78 / 387
怪しい宗教はお断りします
教会
しおりを挟む
そびえる巨大な教会は、真っ黒だった。窓の縁やドアノブ、装飾の部分だけは金色の金具でできていて、異様にその存在が目立つ。
「……真っ黒な教会って、なんか、スゲーな」
ポロンくんが言う。僕はそれにうなずきながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
「……ねぇポロンくん、人が、いなさすぎない?」
「ん? でもさ、おいらたちは一騒動あって起きてるけど、普通は寝てるだろこの時間」
僕は腕時計を見る。今の時間は夜中の1時56分。確かに、寝ていても全然おかしくないのだ。でも、そうじゃない。人の気配がないのだ。それに……。
「テラーさんたち、『儀式』っていってた。メヌマニエ教の儀式なら、もしかしたら教会の中にいるのかも。捧げ物って言ってたし」
「ま! 待てよ! おいら儀式とかよくわかんねーよ!」
「あ、そっか」
僕はあの睡眠学習のお陰なのかせいなのか、メヌマニエについては実はかなり知っていた。まぁ、知識的なことばかりだから、実際に聞いたのと多少ずれがあったり、抜けてたりしたけれど。
例えば、『黒』について。メヌマニエ教では黒と金が神聖な色とされていて、信者は必ず黒か金のものを身に付けている。さっきの男も、黒い服を纏っていた。
通常時の崇め方は、黒いものを身に付け、手を合わせるだけでいいのだが、儀式の時には違う。
「メヌマニエ教の儀式では、フードがついた黒い服を着て、教会に入る。そして、捧げ物をしてから、一人ずつ、自分の血を流して、祭壇に捧げるんだ。
……僕は、捧げ物はくだものとかだと思ってたんだけど。実際、儀式じゃなければそうみたいだし」
「そうか……ん? で、それがなんで人がいないっていう謎に繋がるんだ?」
ポロンくんが首をかしげる。
「……この儀式、夜中にやるんだ。真夜中、つまり、今くらいの時間に」
「そっか。だから人がいないのは怪しいってことか。
……で、仮に教会の中に人がいるとして、おいらたちはどうする? まさかそのまま堂々となんて」
「慌てない慌てない。……服だけでも合わせていこう。目立っちゃうからさ」
普通ならば、フードつきの黒い服なんて簡単に見つかりはしない。でも、ここはメヌマニエ教の街。幸いにも、店には大量にものがおいてあった。ヒンドゥー教の街に、牛がたくさんいるのと同じだ。
僕らは店の中を見渡し、サイズが合いそうな服を見つけ、今着ている服の上から着る。ローブのようなデザインのそれは、上着のように簡単に身につけることができた。金貨を一枚、カウンターの上においた。
黒い服を着込んで、いざ出撃!
僕はそっと、ポロンくんに声をかける。
「僕らの目的は、捕まってる人たちを助けること。メヌマニエはそのあと時間と体力とその他もろもろに余裕があったら倒しにいってみよう」
「そう! ……じゃ、開けるな?」
ポロンくんが一番大きな扉を押す。ギィィィ……と、音がして、扉が開く。思ったよりも中は広く、学校の体育館よりもずっと大きい。
普通の教会――僕が知ってる限りだけど――とは違って、椅子などはなく、窓はあるものの締め切られていた。
みるとそこには、何人もの信者たちが、捧げ物が捧げられ、メヌマニエを見ることが出来るのが楽しみで仕方ない、という表情で佇んでいた。黒い服を着ていたこともあって、僕らが入ってきたことなんかお構いなしだった。
しかし、僕らが先に進み、次の扉に手をかけようとした瞬間、
「お前ら、なにをやっているんだ?」
一人の男の声。しかし、僕らは答えない。儀式には段取りがあるのだ。信者はメヌマニエに捧げ物が無事に渡ってから祭壇にいく。……僕らはその心理を利用する。
「行くぞ、ウタ兄!」
「うん!」
振り向きもせずに目の前のドアを開き、中に走り込んでいった。
「な、なにをやっている! 罰当たりな……今すぐ戻ってくるんだ!」
背後が騒がしい。そして、戻ってこい戻ってこいとは言われるが、決して追いかけては来ない。そりゃそうだ。あの人たちはメヌマニエを本気で信仰している。だったら、こんな罰当たりなこと、恐ろしくてできない。
ドアを抜けた先は、真っ暗で細い廊下になっていた。足元には金色の装飾がされた黒い絨毯。窓はない。壁に備え付けられたランプの灯りがわずかに揺れている。
走ってきたはずなのに、いつの間にか足はゆっくりと動き、無理矢理歩かされているようだった。
「ここまで暗いと、気が滅入りそうだな……。おいら、夜よりも昼の方が好きなんだ」
ポロンくんが歩きながらいう。
「夜はさ……やっぱり、ちょっと怖いんだよな。キルナンスのときのこと、まだ思い出すからな」
「僕も夜はあんまり好きじゃないよ。暗いところは怖いし、一人ぼっちみたいな気持ちになるしね」
ポロンくんが視線を落とす。……忘れきれない思い出っていうのは、忘れたくても忘れられない。明るいところから暗いところを見ると、よりいっそう暗く見えてしまうものだ。
……それが、今の僕。
「……だからさ、手、繋いでいこっか」
「え……」
「ほら」
僕はポロンくんの手をとる。まだ幼さが残る、小さな手だ。
とたんに足が軽くなる。行ける。この先にいる。
「ウタ兄、ちゃんと男なんだな」
「そりゃそうだけど……。どうしたの?」
「普段から優しすぎるくらいに優しくてさ、ほんと、おいらが心配になるくらい……。でも、手は、男だな」
そして、にっこりと微笑んだ。
「……真っ黒な教会って、なんか、スゲーな」
ポロンくんが言う。僕はそれにうなずきながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
「……ねぇポロンくん、人が、いなさすぎない?」
「ん? でもさ、おいらたちは一騒動あって起きてるけど、普通は寝てるだろこの時間」
僕は腕時計を見る。今の時間は夜中の1時56分。確かに、寝ていても全然おかしくないのだ。でも、そうじゃない。人の気配がないのだ。それに……。
