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声にならない声を聞いて
入り口
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「……ここ、か」
……アイリーンさんに言われたところに来た。そこには、大きな西洋風のお城のような建物があった。パッと見、三階建て……。豪奢な造りで、綺麗だ。
しかし、少し神経を研ぎ澄ませればわかる臭い。……これは、血の臭い。
入り口は高い門で閉ざされていて、3mはありそうだ。
「……飛び越えられるかな」
普段ならまず無理だが、『勇気』の力を使うことができる今ならば、出来るかもしれない。僕は10mほど後ずさり、勢いをつけて走りだし、そして、地面を強く蹴った。
……体はふわりと浮き上がり、軽々と塀を飛び越え、そして着地した。
普段なら絶対にあり得ない感覚。
…………僕がまだ、使いこなせていない感覚。
僕が着地して前をみると、そこにはミーレスがいた。
「……こんにちは、待っていたよ」
「アリアさんは、どこにいるんですか?」
僕は相手のペースに流されないように、ゆっくりと言葉を噛み締めながらそう言った。いつ切れるか分からない『勇気』……。切れたなら最後、僕はここで惨殺されて終わりだ。
僕はそれでもいいかもしれない。でも、それだとアリアさんを助けられない。
「アリアか? アリアはね、最上階の中央の部屋。……その特別な部屋にいるんだ」
ミーレスの視線の先をみると、三階建てのお城の真ん中、大きな窓がついた部屋を見つけた。外見から察するに、かなり大きい部屋だ。
カーテンは閉められ、中の様子を見ることはできない。
僕はキッとミーレスを睨み付け、剣の切っ先を、その首筋に向けた。
「……アリアさんを、返してください。アリアさんがいるべきところは、こんなところじゃない」
「ねぇ。
……元々、私の髪はくすんだ緑色だったんだ」
唐突に、ミーレスがそんなことをいい、僕のことを気にもせずに空を見上げる。しかし、あくまで通す気はないらしく、扉の前に立ち塞がる。
「くすんだ緑の髪に、オレンジがかった灰色の瞳……。挙げ句の果てに、肌は荒れ放題で出来物だらけ。貧乏で力もなかったからいじめられ、殴られてアザをつけて…………。あんまりな容姿だと思わないか?」
「…………」
ちょっとだけ、同情してしまった。
確かに、可哀想な要素がゼロな訳じゃない。そう思ってしまったのだ。
ミーレスがこうなったのにも、何らかの理由があるんだと。
「ある日ね、いじめで、いつもみたいに殴られたんだよ。それでさ、その時はあいつら、相当イライラしてたんだろうねえ……。
私に向かって、ナイフを振り上げ、そして切りつけたんだよ」
「…………え」
「びしゃーって血が飛び散ってね、私は半ば気を失ったよ。それにびびったのか、他のやつらは逃げてった。
一人で放置されて、もう無理かもしれないと思っていた。両親はどうせ私のことなんて愛していない。世間体を気にするだけの鬼だったのさ」
そこで……と、ミーレスの顔つきが変わる。今までとは全く違う、気味の悪い笑顔だった。
にたぁっと笑ってミーレスは、感情を露にする。
「そのとき! アリアを見たのさ! 馬車で移動しているだけだった幼いアリアを見たんだ!
……それだけじゃない。アリアは馬車を止めて私のもとへ来て、手当てまでしてくれたんだ」
「……アリアさんなら、そうするでしょうね」
ミーレスは思い出すようにうっとりと虚空を眺めながら、悠々と語る。
「そのとき、私の血液が、アリアの髪を濡らした。……それが、その姿が、あんまりにも美しいもんだから、私は思わず、一生懸命手当てする、アリアの横顔を見つめ続けた」
……そのとき、なのだろう。ミーレスがこんな感性を持ってしまったのは。そう考えると、ミーレスはただの犯罪者、というだけでもないように感じる。
でも……僕にとって、一番大事なのは、そんなことじゃない。
「……運命だと思った。
私は、はじめて『恋』というものを知ったのさ。アリアの行くところは全部調べて、アリアの行動は城の中でのことを除くと、ほとんどしっている」
……なんなんだろう、こいつ。
異常性が、さらに強く出てきてしまった。
気持ち悪い――気持ち悪い――気持ち悪い――――。
あまりの気味の悪さに、僕は吐き気を催した。逆流してくる胃酸を、どうにかこうにかして詰め込む。
僕が今、一番すべきことって……?
