チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

文字の大きさ
上 下
96 / 387
ワクワク! ドキドキ! 小人ライフ!

ウルフと飼い主

しおりを挟む
「つ、づがれだぁ……」

「だ、大丈夫か? ウタ」

「もう無理です……もう動けないです……」

「なよなよだなぁ、ウタは」

「いや、サラ姉のせいだろ」

「これは……サラさんのせいですね」


 残りの54体、全部倒した僕はもうへとへとだった。地べたに座り込み、一歩も歩けない……。


「しょうがないなぁ……。っし、アリア。お前ここでこいつらと待ってろ。ちょっと行ってくる」

「えっ? 行ってくるって、どこに」

「んじゃあなー!」


 そういうとサラさんは木や大きな岩の上をぴょんぴょん跳ね、あっという間に見えないところまでいってしまった。……本当、自由だなぁ、あの人。


「……変わらないなぁ。本当、変わらない」


 アリアさんが、サラさんが走り去った方を見ながらそう呟く。その横顔は、微笑みながらも、どこか寂しそうだった。


「……アリアさん、ここに来てから、ずっと笑ってますね」


 ふと、フローラがそんなことを言う。確かにそうだ。いつだって明るく振る舞うアリアさんだが、今は純粋に、楽しんでるように見える。


「そりゃあ、サラ姉さんと会えて嬉しいからな。
 ……ずっと会いたかったんだ。ディランがいなくなってから、ずっと」


 ……森の中を、暖かい風が通りすぎた。その風にのって、アリアさんの声は優しく響く。『ディラン』という言葉だけが、いやに切なく感じられたのだった。


「サラ姉は、ディランのこと知ってるのか?」

「もちろんさ。婚約が決まったときも、一番に連絡したんだ。……すごく、喜んでくれた。ディランが相手なら安心だなって」


 ……この旅に、すべての人が賛成してくれているわけではない。アリアさんの人徳と、想い。それらを聞いて、考えて、縦に首を振ってくれた人だっていたんだ。

 サラさんは……どう思ったのだろう? 会ったときは何も言ってなかったけど…………。
 と、その時だった。


「グルルルルルル……」

「えっ?!」


 聞こえてきた唸り声に驚いて辺りを見渡すと、7匹以上のウルフが僕らを取り囲んでいた。


「うっそだろ!? こいつらのレベルってどれくらいだ?」

「……軽く90ありますよ」

「ヤバイな……。なんでこんな高レベルのウルフがここに……!」


 唸り声をあげ、じわじわと僕らを追い詰めてくるウルフたち。レベルの差がここまであると、何も出来ない。


「くそっ……。ウタ、動け……ないよな」

「幸か不幸かヘトヘトです」

「…………テラー戦法でいくか」

「え?」


 テラー戦法? って、あの無慈悲なやつですか!? 僕が驚いていると、アリアさんはウルフたちの前へと歩いていき、そして――


「なぁ! 私たちは何も、お前らに危害を加えようって訳じゃあないんだな。だからさ、無駄な戦いは避けたいんだよ。私たちと和睦しよう!」


 …………。
 そっちかぁぁぁぁぁぁ!!!!!
 そう、覚えているだろうか? テラーさんが一度、謎のタイミングで和睦を申し出たあの瞬間を。これは無理だろ……。
 しかし、


「グルル…………」

「な? いいだろ? 私たちはここで人を待ってるだけなんだよ。依頼の対象にお前たちは入っていないし。な?」


 あれ? これはもしかしていける? いけるのか!?
 ……でもなぁ、僕、この流れしってる気がするんだよなぁ。


「グルルルルルッ!!!」


 ほらぁやっぱり! 和睦の道なんて無かったんだよ!


「む、無理か……」

「どどど、どうしましょうアリアさん! 私、こんなにレベル高いウルフなんて……」

「だ、大丈夫だ。なんとかなる……」

「多分?」

「きっと?」

「もしかして?」

「不確かにするな! 確かにさせてくれ!」


 そして、僕らの健闘むなしく、一匹のウルフが僕らに飛びかかる――。


「こらっ! ダメでしょっ!」


 その直前、一人の女性の声が聞こえてきた。その声を合図に、ウルフたちは唸るのをやめ、その人の元へと駆け寄っていく。
 そこにいたのは、至って普通の人だった。外見はなんとなくしっかり者って感じで、背は少し高め。

 その人はウルフたちに向かってしかりつける。


「もう! 人を襲っちゃいけないって、何度いったら分かるの! 怪我させちゃったらダメでしょっ!」

「クゥン……」


 ……あからさまにしょんぼりとするウルフたち。ちょ、ちょっとかわいいんだけど。
 そんなウルフたちを見て、大きくため息をつき、その人は僕らに向きあった。


「すみませんー、うちの子達が。あの、怪我してませんか? 大丈夫ですか?!」

「あ、だ、大丈夫ですよ! 怪我とか、してませんから!」

「そうですかー、よかったですー。あ、でも何かあったら声かけてくださいね。山のほうにいますから。出来る限りで力になりますよ! じゃ! ほら行くよ、みんな!」

「あっ!」


 そしてその人はウルフたちと共に森の奥へと消えていった。……な、なんだったんだ、今の人。すると、アリアさんがボソッと呟く。


「あいつ……レベルいくつだろうな」

「え? さぁ……分かりませんけど」

「見た感じ、あのウルフたちの使役者だと見て間違いないだろう」

「私もそう思いますよ……。あっ」


 フローラもなにかに気がついたように声をあげる。僕ははてなマークだ。


「ウタ兄……もしかして、気づいてない? それとも知らない?」

「知らない可能性が高いな。
 いいか、ウタ。使役って言うのは、自分のレベル以下のやつしか基本的に使役できないんだ」


 ……ほう。なるほど。


「あの人めっちゃ強いんじゃないですか!?」

「だから私は戸惑っているんだ!」


 と、ギャーギャー騒いでるところに、サラさんがひょっこりと顔を出した。


「なにやってんだ、お前ら」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...