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怪しい宗教はお断りします

新しい旅

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 サワナルはマルティネス帝国の一番東にある小さな街だ。隣国と接する国境があり、田舎ではあるが、それなりに発展はしている。

 ただまぁ……アリアさんいわく、とても遠いんだとか。歩くとかなりかかってしまう。と、言うわけで!


「お主ら、行くぞ? 大丈夫か?」

「うん! 大丈夫だよドラくん!」

「私も大丈夫だ」

「おいらも平気だよ!」

「ぷるぷるー!」

「よし……じゃあ行くぞ!」


 ドラくんが空高く飛び上がる。どんどん地上が遠くなっていき、ずいぶん上の方まで来た。

 ラミリエからサワナルに向かう道のりはほとんどが森。街からはかなり離れているし、道中、山を越えなければならない。結界もないのだ。
 そこで、ドラくんに途中まで乗せて行ってもらうことにした。さすがにサワナルに近づいたら騒ぎになりそうなので、その少し手前まで。

 歩いたら五日以上かかるところが、ドラくんなら一日でつく。かなりのスピードで飛んでいるから、年のため落ちないようにポロンくんの土魔法で蔦を体に巻き付ける。多少の安全策だ。
 ドラくんいわく『お主ら三人くらい落とさずに運べる』らしいが。

 ……ちなみに、ドラくんの最高速度は時速1000kmだ。さすがにこの速さじゃ飛んでない。一番レベルの低い僕が耐えられる限界が時速100km。それくらいで飛んでもらっている。


「にしても、やっぱりはえーよな! おいらこんな高いところ来たことねーや!」


 興奮したようにポロンくんが言う。確かに。僕だってそうだ。本当だったら修学旅行で飛行機に乗る予定だったけど、あいにく僕はその前に死んでしまった。
 人生で飛行機すら乗ったことがないまんま死んでしまったのだ。……もったいないことしたなぁ。


「サワナルから80kmくらい離れたところから馬車が出せるらしい。そこから先は馬車で行くといい。二時間もかからないで着くだろう」

「ありがとう、ドラくん!
 サワナルかぁ……どんな街なんだろうなぁ。カーターは変わってるって言ってたけど……。アリアさんが前に行ったのって?」

「えっと……10年前だな。母上と一緒に行ったことがある。ただ10年前だからなぁ」

「変わっちまってても無理ねぇよなぁ」

「ドラくん、何か知ってる?」


 するとドラくんはこんなことを言うのだった。


「なんか……黒いな」

「黒い?」

「黒って?」

「分からない。ただ、前に……といっても半年前くらいだが、上から見たときに異様に黒く、そして静かだったのを覚えているな」

「黒くて、静か……」


 嫌な予感しかしません。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 しばらく経って、ドラくんがゆっくりと地面に降り、僕らを下ろした。


「この先から馬車が出せる。人は……いるようだな。運賃を出して頼めば出してくれるだろう」

「分かった。ありがとうドラくん!」

「必要になったらいつでも呼べ、我が主君」


 そういうとドラくんは再び空に舞い上がり、すぐに見えなくなってしまった。


「……ドラくんに『主君』って呼ばれるの、落ち着かないなぁ」

「ドラくんにとっては実際主君なんだ。なれろ」

「そんなこと言われましても……」

「とりあえず行こーぜ? 馬車出さないといけねーんだろ?」

「あっ、そうだね!」


 言うのを忘れていたが、今はもう結構暗い。僕らはドラくんに乗りながら夕飯――前に彰人さんにもらったやつの余り――を食べて、今ここにいる。馬車の中で一眠りさせてもらうつもりだ。
 少し暗い中、アリアさんが光魔法で前を照らしながら進んでいく。すると、何人かの人影を見つけた。そのわきには馬車も置いてある。


「お、ここか? おーい!」

「ん? 人か……って、あ、アリア様!?」

「え、あぁそうか。普通にしてたからな。まぁ、そうだな……うん、アリアだ」

「言葉がちょっとおかしいよアリア姉!」

「どうなされたんですか、こんなところで!」

「いや……なぁ、お前たちはこの馬車の御者なのか?」

「えぇ、そうですよ?」

「悪いが、馬車を出してもらえないか? サワナルに向かいたくてな」


 と、サワナルという言葉が出た瞬間、その場にいた人たちの顔が曇る。


「もちろん構いませんが……サワナルに向かうのですか?」

「そうだが……?」

「…………正直に申し上げて、あそこは異常ですよ。街の南端を除いては完全にどうかしています。そこにアリア様をお連れするわけには……」

「……なるほどな」


 アリアさんは理解したようにうんうんとうなずく。それを見てほっとした様子の御者たちは胸を撫で下ろす。が、


「じゃあ馬車を一台貸してくれ。私が御者をしよう」

「はい……はい!?」

「あ、アリアさん!」

「ん? どうした?」


 ケロッとした顔でそう言うアリアさんに、僕とポロンくんは詰め寄った。


「あのなアリア姉、この人たちが言ってるのは行かない方がいいってことで、自分達が行きたくないって訳じゃ」

「アリアさんに御者なんて、そんなことさせられません! ぼ、僕がやります!」

「ウタ兄!?」

「お前馬を操れるのか?」

「無理です!」

「なら私が」

「いや僕が!」

「私だ!」

「僕です! ……というか、」

「「普通に御者してみたい!」」

「おっまえらなぁ!?」

「…………サワナルに、お連れすればよろしいのですね?」

「え、あぁそうだ。そしてあわよくば明日の朝御者体験をさせてほしい」

「……ハイ」

「やったな、ウタ!」

「やりましたね、アリアさん!」

「おいらは頭がいたいよ」


 そうして、無事に馬車に乗ることができた僕らは、御者さんにお礼を言ってから、広くはない後ろの席で眠るのだった。
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