173 / 387
迷子の迷子の冒険者捜索!
目的地を目指すぜ!
しおりを挟む
おさくさんとアリアさん、フローラが世界を広げるという意味の分からない話をしたあと、僕らは一度宿屋に戻ることにした。情報もよくわからないものばっかりだったし、一度整理しようということなのだ。
「……で、なんの世界ですか?」
「ウタ兄!?」
「……お前それ、聞くか? 普通」
「え? ポロンくん知りたくない?」
「気になりはするけど、触らぬ神に祟りなしな感じがする」
「ポロン、そんな言葉知ってるんだ。頭良いね!」
「今それ関係ないよね、フローラ!?」
えー、だって気になるじゃん。世界広げるとかパワーワードだし。なんか楽しそうに話してたし。
アリアさんとはずっと一緒に旅してるけど、こんなに女がよかったと思ったのは寝るときを除けばこのときだけだ。
たのしそう! まざりたい! それをどれだけ我慢したか!
……ここにきて我慢の限界だったわけだけど。
「本当に分からないんだな……。男だからか?」
「多分男だからです」
「男でも存在は知ってると思うけどな……って、この話やめようか」
「えー」
「えーじゃない」
すると、そんな僕らを見て、フローラがくすりと笑う。いきなりなにかと思いそちらを見ると、優しく顔をほころばせた。
「……本当、お二人に変わりがなくてよかったです」
「え? 逆に、変わってると思ってたの?」
「……マルティネスで、あれだけ色々あったんだい。おいらたちが知らないところで、ウタ兄とアリア姉に何か良くないことがあってもおかしくないと思って」
その言葉に、僕とアリアさんは顔を見合わせた。
……僕らの間に悪いことが、何もなかったわけじゃない。二人に言えないこともある。例えば、声を失ったアリアさんが、僕にいっていたこととか。アリアさんが死のうとしたこととか。僕が死にかけたことだってそう。それでアリアさんが負い目を感じて、犠牲になろうとしたこともそう。
仲間だからこそ、言えないこともある。
僕がなんて返そうか迷っていると、アリアさんがぽんぽんとポロンくんとフローラの頭を撫で、優しく優しく笑う。
「そりゃ、悪いことだってあったさ。でも、それよりも良いことの方が多かったんだ。だから、二人が心配しなくても、大丈夫だ」
「本当……ですか? 良いこと、ありましたか?」
「あぁ」
「例えば、どんな!?」
ポロンくんがいうと、アリアさんは僕をちらりと見ながらいう。
「例えば……ウタがすっごく優しいってことが分かった!」
「え、僕?」
「アリア姉ー、それ、おいらたちも知ってるー」
「えー? じゃあなー……あ! 美味しい料理が食べられた!」
「他には……?」
「そうだな、やっぱりディランの情報が手に入ったのも大きいな。ずっと探してたわけだし」
でも、と一息ついて、アリアさんは静かに目を閉じて小さく、本当に小さく呟いた。僕らが誰一人聞き取れないほど小さく。
「 」
「……え? 何て言いました?」
「……二人にまた会えたことだよっ!」
「わっ!」
アリアさんはそう言って二人を抱き締めるが、僕にはわかる。アリアさんはそうは言っていない。アリアさんは……。
「私が生きているのが一番か」って。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「ふぅー……」
宿屋に戻ってくると、アリアさんはそう息をつきながら布団の山に倒れ込んだ。掛け布団と敷き布団、それらが二組ずつ重ねられたそこはボフンという音をたてて、アリアさんの華奢な体を迎え入れる。
「大丈夫ですか?」
「んー……疲れた」
「久々に歩き回ったからですかね。僕も疲れましたよ」
「ウタ兄ー、今日はもう休もうよ。夕方になってきてるし、おいらもちょっとだけ疲れちゃった」
「そうだね、そうしよっか。
おかみさんが、7時頃に食堂が開くって言ってたから夕食はそこで食べようか」
「さんせーい! 私はちょっと寝るから、起こしてくれ……」
アリアさんはそういうと、ばふっと倒れ込んだ体を起こし、ちゃんと布団を下ろし、掛け布団にくるまって目を閉じる。ポロンくんとフローラも、各々好きなように過ごし始める。
僕は部屋の明かりを一段階落としてカーテンを閉めると、壁際のところに座り込んで『歩くマン』を取り出した。
ちなみにこの部屋は畳なのだ。
もう一度いう。畳なのだ!