……間違いない。彼を……ミーレスの暴走を止めること。
「私はそのあとすぐにマルティネスを離れてしまったから、アリアは私を覚えていなかったんだね。……でも、それで構わない。アリアが何を思っていようと、私は、最高の場所をつくったんだ」
「あなたはっ……確かに、アリアさんを想う気持ちを持っています。それは、認めます」
僕は絞り出すようにその言葉を発した。満足げにうなずくミーレスは、それで僕が帰ると思ったのか、笑いながらこんなことを言う。
「なら、さっさと帰ってくれるかな? 私はアリアを愛しているんだ。それだけで十分だろ?」
「あなたにとってはそうかもしれない。……でも、」
僕は、ミーレスの目を、真っ直ぐに見た。
「お前が想っているのは、血に汚れたアリアさんであって、アリアさんじゃない。本当に愛してはいない。だって、アリアさんのことを全く考えていない!」
「……へぇ」
ミーレスは自分の後ろにある扉を、ゆっくりと開き、その中に入った。
「じゃあ、示してみなよ。本当の『愛』ってやつをさ」
ミーレスが扉の奥に消える。僕はすかさずそのあとを追いかけた。
……アイリーンさんに言われたところに来た。そこには、大きな西洋風のお城のような建物があった。パッと見、三階建て……。豪奢な造りで、綺麗だ。
しかし、少し神経を研ぎ澄ませればわかる臭い。……これは、血の臭い。
入り口は高い門で閉ざされていて、3mはありそうだ。
「……飛び越えられるかな」
普段ならまず無理だが、『勇気』の力を使うことができる今ならば、出来るかもしれない。僕は10mほど後ずさり、勢いをつけて走りだし、そして、地面を強く蹴った。
……体はふわりと浮き上がり、軽々と塀を飛び越え、そして着地した。
普段なら絶対にあり得ない感覚。
…………僕がまだ、使いこなせていない感覚。
僕が着地して前をみると、そこにはミーレスがいた。
「……こんにちは、待っていたよ」
「アリアさんは、どこにいるんですか?」
僕は相手のペースに流されないように、ゆっくりと言葉を噛み締めながらそう言った。いつ切れるか分からない『勇気』……。切れたなら最後、僕はここで惨殺されて終わりだ。
僕はそれでもいいかもしれない。でも、それだとアリアさんを助けられない。
「アリアか? アリアはね、最上階の中央の部屋。……その特別な部屋にいるんだ」
ミーレスの視線の先をみると、三階建てのお城の真ん中、大きな窓がついた部屋を見つけた。外見から察するに、かなり大きい部屋だ。
カーテンは閉められ、中の様子を見ることはできない。
僕はキッとミーレスを睨み付け、剣の切っ先を、その首筋に向けた。
「……アリアさんを、返してください。アリアさんがいるべきところは、こんなところじゃない」
「ねぇ。
……元々、私の髪はくすんだ緑色だったんだ」
唐突に、ミーレスがそんなことをいい、僕のことを気にもせずに空を見上げる。しかし、あくまで通す気はないらしく、扉の前に立ち塞がる。
「くすんだ緑の髪に、オレンジがかった灰色の瞳……。挙げ句の果てに、肌は荒れ放題で出来物だらけ。貧乏で力もなかったからいじめられ、殴られてアザをつけて…………。あんまりな容姿だと思わないか?」
「…………」
ちょっとだけ、同情してしまった。
確かに、可哀想な要素がゼロな訳じゃない。そう思ってしまったのだ。
ミーレスがこうなったのにも、何らかの理由があるんだと。
「ある日ね、いじめで、いつもみたいに殴られたんだよ。それでさ、その時はあいつら、相当イライラしてたんだろうねえ……。
私に向かって、ナイフを振り上げ、そして切りつけたんだよ」
「…………え」
「びしゃーって血が飛び散ってね、私は半ば気を失ったよ。それにびびったのか、他のやつらは逃げてった。
一人で放置されて、もう無理かもしれないと思っていた。両親はどうせ私のことなんて愛していない。世間体を気にするだけの鬼だったのさ」
そこで……と、ミーレスの顔つきが変わる。今までとは全く違う、気味の悪い笑顔だった。
にたぁっと笑ってミーレスは、感情を露にする。
「そのとき! アリアを見たのさ! 馬車で移動しているだけだった幼いアリアを見たんだ!
……それだけじゃない。アリアは馬車を止めて私のもとへ来て、手当てまでしてくれたんだ」
「……アリアさんなら、そうするでしょうね」
ミーレスは思い出すようにうっとりと虚空を眺めながら、悠々と語る。
「そのとき、私の血液が、アリアの髪を濡らした。……それが、その姿が、あんまりにも美しいもんだから、私は思わず、一生懸命手当てする、アリアの横顔を見つめ続けた」
……そのとき、なのだろう。ミーレスがこんな感性を持ってしまったのは。そう考えると、ミーレスはただの犯罪者、というだけでもないように感じる。
でも……僕にとって、一番大事なのは、そんなことじゃない。
「……運命だと思った。
私は、はじめて『恋』というものを知ったのさ。アリアの行くところは全部調べて、アリアの行動は城の中でのことを除くと、ほとんどしっている」
……なんなんだろう、こいつ。
異常性が、さらに強く出てきてしまった。
気持ち悪い――気持ち悪い――気持ち悪い――――。
あまりの気味の悪さに、僕は吐き気を催した。逆流してくる胃酸を、どうにかこうにかして詰め込む。
僕が今、一番すべきことって……?
……間違いない。彼を……ミーレスの暴走を止めること。
「私はそのあとすぐにマルティネスを離れてしまったから、アリアは私を覚えていなかったんだね。……でも、それで構わない。アリアが何を思っていようと、私は、最高の場所をつくったんだ」
「あなたはっ……確かに、アリアさんを想う気持ちを持っています。それは、認めます」
僕は絞り出すようにその言葉を発した。満足げにうなずくミーレスは、それで僕が帰ると思ったのか、笑いながらこんなことを言う。
「なら、さっさと帰ってくれるかな? 私はアリアを愛しているんだ。それだけで十分だろ?」
「あなたにとってはそうかもしれない。……でも、」
僕は、ミーレスの目を、真っ直ぐに見た。
「お前が想っているのは、血に汚れたアリアさんであって、アリアさんじゃない。本当に愛してはいない。だって、アリアさんのことを全く考えていない!」
「……へぇ」
ミーレスは自分の後ろにある扉を、ゆっくりと開き、その中に入った。
「じゃあ、示してみなよ。本当の『愛』ってやつをさ」
ミーレスが扉の奥に消える。僕はすかさずそのあとを追いかけた。
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