上 下
199 / 387
魔王だよ! 全員集合!

個性の塊's

しおりを挟む
 学校で感じたのと同じ、あの感覚がよみがえる。
 目の前に立っているのは、マーラーと名乗っていたあの女性。左手には薬品の入ったビーカーを持ち、扉の外から漏れる光で逆光に映るその人の目は、怪しく光っていた。


「あ……の、えっと…………」

「他人の部屋に勝手に入るのは、良くないと思うなぁ?」


 そうですね! そうですね! 僕が悪かったですごめんなさいっ!
 ででででも、だからって殺すことはないと思うんですよ?! 分かります? 殺すことはないと思うんですよ!


「お前は……ま、マーラーじゃ、ない、のか…………」


 アリアさんが苦し紛れにそんな分かりきったことを言う。それを聞いたその人は、よりいっそう楽しそうに笑いながら、全く笑っていない眼をこちらに向ける。


「あれはねー、ちょっと惑わせたかっただけなの。本気に受け取っちゃダメだよ? ……分かってたくせに、ねぇ?」


 コツ、と音がする。その人が、僕らに一歩近づいたのだ。足がガクガク震えて動かない。ヤバイ……これは、本格的にヤバイ!


「う、ウタにぃ!」

「ウタさん!」

「ウタっ!」

「ぼぼぼ、僕に言われてもぉ!」

「ぷるぷるっ!(なんとかしてよっ!)」

「スラちゃんまで!?」


 どどどどどどうしよう! みんな僕の後ろに隠れる。というより、僕を盾にしてるよねこれ!? もう! こういう肝心なときに『勇気』は発動しないんだから!

 コツ……と、また一歩、その人は僕らに近づく。そして、右手をスッと僕らに向けた。も、もうだめだぁ! 無理だぁ! 殺されるぅ!
 そう思って目を閉じた瞬間だった。バタバタと慌ただしい足音が聞こえ、そして、


「ジュノーーーーーンっ!」

「うぇっ?! え、ちょ、今!?」

「……ん、え?」


 かけられていたプレッシャーが軽くなり、何事かと目を開けると……。


「会いに来たよー」

「あ、アイリーン!? 今、来る!? 今!?」


 ……その人……まぁ、やっぱりジュノンさんだったわけだけど、ジュノンさんにアイリーンさんが抱きついて、そして、


「すやぁ」

「寝るな!」


 寝た。
 ……えー、こ、これはどうしたらいいの? だって、ジュノンさんなんか薬品持ってるし、危ない…………。でも、なんか、近づきたくないしなぁ……。

 そしてその時、救世主あらわる!


「……なにやってんのジュノン」

「テラーさん! 助けてください!」

「おうおうおう、どうしたどうした。
 ……HCl……それ、塩酸? 持つけど」

「濃塩酸ね。でも助かる、アイリーンが寝ちゃったんだよぉ。あ、それ向こうの濃硝酸と3:1で混ぜといてー」

「まーた王水作るの? ま、いいけどさぁ」


 そんな会話をしながらテラーさんはジュノンさんからビーカーを受け取り、僕らの横を通り抜けて、後ろの作業台のような場所にあった液体と混ぜる。


「……で、ウタくんたちはどうしてそこで立ち尽くしてるのさ? 奥にソファーあるけど……座らせちゃっていいよねー、ジュノーン」

「あーいいよいいよー。紅茶とコーヒーあるから淹れてあげればー?」


 すると、再び扉の向こうから足音がする。


「あっ、もう結構いる? おさくだけ? いないの」

「んー? ドロウじゃーん! みんなどしたの? 急に大集合しちゃってさ」

「いや、実はね」

「ちょ、ドロウ! おさく来てからにしよーよ。どうせなんか売ってるんでしょ。あ、ウタくんたちはこっちねー」

「え、え?」


 ……僕らは戸惑ったその状態のまま奥に通された。
 いや……あの、なんかふっかふかのソファーに座ってるのに、全くリラックス出来ないこの状態はなんなのでしょうか。周りには変な機械いっぱいあるし、でっかめのビーカーでなんかこぽこぽいってるし、もう怖い。帰りたい……。


「やぁ! 元気か少年少女!」

「まっっったく元気じゃないですっ!」

「あれれー? おっかしいぞー?」

「唐突な名探偵コナン止めてください!」

「お?」


 もうやだ……個性の塊's怖い……。
 ボク、イエ、カエル…………。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 僕らの前には、ティーカップがそれぞれひとつ。僕らから見て左側にはおさくさんとテラーさん、右側にはドロウさんとアイリーンさん(まだ寝ている)。
 そして、向かいには、個性の塊'sのリーダーさん。……正直、手をつける気にならない。


「……毒とか入ってないよ?」

「……そう言われると逆にしんぱ」

「はいってないよ?」

「イタダキマス」


 与えられる威圧に耐えきれなくてお茶に手をつける。……あ、案外美味しい。


「……あんまりいじめないであげなよ」

「えー? 楽しいじゃーん!」

「……出ました出ました。ジュノンさんの自分の実力理解していない発言。このことをどうお考えですか? 実況のテラーさん」

「そうですねぇ。やはり、自分の威圧が普通のものを凌駕してしまっているという自覚を、しっかり持っていただきたいですね」

「ウタくんたちは普通の人ですから、魔王の威圧には耐えられないでしょうね」

「魔王じゃありませーん」

「……などと供述していますが」

「お、さ、く?」

「ハーイ退散しまーす」


 ……なんだこのカオスな空間。僕らの方はなにも言えない。こ、これが個性の塊'sなのか……? そうなのか……!?


「……で、なんでみんな集合したわけ? 遊ぶの今度でしょ?」

「んー……? あー、それはねー」

「あ、アイリーン起きた」


 そして、塊's全員が、目を輝かせながらジュノンさんに言う。


「朗報だ!」

「えー、めんどくさいことやだなぁ」

「魔王が復活したぞ!」

「よし殺りに行こう!」


 ……んんんんん???
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

届かなかったので記憶を失くしてみました(完)

みかん畑
恋愛
婚約者に大事にされていなかったので記憶喪失のフリをしたら、婚約者がヘタレて溺愛され始めた話です。 2/27 完結

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)

ラララキヲ
ファンタジー
 学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。 「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。  私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」 「……フフフ」  王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!  しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?  ルカリファスは楽しそうに笑う。 ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました

上野佐栁
ファンタジー
 前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。

処理中です...