働いていた」

「…………」

「自分はどうなっても良い。死んでも良い。そんな気持ちが必ずつきまとっていたはず。……実際、さっきの行動なんか、それが顕著に現れてたよね」


 ……無意識だ。
 でも、言われると確かに、僕はそんな気持ちを抱いていた気がする。


「逆に、ディラン自身はその力のことを『自己防衛』のスキルだって言っていた。……正確には、自分と、もう一人を守りたいときにだけ発動してきたって」


 ……アリアさんを見る。何かを感じ取ったのか、そっと下を向く。僕にだってわかる。そのもう一人が、アリアさんだってことくらい。


「で、だ。ディランの『勇気』は、何となく嫌な感じがした」

「ジュノンが嫌な感じって相当」

「おさく?」

「スミマセン」

「とにかく、嫌な感じがしたの。奥の奥の方の、黒い力を感じた。
 どこで手にいれたか何て分からないけど、あれが原因で、ディランはきっと、アリアさんの前に出ていくことができない。それがどんな緊急事態だったとしても」


 そんな……得たいも知れない『黒い勇気』を背負って、ディランさんは、ジュノンさんに、『助かる見込みはあるのか』と聞いた。

 ……あのときの、ディランさんの言葉が頭をよぎる。その時僕が、僕でありますように……。たしか、そんな言葉だった。
 もしかして……自分が世界を滅ぼすかもしれないと思って……?


「…………ジュノンさんは、」


 僕が口を開くと、柔らかい視線が刺さった。……ジュノンさんは、個性の塊'sは……全てを知っているのか? それとも、知らないのか? 知っているなら…………僕らに言えない、理由はなんだ?


「ディランさんの問いかけに、なんて答えたんですか?」


 ジュノンさんの答えは、あまりにも簡単で……それでいて、裏に大きな意味を隠してるような気がした。


「世界が助かる見込みはある。でも、そのときディラン・キャンベルが生きていることは……奇跡に等しい」

「――――」


 隣で、アリアさんが言葉を失う。ずっとずっと、一途に想い続けていた人が、世界の平和と共に死ぬかもしれない。そしてそのことを語ったのは、世界を、二度は救った、神に召喚された、紛れもない勇者だったのだ。……きっと正しい。


「……そして、その奇跡を起こせるのは、『自己犠牲の勇気』かもしれない」


 そして僕もまた、言葉を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

処理中です...