上 下
206 / 387
魔王だよ! 全員集合!

当て馬四天王s

しおりを挟む
 ……実力が、違いすぎる。
 他の塊'sとは、わけが違う。どうりで会う人みんな声を揃えて『ジュノンは魔王だ』と言うわけだ。その意味を、この身をもってしっかりと味わった。


「……怪我してる人いるー?」

「……逆にさ、いないと、思ってるの?」

「あれ、わりと怪我してる?」


 一瞬だった。ジュノンさんの攻撃が当たった瞬間、ガーディアが見事に砕けた。それを見たテラーさんが咄嗟に光魔法で威力を殺したからよかったものの、僕も背中に怪我をした。
 ちらりと他を見ると、みんな多少は怪我をしているようだった。アイリーンさんがチョコを配っているのがわかる。


「はーい、ウタくんとテラーの分ね、これー」

「ありがとね、アイリーン。あんたがいなけりゃどうなってたか」

「ありがとうございます」

「いえいえー」


 もらったチョコを口に運ぶと、舌の上でトロリと溶けて、甘いものが広がった。あぁ、美味しい……これぞ地上の恵み! チョコレート万歳! 僕はチョコレート狂信者じゃないよ!


「……ウタ、」

「え、あ、うん? どうしたのスラちゃん」


 不意に、おずおずと言った感じでスラちゃんが僕に話しかけてくる。その様子はどこか遠慮がちで、下を向いていた。


「……どうしたの?」

「だって……! ウタ、ぼくのこと、庇ったでしょ? だから怪我したんでしょ?」

「…………」


 そういえばそうだった、と、今更ながらに思った。あのとき、咄嗟に自分の後ろにいる、誰よりも弱い存在を守らないとって、必死だった。
 小さな体を抱き締めて、自分の体に力をいれて、なるべく衝撃が伝わらないようにするために……必死だった。


「本当は……使役されてるぼくが、ウタのこと守らなきゃいけないのに。ぼく、スライムだから。ドラくんみたいに、強くないから。
 ……守られてばっかりで、ごめんなさい」

「…………」


 僕は何も言わないで、ポンポンとその頭を撫でた。


「……ウタ?」

「あはは……。
 ね、スラちゃんは僕とずっと一緒でしょ? だから、僕がどんな人なのか、大体わかるよね?」


 戸惑ったようなスラちゃんに、僕は続けた。


「ヘタレで、弱虫で、前なんてちょっと血を見ただけで気絶しちゃうような人間だ」

「そうだけど、でも!」

「僕を助けてくれてたのは、スラちゃんだよ。ずっと、助けてくれてるんだよ。
 スラちゃんは弱くないよ。それでいいんだよ」

「っ……ばか。ばかばかばか! ウタのばーか!」

「あはは、そうだね」

「ウター、スラちゃーん! そろそろ次いくぞー!」

「はーい! ……いこっか」

「うん。
 ……ヘタレな分、優しいのが、ウタのいいところだよ」


 それは、聞かなかったことにした。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 ジュノンさんが魔物を一掃した部屋の奥には扉があり、そこからまた廊下が続いていた。


「RPGならその辺に宝箱置いてあるのに、不親切だなぁ」

「いやジュノン、それは流石にないよ」

「テラー、そっちはさっき来た方だよー?」

「あっれー?」

「お、歩くマン使う?」

「使ったって意味ないでしょ」


 うーん、しまらないなぁ。不意に、アリアさんが個性の塊'sのみんなに訊ねた。


「なぁ、今向かってるのは、どの辺りなんだ?」


 ちょっと考えたあと、ドロウさんが答える。


「四天王がいるところ……かな」

「四天王!」


 あの、二秒で倒したっていう、あの! そこに向かってるんですか!?


「まー、あいつらもいちいち殺るのめんとくさいし、『どうでもいいし』で一掃」

「しないでね、ジュノン。あの辺は封印する決まりなんだからさ」

「ちぇー」

「やる気満々だったんですね」

「違うぞ少年! ジュノン氏の場合は、『殺る気満々』だっ!」

「おさく?」

「殺られるー!」


 ……こんなノリでやられちゃう四天王も四天王だなぁ、とか思いつつ進んでいくと、突き当たりに一際大きな扉があった。
 それを躊躇いもなくジュノンさんが開け放つ。そして、そこにいたのは、


「よく来たな勇者よ!」

「殺るぞ」

「「「「了解」」」」

「即答!?」


 えー、四天王は三人しかいません! 前にベリズ倒しちゃったからかな? ちょっとデブっとした男性一名、なぜか服が萌え袖の男性一名、中肉中背中年の男性一名。……何がどうしたわけではないけれど、なんかこう……いらっとする。

 ……なーんて思ってたら、


「侍の心得」

「フラッシュランスエクステンド」

「レインボー」

「ジャッジメントー!」


 効果音という効果音もつけられないような凄まじい破壊音。それが鳴りやみ、砂ぼこりもおさまったその時には、もう四天王たちはみんなのびていた。

 ……え、えー?


「ジュノンさんのこと言えませんね!?」

「いやぁ、仲間を狙わないだけましでしょ」

「別に殺そうとしてなかったじゃーん」

「いやあれ、ガーディアのタイミングずれてたら確実に死んでたよ?」

「ちょっと何言ってるかわからないなぁ」

「ジュノン、チョコあげるから、理解して」


 ……これ、魔王戦どうなるんだろう。今からスッゴク怖いんだけど。


「……ウタさん、私たちが、ついてきた意味ってなんでしょうか」

「んんんん……」

「今のところおいらたち、被害被ってばっかりだよな?」

「んん……」

「ウタ……」

「気づかないふりをしましょう」

「「「「了解リーダー」」」」


 Unfinishedは仲がいいなぁ。あはははは。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

届かなかったので記憶を失くしてみました(完)

みかん畑
恋愛
婚約者に大事にされていなかったので記憶喪失のフリをしたら、婚約者がヘタレて溺愛され始めた話です。 2/27 完結

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)

ラララキヲ
ファンタジー
 学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。 「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。  私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」 「……フフフ」  王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!  しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?  ルカリファスは楽しそうに笑う。 ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました

上野佐栁
ファンタジー
 前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

処理中です...