チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

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迷子の迷子の冒険者捜索!

現場

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「えっと……南に50、東に90…………。今どこだろう」

「ちょっと待ってくれ、現在位置は……」


 僕らは今、歩くマン片手に南に50、東に90の場所を探している。昨日宿屋で位置情報を試したところ、この『現在位置』という機能は、グッドオーシャンフィールド本店から○○にいくつ、○○にいくつということがわかる。
 アリアさんいわく、地図上で緯線経線に沿って一定の間隔で距離をとり、それを示しているんじゃないかと……。まぁ、RPGにおける一マスっていうのを、実際の地図で表現しているわけだ。

 歩くマンから聞こえるおさくさんの声を頼りに、僕らはひたすら言われた場所を目指した。


『グッドオーシャンフィールドの商品は高すぎる? ……ふっ、この商品の価値がわからないなんて、駄目ヒューマン』


 ……ブルゾンち○みかな?


『グッドオーシャンフィールド本店までは南に41、東に86だよ!
 グッドオーシャンフィールドは常に良い商品を揃えております!』

「もう少しみたいだな」

「あともう少し北上してみましょうか。もう大分山に差し掛かってきちゃいましたけど」


 そう、グッドオーシャンフィールドまで南に50、ということはグッドオーシャンフィールドから50、北上すれば良い。しかし、そもそもあのお店があるのは王都である。
 ハンレルの北の海沿いには、火山噴火による山がある。そっちの方に向かってどんどん歩いていって、山の麓の森に入って、もうずいぶん過ぎた。見上げれば大きなゴツゴツとした山がそびえ立つ。


「疲れたなぁ」

「でも……もし、メロウとサイカが人身売買の商品として捕まってるなら、こんな良い場所はないやい。一目につかなくて、日当たりが良いなら魔物も寄り付かない。隠れるにはもってこいだい」

「…………」


 ポロンくんの横顔が、なんとなく悲しい。今のも、キルナンスの知識だろう。本当は知りたくもなくて、知らなくてよかったような知識。堂々と話しているようで、少し負い目を感じているみたいだ。


「……ウタ兄?」

「え?」

「大丈夫だよ、おいら」


 そんな僕の想いも、ポロンくんに簡単に見透かされる。


「おいら、ウタ兄とアリア姉とフローラがいれば、おいらのままでいられるから。ポル・ポロンでいられるからさ、大丈夫だよ」


 ……仲間ってものには、本当に敵わない。そう、改めて感じた瞬間だった。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


『グッドオーシャンフィールド本店までは、南に50! 東に90だよ!
 グッドオーシャンフィールドは常に良い商品を揃えております!』

「ここですね……」

「あぁ、でも……」


 僕らは、この歩きマンが言うところの『南に50、東に90』の場所にたどり着いていた。……しかし、そこには驚くほど何もなく、少しひろめの原っぱのようなものがあるだけだった。


「おかしいな……」


 そのとき、アイテムボックスからなにかの気配がした。びっくりして取り出すと、それは英単語帳だった。
 光っている……。僕は光で指定されたページを開き、その単語の語呂合わせを、少し小さめの声で口にした。


「イラストレート、描いて示して説明する」

「本当に便利だな、この単語帳」


 単語自体は『illustrate』意味は『示す、説明する』だ。
 僕がそれを読み上げると、ほわんと優しく視界が揺れて、なにか別なものが示された。……多分、偽装かなにかが解除され、本来のものが『示された』のだろう。

 そこには、たくさんの子供が集められ、互いを縛り付けられ、その場に座らされていた。その周りには何人かの大人たち。ポロンくんの体に、ぐっと力が入るのが分かった。


「やっぱり人身売買だったか」


 アリアさんが呟く。


「でも、どうやって助けましょうか。人は少ないですけど、レベル、多分かなり高いです。ウタさんの『勇気』も確率なので、あんまり過信しすぎない方が良いと思います」


 確かにそうだ。塊'sのような、確実にステータスアップできるスキルならともかく、僕の、宝くじ的なスキル―しかも発動時間がウルトラマン――を信じて突っ込むのは得策ではない。
 僕らが悩んでいると、ポロンくんがそっという。


「……あのさ、おいら、良い作戦あるんだけど、聞いてくれる?」

「もちろん聞くよ」


 それからポロンくんは、僕らにこそっと耳打ちした。僕とアリアさんはそれを聞いて、ほぼ同時にこういった。


「「それなら」」

「僕が」

「私が」


 そんな作戦、ポロンくんにさせられない。その気持ちは僕もアリアさんも一緒だった。フローラもなにも言わないが、そんなことさせたくないはずだ。


「おいらじゃなきゃ駄目なんだよ、ウタ兄。おいらじゃなきゃ、駄目なんだよ……アリア姉」


 ポロンくんは、そう笑う。


「確かに、途中までは他の人でも良いかもしれない。でもそのあと、おいらじゃなきゃ駄目なところがある。
 おいらはさ、みんなと戦いたくないから、だから、こうやって言ってるんだい。おいらなら大丈夫。

 おいらなら、できるから」


 ……その目は、自信に溢れていた。あのとき、半ば震えながら僕にナイフを突きつけたポロンくんはどこにもいない。成長した、立派な男性だった。


「……ウタ、」

「そうですねアリアさん……信じましょう。僕は信じます」

「ポロン、私も、信じてるからね」

「……うん。
 おいらっ……! こんな過去、嫌だって思ってて、今も嫌だけど、それを、役立てて見せるよ!」


 そう誇らしげに笑いながら、ポロンくんは大人たちの前へ丸腰で出ていった。
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