チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

文字の大きさ
上 下
134 / 387
声にならない声を聞いて

やぁ

しおりを挟む
「…………むぅ」

「えーっと……」


 葬儀場を出てから、アリアさんはずっとむすっとしてる。葬儀の片付けは次の日に親族以外で行うのがしきたりだから、アリアさんは気にしなくていいらしく、僕らはお互いの涙が止まるのを待って、お屋敷へ帰り始めていた。
 しかしまぁ……ずっとこうなのだ。


「あの、僕、何かしましたか?」

「別になにも?」

「いやでも……」

「……ふん」

「えぇー……」


 やっぱり何かしてしまったのだろうか? でも、これといったものが見つからない。そもそも外に出ようとしたのを妨げたのはアリアさんで、僕はそれに従ったまでだ。悪いことしたとは思えない。
 それでもこのままじゃあ……。やたらと不機嫌だし、こっちの方を見ようともしない。目があったら即刻そらされるし……。
 恋してる訳じゃないけど、大事な仲間からこういう反応されたら、ちょっと傷つく。

 結局なにも分からないまま、お屋敷についてしまった。中ではエマさんが待っていて、僕らを見て柔らかく笑った。


「アリア、ウタくん、おかえ――」

「ただいま! じゃ、またあとでな!」

「あ、え? アリア?」


 アリアさんはエマさんと話すのも避けるように、さっさと二階へ上り、自分の部屋に入ると、扉を閉め、鍵をかけてしまった。


「……どうかしたの?」

「さぁ……僕にはなにも分からなくて」

「二人でいたとき、何かあった?」

「えっと、」


 僕が葬儀場でのこと言おうとした瞬間、アリアさんの部屋のドアがガチャッと開き、アリアさんがひょっこり顔を出した。


「ウタっ! お前、あれだからな!? さっきあったこと言ったらぶっ飛ばすからな!?」

「え、えええっ?!」


 うろたえる僕のとなりで、エマさんはなにかを察したようにニヤリと笑った。


「じゃ、じゃあまたあとで」

「アリアー、これは私の想像だけど……泣いたでしょ?」


 ドアを閉めかけていたアリアさんがビクッと反応して、その動きが止まる。


「しかもウタくんの前で」

「ち、ちが……っていうか、なんで私がウタの前で」

「まぁウタくんのことだから、アリアが全然泣いてないのに気づいてて、我慢しようとしてたのを見てアリアが泣いちゃって、つられてウタくんも泣いたと」

「うっ……」


 お、恐ろしいほど当たっている……。隠しきれない動揺を隠そうとするアリアさんを見て、ニコニコと黒い笑みを浮かべ、エマさんは二階へと上がっていった。


「で、アリアのことだからー、そのあと一人になるのが心細くなっちゃって、ウタくんを引き留めたりしちゃったんだねー」

「いや、その……」

「それで、恥ずかしくなっちゃったんだねー。だからさっさと部屋にこもろうとしてたのー」

「だ、だから違うっ!」


 顔を真っ赤に染め、むきになって言われても……正直、説得力の欠片もない。


「もうっ……エマなんか、エマなんかっ! うぅ……知らん!」


 捨て台詞のようにそう叫ぶと、アリアさんはバタン! と、音をたてて扉を閉めた。
 それを見送ると、エマさんは楽しそうに微笑みながら、振り向いて僕を見た。


「あぁいうところがかわいいのよねー、アリアって。ね? そう思わない?」

「え、まぁ……はい」

「ディランもいい女の子捕まえたわねー。……早く帰ってこないと、私がとっちゃうんだから」


 ……いいな、こういうの。


「……ん? なぁにウタくん。ニコニコしちゃって」

「いや……。アリアさんとエマさんって、幼なじみ……みたいなものですよね? なんか、そういうのいいなーって」


 クスクスと笑いながら、エマさんはそれに返す。


「まぁね。ウタくんはいなかったの? 幼なじみっていうか、親友っていうか……みたいな人」


 ……一瞬、ドキッとした。けれど大丈夫。この世界の人たちは『あのこと』を知ることはないんだ。だから、言いたいところだけ言って、言いたくないところは隠して、言わないようにして……。

 そうすれば、絶対、大丈夫。


「まぁ、いたっちゃいたんですけどね……。色々あって疎遠になっちゃって。
 僕は僕でこうして、こっちの世界に来ちゃってるわけですし。エマさんみたいに、幼なじみのこと大事にできるっていいなって。そう思っただけですよ」

「そう?」


 エマさんは少し自慢げに微笑む。
 「えっへん!」と、腕を腰にあて、胸を張ると、桃色の髪がふわっと揺れて肩からこぼれ落ちた。
 ……アリアさんと違う色気がある。どうしよう。見れない。


「でもねー、それはお互い様。私なんか、昔から顔見知りだから、色々と知られちゃってるわけ。アリア、なかなか頼ってくれなくて。こっちが膨れちゃうわよ。
 だからね、ウタくんみたいに、純粋に頼られるのもいいなーって思っちゃうのよ」


 ……ふと、思ったのだ。

 頼るなら、僕じゃなくて、エマさんとかエドさんとか、彰人さんとか、他にも、力があって自分を理解してくれていて、信頼のおける人を選ぶんじゃないかなって。
 しかもアリアさんはこの国の姫だ。顔も広いし、アリアさんが大好きな人で溢れている。頼もうと思えば、いつでも誰でも首を縦に振るだろう。なのに、なぜ……? 消去法?

 答えは、まだ分からない。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 日の沈みかけた街から、一人の男の声がした。


「…………やぁ。やっと会えるね、アリア」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女殿下は家出を計画中

ゆうゆう
ファンタジー
出来損ないと言われる第3王女様は家出して、自由を謳歌するために奮闘する 家出の計画を進めようとするうちに、過去に起きた様々な事の真実があきらかになったり、距離を置いていた家族との繋がりを再確認したりするうちに、自分の気持ちの変化にも気付いていく…

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。 主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。 ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。 果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!

【本編完結】転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~

沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。 ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。 魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。 そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。 果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。 転生要素は薄いかもしれません。 最後まで執筆済み。完結は保障します。 前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。 長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。 カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...