「テラーさんたち、『儀式』っていってた。メヌマニエ教の儀式なら、もしかしたら教会の中にいるのかも。捧げ物って言ってたし」
「ま! 待てよ! おいら儀式とかよくわかんねーよ!」
「あ、そっか」
僕はあの睡眠学習のお陰なのかせいなのか、メヌマニエについては実はかなり知っていた。まぁ、知識的なことばかりだから、実際に聞いたのと多少ずれがあったり、抜けてたりしたけれど。
例えば、『黒』について。メヌマニエ教では黒と金が神聖な色とされていて、信者は必ず黒か金のものを身に付けている。さっきの男も、黒い服を纏っていた。
通常時の崇め方は、黒いものを身に付け、手を合わせるだけでいいのだが、儀式の時には違う。
「メヌマニエ教の儀式では、フードがついた黒い服を着て、教会に入る。そして、捧げ物をしてから、一人ずつ、自分の血を流して、祭壇に捧げるんだ。
……僕は、捧げ物はくだものとかだと思ってたんだけど。実際、儀式じゃなければそうみたいだし」
「そうか……ん? で、それがなんで人がいないっていう謎に繋がるんだ?」
ポロンくんが首をかしげる。
「……この儀式、夜中にやるんだ。真夜中、つまり、今くらいの時間に」
「そっか。だから人がいないのは怪しいってことか。
……で、仮に教会の中に人がいるとして、おいらたちはどうする? まさかそのまま堂々となんて」
「慌てない慌てない。……服だけでも合わせていこう。目立っちゃうからさ」
普通ならば、フードつきの黒い服なんて簡単に見つかりはしない。でも、ここはメヌマニエ教の街。幸いにも、店には大量にものがおいてあった。ヒンドゥー教の街に、牛がたくさんいるのと同じだ。
僕らは店の中を見渡し、サイズが合いそうな服を見つけ、今着ている服の上から着る。ローブのようなデザインのそれは、上着のように簡単に身につけることができた。金貨を一枚、カウンターの上においた。
黒い服を着込んで、いざ出撃!
僕はそっと、ポロンくんに声をかける。
「僕らの目的は、捕まってる人たちを助けること。メヌマニエはそのあと時間と体力とその他もろもろに余裕があったら倒しにいってみよう」
「そう! ……じゃ、開けるな?」
ポロンくんが一番大きな扉を押す。ギィィィ……と、音がして、扉が開く。思ったよりも中は広く、学校の体育館よりもずっと大きい。
普通の教会――僕が知ってる限りだけど――とは違って、椅子などはなく、窓はあるものの締め切られていた。
みるとそこには、何人もの信者たちが、捧げ物が捧げられ、メヌマニエを見ることが出来るのが楽しみで仕方ない、という表情で佇んでいた。黒い服を着ていたこともあって、僕らが入ってきたことなんかお構いなしだった。
しかし、僕らが先に進み、次の扉に手をかけようとした瞬間、
「お前ら、なにをやっているんだ?」
一人の男の声。しかし、僕らは答えない。儀式には段取りがあるのだ。信者はメヌマニエに捧げ物が無事に渡ってから祭壇にいく。……僕らはその心理を利用する。
「行くぞ、ウタ兄!」
「うん!」
振り向きもせずに目の前のドアを開き、中に走り込んでいった。
「な、なにをやっている! 罰当たりな……今すぐ戻ってくるんだ!」
背後が騒がしい。そして、戻ってこい戻ってこいとは言われるが、決して追いかけては来ない。そりゃそうだ。あの人たちはメヌマニエを本気で信仰している。だったら、こんな罰当たりなこと、恐ろしくてできない。
ドアを抜けた先は、真っ暗で細い廊下になっていた。足元には金色の装飾がされた黒い絨毯。窓はない。壁に備え付けられたランプの灯りがわずかに揺れている。
走ってきたはずなのに、いつの間にか足はゆっくりと動き、無理矢理歩かされているようだった。
「ここまで暗いと、気が滅入りそうだな……。おいら、夜よりも昼の方が好きなんだ」
ポロンくんが歩きながらいう。
「夜はさ……やっぱり、ちょっと怖いんだよな。キルナンスのときのこと、まだ思い出すからな」
「僕も夜はあんまり好きじゃないよ。暗いところは怖いし、一人ぼっちみたいな気持ちになるしね」
ポロンくんが視線を落とす。……忘れきれない思い出っていうのは、忘れたくても忘れられない。明るいところから暗いところを見ると、よりいっそう暗く見えてしまうものだ。
……それが、今の僕。
「……だからさ、手、繋いでいこっか」
「え……」
「ほら」
僕はポロンくんの手をとる。まだ幼さが残る、小さな手だ。
とたんに足が軽くなる。行ける。この先にいる。
「ウタ兄、ちゃんと男なんだな」
「そりゃそうだけど……。どうしたの?」
「普段から優しすぎるくらいに優しくてさ、ほんと、おいらが心配になるくらい……。でも、手は、男だな」
そして、にっこりと微笑んだ。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!
モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。
突然の事故で命を落とした主人公。
すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。
それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。
「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。
転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。
しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。
そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。
※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる