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声にならない声を聞いて

続行します

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「おっと……。我はここまでだな」


 ドラくんは、かなりギリギリのところまで、僕らを連れてきてくれた。そして、ゆっくりと伏せ、僕らが降りられるようにしてくれる。


「ありがとね、ドラくん。……聞いてなかったけど、怪我はもう平気なの?」

「ん? あぁ。アイリーン殿からもらったちょこれいと? というものを食べたらすっかり傷が治った。とはいえ、お主らと違って体が大きいからな……。体力までは戻らなかったようだ」

「そっか。でも、怪我が治ったならよかった! ごめんね、無理させて」

「本当にごめんな……私、なにも出来なかったから」

「アリア殿やウタ殿が謝ることじゃない。……ほら、あちらを見ろ」


 ……アリアさんは、言われた方を見て、ドラくんの首にぎゅっと抱きついた。


「本当にありがとう……。いっつも助けてくれてるよな」

「え。あ……」

「大好きだ!」


 そして、僕より一足先に駆け出した。


「……そういうとこだよね、アリアさん」

「全く、我が人でないことをいいことに……。ウタ殿、何かあったらまた呼べ」

「うん、ありがと」


 そして、僕も駆け出した。アリアさんの姿を見て、一番最初に飛び出してきたのはエマさんだった。アリアさんはエマさんを見つけると、その胸のなかに飛び込んだ。


「エマっ……!」

「アリア……! ……おかえりなさい、アリア」

「っ…………」

「……アリア?」


 エマさんにしがみついて、肩を震わせたまま何も言わないアリアさん。それを見て、エマさんはハッとしたように言った。


「アリア……泣い、てるの?」

「……ぅ、悪いか…………?」


 聞こえてくるその声は、明らかに涙声で、エマさんは静かに笑いながら、アリアさんの頭を撫でる。


「ダメじゃないわよ。ダメなわけないじゃない。アリアが泣くなんてレアだもの」

「……うっさい」


 エマさんとアリアさんがそんな風にやり取りをしていると、他の人たちも集まってきて、二人を中心に人だかりができた。
 僕はそれから少し離れたところに立って、それを見ていた。すると、彰人さんか僕に歩み寄ってきた。


「よ、お疲れさん」

「彰人さん! ……無事、戻ってこれました」

「いやぁ、よかったよかった! 羽汰、お前、怪我はないか? 回復魔法くらいは使えるぞ?
 あいつと戦って、どうだった? 同じステータスだったんだろ?」

「あはは、大丈夫ですよ。怪我は、ちょっとありましたけど、回復してもらいましたし、ミーレスとのあれも……危ない場面はありました。でも、アリアさんが助けてくれましたから!」

「アリア様が? 俺は会ってないから分からないが、声、出なくなってたんだろ? なのにアリア様にねぇ。
 ん? そもそもどのタイミングで声が戻ったんだ?」

「話すと長くなりまして……。でも、あのときのアリアさん、すっごくかっこよくてですね!?」

「おーい、ウタ!」


 そんな感じで彰人さんとしゃべっていたら、急にアリアさんに呼ばれた。
 何事かと思って振り向くと、たくさんの人の間からアリアさんが顔をだし、ちょいちょいと手招きしていた。


「こっち来てくれ! お前のこと、改めてみんなに紹介しないとな!」

「え!? い、いいですよそんな……」

「なに言ってんだ羽汰! アリア様が、あぁ言ってるんだから! ほらさっさと行け!」

「うわわっ?!」


 彰人さんに、半ば無理矢理押し出され、僕は人混みを掻き分け、アリアさんの隣に立った。


「え、えっと……僕、これどうすればいいんですか?」

「そのまま立ってればいいんだよ」


 そういうと、アリアさんはスッと片手を高くあげた。とたんに、ガヤガヤとうるさかった辺りがしんと静まり返る。


「……みんなには、すごく……すごく、無責任で、自分勝手なことをしたと思っている。父上が殺されたとき、私はここにいなかった。混乱しただろうし、不安だったと思う」


 アリアさんの声は、そんなに大きくない。でも、よく通る。その言葉は、スッと胸のなかに染み込んでいった。


「本当は、私が国民を導かなくてはならないのに、心を病んで、声を失い、みんなの目の前で血飛沫を舞わせ、余計不安にさせた」


 でも、と、アリアさんは呟き、僕の背中に手をやる。


「ヤナギハラ・ウタ……こいつが、私のことを助けてくれた。必死に追いかけてきて、自分よりも格上の相手と戦い、そして勝った。……何回も」


 アリアさんは、また、前を見る。


「身勝手を承知で、言わせてほしいんだ。無理なら無理でしょうがない。私は国民を大切にしたいんだ。

 ……私は、五ヶ月前、ウタと一緒にこの街を出た。そこで、いろんな人に出会った。姫として、普通に過ごしてたんじゃ、絶対に会えない人に会って、絶対にいけない場所に行った。
 危険なこともあったけど、仲間のお陰で、こうして生きている」


 そして、目を瞑り、ゆっくりと開いて、投げ掛けるように言った。


「私は……っ、まだ、旅を続けたいんだ。王族がいない国なんて、そんなのあり得ない話だ。でも、どうしても行きたいんだ! ディランとも、まだ会えていない。

 そしてなにより! ……ここで止めたら、私は後悔する。父上との最後の約束を、破ることになる。それだけは、嫌なんだ。だから――」


 ……突然、手を叩く音が響いた。見ると、僕の知らない男性が、アリアさんを見て拍手していたのだ。そして、それにつられるように一人、また一人と拍手をし始め、辺りは、あたたかい拍手の音で包まれた。


「…………いい、のか?」


 すると、人混みから声が上がる。


「アリア様がいなくても、この国は大丈夫ですよ!」

「エヴァン国王と、アリア様の国だもんな!」

「投票とかしても、結果は見え見えだね」

「いってらっしゃい! アリア様!」


 エマさんが、一歩アリアさんに歩み寄る。


「ま、どうしても無理だったら戻ってきてもらうわよ。そうじゃなければ、私に任せて? そもそも、アリアはまだ18なんだから、女王としての公務は出来ないでしょ?」

「それはそうだが、でも、それはエマも一緒だし……本当に、本当にいいのか?」

「みんなの力を借りるわよ。20になったら、戻ってらっしゃい。それまでに、ディランを見つけて、ね」


 アリアさんは、この日何度目か分からない涙を流して、笑った。


「あぁ……」


 そして、大切な人に向かって、高らかに宣言した。


「旅は……続行します!」
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