あの独特の良い匂いが鼻孔をくすぐる……。あぁ……日本、これぞ日本のかほり。素晴らしい。へりには金色の細かい模様が施させていて、とっても雅だ。
それはさておき、問題の歩くマンだ。見かけは本当のウォークマン。縦長で、上に液晶、下に丸い操作用ボタンがついている、あれだ。
僕はいつだかもらったイヤホンを歩くマンに差し込み、『ザナルカンドにて』を流す。
静かなピアノの音が流れ出す。下手に音源重ねてないのに、すっごく綺麗な曲だ。
それを聞きながら、僕は他の機能をいじっていた。
テレビ……電波が繋がりません。
ラジオ……電波が繋がりません。
録音……今する必要はありません。
ライブラリ……ザナルカンド一曲です。
設定……要領がすでに98%。
そんななか、あの、位置情報のアイコンが気になった。どんなアイコンかというと、スマホのステータスバーを下ろしたときに出てくるような……丸の中に点を描いて、下を尖らせたみたいな、あの形だ。
他にやれそうなこともないので、それを開いてみると、音楽が一時停止され、おさくさんの声が流れた。
『グッドオーシャンフィールド! 名前の由来が知りたい? 残念! 個人情報さっ!』
……位置情報? ガクッときて音楽を再開しようとした瞬間、またおさくさんの声がした。
『グッドオーシャンフィールド本店までは北に1、東に4だよ!
グッドオーシャンフィールドは常に良い商品を揃えております!』
…………。
「これかぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわっ?!」
謎が、解けた。
「……で、なんの世界ですか?」
「ウタ兄!?」
「……お前それ、聞くか? 普通」
「え? ポロンくん知りたくない?」
「気になりはするけど、触らぬ神に祟りなしな感じがする」
「ポロン、そんな言葉知ってるんだ。頭良いね!」
「今それ関係ないよね、フローラ!?」
えー、だって気になるじゃん。世界広げるとかパワーワードだし。なんか楽しそうに話してたし。
アリアさんとはずっと一緒に旅してるけど、こんなに女がよかったと思ったのは寝るときを除けばこのときだけだ。
たのしそう! まざりたい! それをどれだけ我慢したか!
……ここにきて我慢の限界だったわけだけど。
「本当に分からないんだな……。男だからか?」
「多分男だからです」
「男でも存在は知ってると思うけどな……って、この話やめようか」
「えー」
「えーじゃない」
すると、そんな僕らを見て、フローラがくすりと笑う。いきなりなにかと思いそちらを見ると、優しく顔をほころばせた。
「……本当、お二人に変わりがなくてよかったです」
「え? 逆に、変わってると思ってたの?」
「……マルティネスで、あれだけ色々あったんだい。おいらたちが知らないところで、ウタ兄とアリア姉に何か良くないことがあってもおかしくないと思って」
その言葉に、僕とアリアさんは顔を見合わせた。
……僕らの間に悪いことが、何もなかったわけじゃない。二人に言えないこともある。例えば、声を失ったアリアさんが、僕にいっていたこととか。アリアさんが死のうとしたこととか。僕が死にかけたことだってそう。それでアリアさんが負い目を感じて、犠牲になろうとしたこともそう。
仲間だからこそ、言えないこともある。
僕がなんて返そうか迷っていると、アリアさんがぽんぽんとポロンくんとフローラの頭を撫で、優しく優しく笑う。
「そりゃ、悪いことだってあったさ。でも、それよりも良いことの方が多かったんだ。だから、二人が心配しなくても、大丈夫だ」
「本当……ですか? 良いこと、ありましたか?」
「あぁ」
「例えば、どんな!?」
ポロンくんがいうと、アリアさんは僕をちらりと見ながらいう。
「例えば……ウタがすっごく優しいってことが分かった!」
「え、僕?」
「アリア姉ー、それ、おいらたちも知ってるー」
「えー? じゃあなー……あ! 美味しい料理が食べられた!」
「他には……?」
「そうだな、やっぱりディランの情報が手に入ったのも大きいな。ずっと探してたわけだし」
でも、と一息ついて、アリアさんは静かに目を閉じて小さく、本当に小さく呟いた。僕らが誰一人聞き取れないほど小さく。
