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声にならない声を聞いて
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それからまた三日経った。僕はアリアさんの部屋のカーテンを開く。綺麗に晴れ渡った空を見ながら、僕は大きく息をした。
「ふぅ……いい天気ですね」
アリアさんは椅子に座り机に向かったままペンを手に取ると、文字を書く。
『そうだな』
あの日以降、僕はほとんどの時間をここで過ごした。さすがに寝るときは部屋に帰っているが……寝つくまではいて欲しいとか言われて、ドキドキしながらアリアさんの顔を見ている……なんてことも。
もう……。こんな状況の時に言うことじゃないかもしれないけど、僕は男だし、アリアさんは女性なんですよ? ちょっとはこう……警戒心というか、そういうのを持っていただけるとありがたいのですが?
……まぁ、もういいとしよう。
そんなことを考えている僕の肩を、アリアさんがツンツンとつつく。
「どうしました?」
『あのな、お願いがあるんだが、頼まれてくれるか?』
アリアさんは女性らしい文字でそう綴ると、僕のことを見上げてきた。
「もちろんいいですけど……。なんですか? お願いって」
アリアさんは小さく微笑んで、こんなことを書いた。
『あのな、ゼリーが食べたいんだ』
「ゼリー……ですか? 買ってくればいいんですか? にしても、またどうしてそんな……」
アリアさんは誤魔化すようにちょっと笑って、それから少し顎に手をやり、うーんと考えたのちにペンを握り直す。
『バカにするなよ?』
「しませんよ」
『ゼリーが好きなんだ。っていうのは、私の記憶のなかで母上が作ってくれたからだ』
……そう、なんだ。
『ずっと部屋にいるからな。甘いものが食べたくなったんだ。買ってきて欲しい。頼まれてくれるか?』
もちろん、僕は首を縦に振ってうなずいた。
「ゼリー、買ってくればいいんですね? じゃあわかりました」
『ありがとう。そろそろ、外に出られるようになったらいいんだが』
「声くらいでなくても大丈夫ですよ」
『でも、ここにいるよ。待ってるから』
「はい。……一人で、大丈夫ですか?」
『いやいや、少しくらい大丈夫だよ』
「よかった。……じゃあ、行ってきますね」
「……――――」
アリアさんに見送られて僕は何日かぶりに街に出た。今日はエマさんがいない。ギルドの方へどうしても行かなくてはならなかったのだ。だから、一応エドさんに声はかけてきた。
あの日から時間が経ったということもあって、だんだんみんな外に出始めている。
活気が失われていた街にも、少しずつ色が戻る。
僕は以前アリアさんにケーキを買った洋菓子店へと足を運んだ。ここにこだわりがあるわけじゃないが、ここ以外に知らない。
……ふとその時、激しい悪寒に襲われる。
何事かと思ったが、その思考が追い付く前に、悲鳴が上がる。ハッとしてそちらを見ると、地面から真っ黒い針のようなトゲのようなものが生え、街の人の体を貫いていた。
僕はそこに駆け寄ろうとしたが、至るところでトゲが現れては悲鳴が上がる。
……魔法? だとしたら誰が。
僕が上を見上げると、もう二度と見たくなかった顔がそこで嘲笑っていた。
「……この街は美しい。さすがはアリアの国の王都だ。でも、そこに赤が足されることでもっと美しくなる。
そうは、思わないか?」
「ミーレス……!」
なんのためにこんなこと……! 激しい憤りを感じながら、僕は念のためにと持ってきていた剣を抜く。そのとき、後ろから見知った声が聞こえてきた。
「ウタくんっ! ……どうしてここに、アリアは!?」
「エドさんに任せてあります。大丈夫です」
僕はアイテムボックスから回復薬を取り出す……と、中身がもう少ないことに気がついた。色んなところでちょくちょく使ってたからだろうか? ぼくは残りの回復薬と万能薬をエマさんに差し出した。
「そっち酸っぱいですけど、これで街の人を助けてあげてください。僕は……」
ミーレスに目をやると、僕は剣を片手に走り出した。
「……敵うなんて、思わないで欲しいな」
地面から何本ものトゲが伸びて、僕を襲う。それを避けながらだと、進むだけでも一苦労だ。
それでもなんとか進んでいき、ミーレスにたどり着く。そして剣を振る。が、簡単に避けられた。
「どうして街をこんなに……!」
「嫌だなぁ。街なんて二の次に決まってるじゃないか。一番はアリア……彼女だよ。
私のアリアに対する『執着』甘く見てもらっちゃ困るんだな」
ミーレスはぐっと右手に力を入れると、大きく横に振る。
「ファイヤタイフーン!」
「っ……」
熱い……。炎の熱さから逃げるように、僕は氷魔法を発動させる。
「アイスウォール!」
氷の壁を作ると、炎の勢いはいくらかましになった。……あなどったら、本当に殺される。どうしたらいいんだろう。……そう、僕が思案し始めたとき、
「――――っ!!!」
背後から叫び声が聞こえた。ハッとして振り向くと、小さな女の子に黒いトゲが迫っていた。……まだ気づいていない!
「シャインっ!」
光魔法でそのトゲを弾き返す。と同時に、僕は声をあげた人物を見つけることができた。
「……っ、なんで!」
それとほぼ同時に、ミーレスも声をあげる。
「見つけたぞ……。アリアぁっ!」
「…………!」
僕らの視線の先、そこには、武器も防具も、なにも持たないアリアさんが、震えながら、隠れるようにして民家の後ろに立っていた。
「ふぅ……いい天気ですね」
アリアさんは椅子に座り机に向かったままペンを手に取ると、文字を書く。
『そうだな』
あの日以降、僕はほとんどの時間をここで過ごした。さすがに寝るときは部屋に帰っているが……寝つくまではいて欲しいとか言われて、ドキドキしながらアリアさんの顔を見ている……なんてことも。
もう……。こんな状況の時に言うことじゃないかもしれないけど、僕は男だし、アリアさんは女性なんですよ? ちょっとはこう……警戒心というか、そういうのを持っていただけるとありがたいのですが?
……まぁ、もういいとしよう。
そんなことを考えている僕の肩を、アリアさんがツンツンとつつく。
「どうしました?」
『あのな、お願いがあるんだが、頼まれてくれるか?』
アリアさんは女性らしい文字でそう綴ると、僕のことを見上げてきた。
「もちろんいいですけど……。なんですか? お願いって」
アリアさんは小さく微笑んで、こんなことを書いた。
『あのな、ゼリーが食べたいんだ』
「ゼリー……ですか? 買ってくればいいんですか? にしても、またどうしてそんな……」
アリアさんは誤魔化すようにちょっと笑って、それから少し顎に手をやり、うーんと考えたのちにペンを握り直す。
『バカにするなよ?』
「しませんよ」
『ゼリーが好きなんだ。っていうのは、私の記憶のなかで母上が作ってくれたからだ』
……そう、なんだ。
『ずっと部屋にいるからな。甘いものが食べたくなったんだ。買ってきて欲しい。頼まれてくれるか?』
もちろん、僕は首を縦に振ってうなずいた。
「ゼリー、買ってくればいいんですね? じゃあわかりました」
『ありがとう。そろそろ、外に出られるようになったらいいんだが』
「声くらいでなくても大丈夫ですよ」
『でも、ここにいるよ。待ってるから』
「はい。……一人で、大丈夫ですか?」
『いやいや、少しくらい大丈夫だよ』
「よかった。……じゃあ、行ってきますね」
「……――――」
アリアさんに見送られて僕は何日かぶりに街に出た。今日はエマさんがいない。ギルドの方へどうしても行かなくてはならなかったのだ。だから、一応エドさんに声はかけてきた。
あの日から時間が経ったということもあって、だんだんみんな外に出始めている。
活気が失われていた街にも、少しずつ色が戻る。
僕は以前アリアさんにケーキを買った洋菓子店へと足を運んだ。ここにこだわりがあるわけじゃないが、ここ以外に知らない。
……ふとその時、激しい悪寒に襲われる。
何事かと思ったが、その思考が追い付く前に、悲鳴が上がる。ハッとしてそちらを見ると、地面から真っ黒い針のようなトゲのようなものが生え、街の人の体を貫いていた。
僕はそこに駆け寄ろうとしたが、至るところでトゲが現れては悲鳴が上がる。
……魔法? だとしたら誰が。
僕が上を見上げると、もう二度と見たくなかった顔がそこで嘲笑っていた。
「……この街は美しい。さすがはアリアの国の王都だ。でも、そこに赤が足されることでもっと美しくなる。
そうは、思わないか?」
「ミーレス……!」
なんのためにこんなこと……! 激しい憤りを感じながら、僕は念のためにと持ってきていた剣を抜く。そのとき、後ろから見知った声が聞こえてきた。
「ウタくんっ! ……どうしてここに、アリアは!?」
「エドさんに任せてあります。大丈夫です」
僕はアイテムボックスから回復薬を取り出す……と、中身がもう少ないことに気がついた。色んなところでちょくちょく使ってたからだろうか? ぼくは残りの回復薬と万能薬をエマさんに差し出した。
「そっち酸っぱいですけど、これで街の人を助けてあげてください。僕は……」
ミーレスに目をやると、僕は剣を片手に走り出した。
「……敵うなんて、思わないで欲しいな」
地面から何本ものトゲが伸びて、僕を襲う。それを避けながらだと、進むだけでも一苦労だ。
それでもなんとか進んでいき、ミーレスにたどり着く。そして剣を振る。が、簡単に避けられた。
「どうして街をこんなに……!」
「嫌だなぁ。街なんて二の次に決まってるじゃないか。一番はアリア……彼女だよ。
私のアリアに対する『執着』甘く見てもらっちゃ困るんだな」
ミーレスはぐっと右手に力を入れると、大きく横に振る。
「ファイヤタイフーン!」
「っ……」
熱い……。炎の熱さから逃げるように、僕は氷魔法を発動させる。
「アイスウォール!」
氷の壁を作ると、炎の勢いはいくらかましになった。……あなどったら、本当に殺される。どうしたらいいんだろう。……そう、僕が思案し始めたとき、
「――――っ!!!」
背後から叫び声が聞こえた。ハッとして振り向くと、小さな女の子に黒いトゲが迫っていた。……まだ気づいていない!
「シャインっ!」
光魔法でそのトゲを弾き返す。と同時に、僕は声をあげた人物を見つけることができた。
「……っ、なんで!」
それとほぼ同時に、ミーレスも声をあげる。
「見つけたぞ……。アリアぁっ!」
「…………!」
僕らの視線の先、そこには、武器も防具も、なにも持たないアリアさんが、震えながら、隠れるようにして民家の後ろに立っていた。
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