チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

文字の大きさ
上 下
74 / 387
怪しい宗教はお断りします

襲撃

しおりを挟む
 侍さんの注意勧告――。僕がそれを思い出したのは、よりにもよってその日の真夜中。
 ぞくりとする嫌な気配で目が覚めた。眼鏡をかけ、周りを確認するが、なにもない。おかしい。絶対なにかが起こっている。


「……う、ウタ兄…………」

「ポロンくん! ……起きてたの?」

「ウタ兄……おいら、こわい……」


 ぶるぶると震えるポロンくんを胸に抱き、ゆっくり背中をさする。と、扉が強く叩かれた。そして、返事をする前に開かれ、テラーさんが転がり込んできた。


「ウタくん! ポロンくん!」

「て、テラーさん!? どうしたんですか?」

「……やっぱり、二人は無事なのか…………」


 息を切らし、テラーさんはひどく慌てた様子で言う。


「――女性が消えた。一人残らず。多分、メヌマニエ教のやつが関係しているんだと思う」

「女性が…………。あ、アリア姉は!? フローラは!? 無事なのか!?」

「……アリアさんもフローラもいない」

「そんな……嘘だろ?」


 酷く慌て、そして混乱した様子でテラーさんは呟く。


「してやられた。おかしいな、結界を通ったなら、私が気づくはずなのに…………」

「え? で、でも、結界って魔物を防ぐ効果しかないってアリアさんが」

「一般的なものはね。ここのは違うよ。私がメヌマニエ教を防ぐために張ったものだから、悪意がある人間は近づけないし、仮に入ったとしても、私が気づける。
 一人ならともかく、この短時間で女性をみんな連れ去るなんて、かなりの人数がいたはず。

 ……誰かが、結界を破ったんだ。でも、どうやって…………?」


 なにかがおかしい。でも、だからといって黙っているわけにもいかない。女性をさらったそいつらは、テラーさんには手を出していない。きっと、敵わないと知っているんだ。テラーさんよりは強くない。


「とにかく、外に出てみませんか? そうすれば、何か分かるかもしれません!」

「……そうだね。でも…………」


 テラーさんがポロンくんに目を向ける。ずっとぶるぶると震えているポロンくんは、この異常な状況が酷く恐ろしいらしく、僕から離れようとしない。


「……私だけで外に行くよ。ウタくんは、ポロンくんと一緒に」

「ダメだいっ!」


 不意に、ポロンくんが叫ぶ。驚いて視線を落とすと、震え、涙を浮かべながらも、ポロンくんの目は強く輝いていた。


「お、おいらも行く。一緒に外に行く! だから、連れてってくれ!」

「……ポロンくん、でも、」

「おいらは大丈夫だい! ……強くなったんだ。もう弱い自分じゃないんだ! おいらは、自分には嘘をつかないって決めたんだい! おいらは行きたい! だから、行く!」


 それに、と、ポロンくんは付け足す。


「おいらには……助けてくれる、仲間もいるから、絶対、大丈夫」

「ポロンくん……」

「ほら! 早く行くぞ! 行かないんなら、おいらが先にいっちゃうそ!」


 僕にしがみつきながら言うポロンくんを見て、優しく微笑み、テラーさんは僕らに背を向ける。


「じゃ、ついてきてね」

「わかりました!」

「行くぜ!」

「ぷるっ! ぷるるっ!」

「お? スラちゃんも行くのか?」

「ぷーるるー!(みんなを助けるぞー!)」


 そして、僕らは二階から降りて、外に出た。外では、急に姿を消した女性を探す男性があちらこちらにいた。
 ……いやに静寂に包まれているそこは、何か、奇妙な雰囲気を醸し出していた。


「…………」


 しばらく黙って、じっと耳をすましていたテラーさんは、急にハッとしたように僕らの手を引く。


「下がって!」

「うわっ?!」


 そしてその瞬間、僕らの目の前に炎の槍が降り注いだ。少ししてその炎が消えると、少し低めの男性の声が聞こえてきた。


「クックック…………避けるとはなぁ。闇に紛れて狙ったのに、外してしまうなんて残念だ」

「……誰?」


 現れた男性に、テラーさんはあからさまに警戒心を露にする。男性は赤い髪を後ろで乱雑に結んでいた。そして気がつくと、その後ろには仲間と思われる人が、ざっと30人。
 男性はテラーさんを指差し、声をあげる。


「お前が、テラーか?」

「そうだけど。いきなりなんですか。普段喋ってないから、礼儀も忘れたんですか?」

「ふん、面白くない冗談だ。儀式以外では確かに声は出さないが、そこまでバカではないさ。
 ……サワナルの生き残りがなかなか潰せないのは、テラーという魔法使いがいるからだと聞いてな。少し調べさせてもらったぞ」

「ふーん、で?」


 ここでこう言うのもなんだけど、少しは反応してあげてくださいテラーさん。と、テラーさんが背中の後ろで、ちょいちょいと僕らに合図を出す。
 ――避けていろ、とのようだ。


「元勇者パーティーで、最強の魔法使いと聞いた。確かに、あの結界や壁。常人じゃあ無理だろう」

「だからなんだっていうんですか? 私に何か用ですか? 一応聞くけど、まさか、殺して捧げ物にー、とか思ってます? できると思います?」


 僕は無理だと思います。そう思いながらそーっと、テラーさんから距離をとり、少しだけ離れる。


「できるさ。簡単にな」


 男がいう。その言葉を合図にしたように無数の炎の槍が空中に浮かぶ。30人もいれば、槍の数もなかなかだ。すぐさまテラーさんも反撃をしようと右手を前につきだし――止まった。


(……テラーさん?)

「クックック……驚いているか? 魔法が使えないことに」


 魔法が、使えない――?


「いいか? 俺がここまでこれたのは、『封印』というスキルを持っているからだ。相手のMPを完全に封じるスキル……。
 お前のMPを封じさせてもらった。30分が限界だろうが、問題ない。どんなに強かろうが、所詮はただの魔法使い」


 そして、勝ち誇ったように笑う。


「魔法が使えない魔法使いを倒すなんて、赤子の手を捻るようなもんさ!」


 テラーさんに向かって、無数の炎の槍が放たれる。無言のまま、避けもせずに、もろにその攻撃を受けたテラーさんは吹き飛ばされ、僕らの視界から消える。

 ……でも、僕は見ていた。
 吹き飛ばされるその寸前、テラーさんの口角が、わずかに上がっていたのを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!

モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。 突然の事故で命を落とした主人公。 すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。  それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。 「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。  転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。 しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。 そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。 ※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

処理中です...