上 下
186 / 387
迷子の迷子の冒険者捜索!

何はともあれ

しおりを挟む
「……つまり、こういうことか?」


 アリアさんが言う。ここは、サイカくんとメロウちゃんの家。僕らの泊まっている宿だと、部屋が少し狭いからここを貸してもらった。


「ポロンは、自分が利用されるかもしれないと思って、もしもの時はサイカたちに私たちを助けるようお願いしていたってことだな?」

「最悪、自分を殺すことになってもいいって言ってたよ」

「それ聞いたとき、ほんとかよって思ったけどな」

「本当だった……」


 サイカくんともう二人がそう呟く。一人は男の子でラーラくん。もう一人は女の子のミシャちゃん。ミシャちゃんの方は大人しそうな感じ、逆にラーラくんは活発な感じだ。
 二人とも、サイカくんの話を聞いて、ポロンくんや僕らの顔も知らないのに、協力してくれたんだ。


「……仲間を想うのはいいこと。でも、自分のことも大事にしないとダメ」


 ミシャちゃんがそう言い、ポロンくんの頭を軽く叩く。ちょっと顔をしかめて、ポロンくんはぷくっと頬を膨らませた。


「しょ、しょーがねーだろ? おいらだって、したくてそんな選択したわけじゃないやい! ただ……レクスがおいらを使ってゆすってくる可能性があるのは分かってたから、アリア姉が捕まったり、ウタ兄とフローラが殺されたりするよりはましかなって」

「ましって……ポロン! 私たちは、ポロンが死んじゃう方が嫌だよ!」

「だ、だっておいらは!」

「はいはい。二人とも喧嘩しないで。みんな無事だったからよかったじゃん。ね? アリアさん」

「まぁ……そうだな」


 何はともあれ、捕まっていた人たちも、売られる前に全員捕まったし、人身売買のグループは、所属している全員が捕まってギルドに連れていかれた。
 行方不明になっていた子達も、家族のところに帰れて万々歳ってことだ。


「……そういえば、ポロン」

「ん? なーにアリア姉!」

「レベル的に、お前にレクスの『操り人形』が効かなかったのは不自然じゃないか? だって、95? だったんだろ?」

「え、あ、はい」


 そういえば不自然だ。レベル差が70近くあるのに、どうしてポロンくんは、『操り人形』を退けることが出来たのだろうか。


「あー……えっと、それはな……。
 実は、おいらの力じゃないんだ」

「つまりどういうことなんだ?」

「サイカたちは知らないだろうけどさ……これ、持ってたからおいら、助かったんだ」


 そう言いながらポロンくんがアイテムボックスから取り出したのは、単語帳だった。


「みんなを逃がしたあと、レクスがおいらを操ろうと思って入ってきたんだ。すぐにはその意図に気づけなかったんだけど、あいつは、全部分かってるみたいだった」


 ……怖かっただろうな、ポロンくん。一人で、どんな目に遭わされるかも分からないなか、レクスに追い詰められて…………。


「おいら……自分が利用されるのは分かっていたけど、まさか自分で仲間を傷つけることになるとは思っていなくて。ちょっとパニックになったんだ。
 そしたら、これが光って、迷う前に、とにかく唱えてみたんだ」


 ポロンくんがそのページを見せる。そこにあった単語は、dismiss。意味は、無視をする、だ。
 ……ちなみに語呂合わせは、『ディスってミスって無視をする』相変わらずひどい。


「これを小声で言ったあと、レクスに『操り人形』を使われたんだけど、なんともなくてさ。スキルの効果を、『無視した』んだって分かった。これのおかげで、おいらは操られなくて済んだんだ」


 ……最初買わされたときは何事かと思ったけど、何だかんだで役に立っている。塊'sに会えてなかったらと思うことが何度あったことか……。
 しかも、おさくさんのあの言葉……きっと、ポロンくんが単語帳の力を使ったことも分かっていたのだろう。だから、僕に『目と耳で得たことを信じるな』つまり、『ポロンくんが操られていると言う事実を信じるな』と、ヒントを出してくれたのだ。


「……ちょっとは、見直してくれたかな?」

「はい、すっごく見直しました!」

「それはよかった! やっぱねー、グッドオーシャンフィールドは、みんなに愛されてこそ成り立つものだからねー」

「そうですねー、企業とかお店は愛されてなんぼ……」

「……えっ、と、ウタさん、その人…………」


 サイカくんが指差そうとして、失礼だと思ったのか、微妙な形の手を差し出す。
 僕の隣にいる元Sランク冒険者……おさくさんは、いつの間にかサイカくんの家にあがりこんで、ニコニコしながら僕らの話を聞いていた。


「よっす!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「なんだよー、驚くなよー」

「驚きますよ! そりゃあ! 何でいるんですか!?」

「楽しそうなこと話してるかなーって思ってさ!」

「おさく! なんか塊'sっていつも神出鬼没だな! 来るなら来ると言ってくれ! ポロン助けてくれてありがとな!」

「わぁお。ツンデレともなんとも言えない反応ですなー。お邪魔してまっせー!」

「あ、はい」

「キャラ濃いなぁ」

「ラーラ、黙る」


 呆気にとられるサイカくんたちを見ながら、おさくさんは不意に言う。


「サイカくんたちのパーティー名は何て言うのー?」

「あ、『雪月花』です。みんなのイメージを合わせて……」

「ふんふん、ウタくんたちは?」

「……あ」


 そういえば、パーティー名考えてない。


「あのね? 老害が言うまいと思ってたけどさ……いい加減考えなさいな!」

「は、はーい……」


 課題、パーティー名案を作る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...