「 」
「……え? 何て言いました?」
「……二人にまた会えたことだよっ!」
「わっ!」
アリアさんはそう言って二人を抱き締めるが、僕にはわかる。アリアさんはそうは言っていない。アリアさんは……。
「私が生きているのが一番か」って。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「ふぅー……」
宿屋に戻ってくると、アリアさんはそう息をつきながら布団の山に倒れ込んだ。掛け布団と敷き布団、それらが二組ずつ重ねられたそこはボフンという音をたてて、アリアさんの華奢な体を迎え入れる。
「大丈夫ですか?」
「んー……疲れた」
「久々に歩き回ったからですかね。僕も疲れましたよ」
「ウタ兄ー、今日はもう休もうよ。夕方になってきてるし、おいらもちょっとだけ疲れちゃった」
「そうだね、そうしよっか。
おかみさんが、7時頃に食堂が開くって言ってたから夕食はそこで食べようか」
「さんせーい! 私はちょっと寝るから、起こしてくれ……」
アリアさんはそういうと、ばふっと倒れ込んだ体を起こし、ちゃんと布団を下ろし、掛け布団にくるまって目を閉じる。ポロンくんとフローラも、各々好きなように過ごし始める。
僕は部屋の明かりを一段階落としてカーテンを閉めると、壁際のところに座り込んで『歩くマン』を取り出した。
ちなみにこの部屋は畳なのだ。
もう一度いう。畳なのだ!
あの独特の良い匂いが鼻孔をくすぐる……。あぁ……日本、これぞ日本のかほり。素晴らしい。へりには金色の細かい模様が施させていて、とっても雅だ。
それはさておき、問題の歩くマンだ。見かけは本当のウォークマン。縦長で、上に液晶、下に丸い操作用ボタンがついている、あれだ。
僕はいつだかもらったイヤホンを歩くマンに差し込み、『ザナルカンドにて』を流す。
静かなピアノの音が流れ出す。下手に音源重ねてないのに、すっごく綺麗な曲だ。
それを聞きながら、僕は他の機能をいじっていた。
テレビ……電波が繋がりません。
ラジオ……電波が繋がりません。
録音……今する必要はありません。
ライブラリ……ザナルカンド一曲です。
設定……要領がすでに98%。
そんななか、あの、位置情報のアイコンが気になった。どんなアイコンかというと、スマホのステータスバーを下ろしたときに出てくるような……丸の中に点を描いて、下を尖らせたみたいな、あの形だ。
他にやれそうなこともないので、それを開いてみると、音楽が一時停止され、おさくさんの声が流れた。
『グッドオーシャンフィールド! 名前の由来が知りたい? 残念! 個人情報さっ!』
……位置情報? ガクッときて音楽を再開しようとした瞬間、またおさくさんの声がした。
『グッドオーシャンフィールド本店までは北に1、東に4だよ!
グッドオーシャンフィールドは常に良い商品を揃えております!』
…………。
「これかぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわっ?!」
謎が、解けた。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)
ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。
「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。
私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」
「……フフフ」
王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!
しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?
ルカリファスは楽しそうに笑う。
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました
上野佐栁
ファンタジー
前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる