上 下
83 / 387
怪しい宗教はお断りします

自らの意思

しおりを挟む
 ……メヌマニエが消えたあと、そこには闇が残った。
 真っ暗で、なにも見えないのに、お互いの姿はよく見えていた。


「なんだ? どうしたらいいんだ?」


 ポロンくんが言う。何をしたらいいんだろう。だってこれ、なにもないしなぁ。


「……ずっとこのまま、ってことは、ないですよね…………?」


 フローラが不安そうに呟く。と、アリアさんがハッとしたように言う。


「自らの意思を闇に告げよ。その後に願いは叶えられる。それをせず、闇に背を向けた者のなれの果ては、目の前に転がる哀れな神である」

「あ! それって、侍さんがいってたやつですね!」

「そうだ。闇と言うのが、文字通りこの、闇のことで、哀れな神がメヌマニエを指すのなら、ここで意思を告げろと言うことだろう」

「自らの意思…………」

「一人ずつ、言った方がいいのでしょうか?」

「自らのっていうくらいだから、そうだろうな。……正直に言えばいいのかな」

「よくわかんねーけど! こう、みんなで手つないでさ、それで、せーのでそれぞれ言えばいいんじゃないかなぁ?」


 そう言いながら、ポロンくんは僕の左手をつかむ。僕はそっと握り返す。そして、右手でフローラの左手をつかんだ。


「ウタさん……」

「大丈夫だから。ね?」

「……はい!」


 そして、アリアさんが、右手でポロンくんの左手を、左手で、フローラの右手をつかんだ。


「手を繋ごうって……ポロン、怖かったのか?」

「ちっ! 違う! おいら別にこわくねーし。ウタ兄とは違うからな!?」

「僕は怖がってる前提なのか」

「違うんですか?」

「ちが……くはない、けど」

「ぷるっ! ぷるぷるー!」

「あ、スラちゃん! スラちゃんも、手つなぐ?」

「ぷるっ!」

「……えっと、どうするつもりだ? ウタ」


 悩んだ結果、ポロンくんがスラちゃんを手のひらにのせ、僕はその手に自分の手のひらを上から重ねる。これで落ち着いた。


「落ち着かねーな、スラちゃん、人にならないのかなぁ」


 困ったようにポロンくんが言うと、みんなが笑い出す。
 ひとしきり笑ったら、なんだか心が軽くなった気がした。


「……さて、じゃあ、せーので言うか」

「そうですね。それじゃ……せーのっ!」



「            」



 …………。

 ……え。フローラ…………?


 闇が消え、光のまばゆさに目を閉じるその直前、ふと見たフローラの横顔は、今にも泣き出してしまいそうだった。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


「…………ん……」


 ぼんやりと目を開け、起き上がる。そこは、宿屋セアムの客室のベッドの上だった。
 横を見ると、ポロンくんがすやすやと気持ち良さそうに眠っている。僕は、それが幻覚じゃないか確かめるように、自分の右のほほをつねる。


「いたたたた……。夢とかじゃ、ない、ね」


 やっとか。ふとした瞬間に、そう思う。

 そういえば、ここに来てからまだほんの数日しか経ってないのに、色んなことが起きすぎていて、ゆっくりする暇なんてなかった。今日くらいはゆっくりしていよう。

 ふと、窓の外を見る。……壁はすっかり崩壊していて、通りは人で溢れていた。中には、感動の再会を果たしたかのように、抱き合って喜ぶ人も……。
 いや、これ、多分本当に感動の再会なんだなぁ。

 そんなことをしみじみと考えていると、扉の向こうから軽いノック音がした。


「アリアだ。起きてるか?」

「アリアさん!」


 僕は小走りで扉の近くへと行き、ドアノブに手をかけ、開ける。そこには、いつも通りに笑うアリアさんと、その後ろに半分ほど隠れたフローラがいた。


「おはよう。入ってもいいか?」

「大丈夫ですよ。ポロンくんはまだ寝てますけど」

「問題ないよ。私たちも何時間か前に起きたんだ」

「失礼しますね」


 二人は、丸テーブルの椅子に腰掛け、僕はベッドに座る。アリアさんは眠ったままのポロンくんを見て、クスッと笑ったのち、僕を見る。


「さっき起きたのか?」

「え? ま、まぁ……」

「寝癖ついてるぞ」

「えっ?!」


 手で探ってみる。……こ、これか! このはねてるやつか!


「まぁいいさ。な?」

「不可抗力ですもんね」

「お、お見苦しいところを……。で、二人はどうしたんですか? わざわざ」

「いやなに、私たちが眠ってる間に、何があったのか聞いたから、話しておこうかと思って」


 僕の感覚では一時間とかそれくらいだったのだが、実際は、僕らは二日も寝たきりでいたらしい。
 僕らが意思を告げたあと、教会もろとも粉々になり、メヌマニエは光となって消えた。そして、その場に、意識を失った僕らが倒れていたんだと言う。その僕らを、テラーさんと侍さんが、ここまで運んでくれたんだそうで。

 メヌマニエを倒したその瞬間、幻覚を見ていた人は解放され、もとの自分に戻ることができた。
 テラーさんが頼まれて造った壁も、もういらなくなったため、残骸もなにも消してしまったらしい。また、結界も普通のものに置き換わった。

 ちなみに、自分のHPを使いまくっていたテラーさんは、僕らが寝ている間、同じように寝てHPを回復させていたんだそう。


「テラーいわく、『寝たきりとかマジでつまんない! 山登りたい!』だそうだ」

「なぜその思考回路に」

「あいつに聞いてくれ」


 さて、と、切り変えるようにアリアさんが僕に言う。


「私たちがここに来た目的の、一つ目は達成した。あと、もう一つだな」

「もう一つって?」


 僕が言うと、フローラがおずおずと答える。


「あ……あの、お願いしたいことがあって」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...