57 / 387
怪しい宗教はお断りします
新しい旅
しおりを挟む
サワナルはマルティネス帝国の一番東にある小さな街だ。隣国と接する国境があり、田舎ではあるが、それなりに発展はしている。
ただまぁ……アリアさんいわく、とても遠いんだとか。歩くとかなりかかってしまう。と、言うわけで!
「お主ら、行くぞ? 大丈夫か?」
「うん! 大丈夫だよドラくん!」
「私も大丈夫だ」
「おいらも平気だよ!」
「ぷるぷるー!」
「よし……じゃあ行くぞ!」
ドラくんが空高く飛び上がる。どんどん地上が遠くなっていき、ずいぶん上の方まで来た。
ラミリエからサワナルに向かう道のりはほとんどが森。街からはかなり離れているし、道中、山を越えなければならない。結界もないのだ。
そこで、ドラくんに途中まで乗せて行ってもらうことにした。さすがにサワナルに近づいたら騒ぎになりそうなので、その少し手前まで。
歩いたら五日以上かかるところが、ドラくんなら一日でつく。かなりのスピードで飛んでいるから、年のため落ちないようにポロンくんの土魔法で蔦を体に巻き付ける。多少の安全策だ。
ドラくんいわく『お主ら三人くらい落とさずに運べる』らしいが。
……ちなみに、ドラくんの最高速度は時速1000kmだ。さすがにこの速さじゃ飛んでない。一番レベルの低い僕が耐えられる限界が時速100km。それくらいで飛んでもらっている。
「にしても、やっぱりはえーよな! おいらこんな高いところ来たことねーや!」
興奮したようにポロンくんが言う。確かに。僕だってそうだ。本当だったら修学旅行で飛行機に乗る予定だったけど、あいにく僕はその前に死んでしまった。
人生で飛行機すら乗ったことがないまんま死んでしまったのだ。……もったいないことしたなぁ。
「サワナルから80kmくらい離れたところから馬車が出せるらしい。そこから先は馬車で行くといい。二時間もかからないで着くだろう」
「ありがとう、ドラくん!
サワナルかぁ……どんな街なんだろうなぁ。カーターは変わってるって言ってたけど……。アリアさんが前に行ったのって?」
「えっと……10年前だな。母上と一緒に行ったことがある。ただ10年前だからなぁ」
「変わっちまってても無理ねぇよなぁ」
「ドラくん、何か知ってる?」
するとドラくんはこんなことを言うのだった。
「なんか……黒いな」
「黒い?」
「黒って?」
「分からない。ただ、前に……といっても半年前くらいだが、上から見たときに異様に黒く、そして静かだったのを覚えているな」
「黒くて、静か……」
嫌な予感しかしません。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
しばらく経って、ドラくんがゆっくりと地面に降り、僕らを下ろした。
「この先から馬車が出せる。人は……いるようだな。運賃を出して頼めば出してくれるだろう」
「分かった。ありがとうドラくん!」
「必要になったらいつでも呼べ、我が主君」
そういうとドラくんは再び空に舞い上がり、すぐに見えなくなってしまった。
「……ドラくんに『主君』って呼ばれるの、落ち着かないなぁ」
「ドラくんにとっては実際主君なんだ。なれろ」
「そんなこと言われましても……」
「とりあえず行こーぜ? 馬車出さないといけねーんだろ?」
「あっ、そうだね!」
言うのを忘れていたが、今はもう結構暗い。僕らはドラくんに乗りながら夕飯――前に彰人さんにもらったやつの余り――を食べて、今ここにいる。馬車の中で一眠りさせてもらうつもりだ。
少し暗い中、アリアさんが光魔法で前を照らしながら進んでいく。すると、何人かの人影を見つけた。そのわきには馬車も置いてある。
「お、ここか? おーい!」
「ん? 人か……って、あ、アリア様!?」
「え、あぁそうか。普通にしてたからな。まぁ、そうだな……うん、アリアだ」
「言葉がちょっとおかしいよアリア姉!」
「どうなされたんですか、こんなところで!」
「いや……なぁ、お前たちはこの馬車の御者なのか?」
「えぇ、そうですよ?」
「悪いが、馬車を出してもらえないか? サワナルに向かいたくてな」
と、サワナルという言葉が出た瞬間、その場にいた人たちの顔が曇る。
「もちろん構いませんが……サワナルに向かうのですか?」
「そうだが……?」
「…………正直に申し上げて、あそこは異常ですよ。街の南端を除いては完全にどうかしています。そこにアリア様をお連れするわけには……」
「……なるほどな」
アリアさんは理解したようにうんうんとうなずく。それを見てほっとした様子の御者たちは胸を撫で下ろす。が、
「じゃあ馬車を一台貸してくれ。私が御者をしよう」
「はい……はい!?」
「あ、アリアさん!」
「ん? どうした?」
ケロッとした顔でそう言うアリアさんに、僕とポロンくんは詰め寄った。
「あのなアリア姉、この人たちが言ってるのは行かない方がいいってことで、自分達が行きたくないって訳じゃ」
「アリアさんに御者なんて、そんなことさせられません! ぼ、僕がやります!」
「ウタ兄!?」
「お前馬を操れるのか?」
「無理です!」
「なら私が」
「いや僕が!」
「私だ!」
「僕です! ……というか、」
「「普通に御者してみたい!」」
「おっまえらなぁ!?」
「…………サワナルに、お連れすればよろしいのですね?」
「え、あぁそうだ。そしてあわよくば明日の朝御者体験をさせてほしい」
「……ハイ」
「やったな、ウタ!」
「やりましたね、アリアさん!」
「おいらは頭がいたいよ」
そうして、無事に馬車に乗ることができた僕らは、御者さんにお礼を言ってから、広くはない後ろの席で眠るのだった。
ただまぁ……アリアさんいわく、とても遠いんだとか。歩くとかなりかかってしまう。と、言うわけで!
「お主ら、行くぞ? 大丈夫か?」
「うん! 大丈夫だよドラくん!」
「私も大丈夫だ」
「おいらも平気だよ!」
「ぷるぷるー!」
「よし……じゃあ行くぞ!」
ドラくんが空高く飛び上がる。どんどん地上が遠くなっていき、ずいぶん上の方まで来た。
ラミリエからサワナルに向かう道のりはほとんどが森。街からはかなり離れているし、道中、山を越えなければならない。結界もないのだ。
そこで、ドラくんに途中まで乗せて行ってもらうことにした。さすがにサワナルに近づいたら騒ぎになりそうなので、その少し手前まで。
歩いたら五日以上かかるところが、ドラくんなら一日でつく。かなりのスピードで飛んでいるから、年のため落ちないようにポロンくんの土魔法で蔦を体に巻き付ける。多少の安全策だ。
ドラくんいわく『お主ら三人くらい落とさずに運べる』らしいが。
……ちなみに、ドラくんの最高速度は時速1000kmだ。さすがにこの速さじゃ飛んでない。一番レベルの低い僕が耐えられる限界が時速100km。それくらいで飛んでもらっている。
「にしても、やっぱりはえーよな! おいらこんな高いところ来たことねーや!」
興奮したようにポロンくんが言う。確かに。僕だってそうだ。本当だったら修学旅行で飛行機に乗る予定だったけど、あいにく僕はその前に死んでしまった。
人生で飛行機すら乗ったことがないまんま死んでしまったのだ。……もったいないことしたなぁ。
「サワナルから80kmくらい離れたところから馬車が出せるらしい。そこから先は馬車で行くといい。二時間もかからないで着くだろう」
「ありがとう、ドラくん!
サワナルかぁ……どんな街なんだろうなぁ。カーターは変わってるって言ってたけど……。アリアさんが前に行ったのって?」
「えっと……10年前だな。母上と一緒に行ったことがある。ただ10年前だからなぁ」
「変わっちまってても無理ねぇよなぁ」
「ドラくん、何か知ってる?」
するとドラくんはこんなことを言うのだった。
「なんか……黒いな」
「黒い?」
「黒って?」
「分からない。ただ、前に……といっても半年前くらいだが、上から見たときに異様に黒く、そして静かだったのを覚えているな」
「黒くて、静か……」
嫌な予感しかしません。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
しばらく経って、ドラくんがゆっくりと地面に降り、僕らを下ろした。
「この先から馬車が出せる。人は……いるようだな。運賃を出して頼めば出してくれるだろう」
「分かった。ありがとうドラくん!」
「必要になったらいつでも呼べ、我が主君」
そういうとドラくんは再び空に舞い上がり、すぐに見えなくなってしまった。
「……ドラくんに『主君』って呼ばれるの、落ち着かないなぁ」
「ドラくんにとっては実際主君なんだ。なれろ」
「そんなこと言われましても……」
「とりあえず行こーぜ? 馬車出さないといけねーんだろ?」
「あっ、そうだね!」
言うのを忘れていたが、今はもう結構暗い。僕らはドラくんに乗りながら夕飯――前に彰人さんにもらったやつの余り――を食べて、今ここにいる。馬車の中で一眠りさせてもらうつもりだ。
少し暗い中、アリアさんが光魔法で前を照らしながら進んでいく。すると、何人かの人影を見つけた。そのわきには馬車も置いてある。
「お、ここか? おーい!」
「ん? 人か……って、あ、アリア様!?」
「え、あぁそうか。普通にしてたからな。まぁ、そうだな……うん、アリアだ」
「言葉がちょっとおかしいよアリア姉!」
「どうなされたんですか、こんなところで!」
「いや……なぁ、お前たちはこの馬車の御者なのか?」
「えぇ、そうですよ?」
「悪いが、馬車を出してもらえないか? サワナルに向かいたくてな」
と、サワナルという言葉が出た瞬間、その場にいた人たちの顔が曇る。
「もちろん構いませんが……サワナルに向かうのですか?」
「そうだが……?」
「…………正直に申し上げて、あそこは異常ですよ。街の南端を除いては完全にどうかしています。そこにアリア様をお連れするわけには……」
「……なるほどな」
アリアさんは理解したようにうんうんとうなずく。それを見てほっとした様子の御者たちは胸を撫で下ろす。が、
「じゃあ馬車を一台貸してくれ。私が御者をしよう」
「はい……はい!?」
「あ、アリアさん!」
「ん? どうした?」
ケロッとした顔でそう言うアリアさんに、僕とポロンくんは詰め寄った。
「あのなアリア姉、この人たちが言ってるのは行かない方がいいってことで、自分達が行きたくないって訳じゃ」
「アリアさんに御者なんて、そんなことさせられません! ぼ、僕がやります!」
「ウタ兄!?」
「お前馬を操れるのか?」
「無理です!」
「なら私が」
「いや僕が!」
「私だ!」
「僕です! ……というか、」
「「普通に御者してみたい!」」
「おっまえらなぁ!?」
「…………サワナルに、お連れすればよろしいのですね?」
「え、あぁそうだ。そしてあわよくば明日の朝御者体験をさせてほしい」
「……ハイ」
「やったな、ウタ!」
「やりましたね、アリアさん!」
「おいらは頭がいたいよ」
そうして、無事に馬車に乗ることができた僕らは、御者さんにお礼を言ってから、広くはない後ろの席で眠るのだった。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる