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ウタと愉快な盗賊くん
おいらの意思
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ノーセスは腰にさしていたレイピアを抜き、僕らに向かって順番に突きつけていく。ステータスがもとに戻った今、ノーセスのこの力……威圧の威力は大きい。
エヴァンさんのときもそうだったけど、ろくに動くこともできなければ言葉を発することも出来ない。なにも、することが出来ない。
「マルティネス・アリア。まさか、皇女であるお前がノコノコとこんなところまで来るなんてな。
高額商品がそちらから来てくれるなんて、こちらからしたらしてやったりだな」
「……黙れ…………!」
「……おや、」
ノーセスはレイピアを右手に持ったまま、左手をスッとアリアさんの首の下へもっていく。そして、赤く、長い爪で軽くその首筋を引っ掻く。
「っ……」
「私の威圧を受けてそんな口がきけるなんて。さすがマルティネス・エヴァンの娘、といったところか? でもまぁ、いつまで持つか」
それから、ノーセスはアリアさんから離れ、ポロンくんの前へといく。
「やぁ、裏切り者くん?」
「…………」
ポロンくんはアリアさんとは違う。威圧自体、受けるのは初めてだ。何も答えることが出来なくて当たり前だ。
ただ震えることしか出来ないポロンくんを、ノーセスは楽しむように鼻で笑う。
「ふん、生まれたての小鹿のように震えるくらいなら、わざわざやられに来なくてもよかったのなぁ?
……お前は商品にしては汚れすぎた。だが……子供の臓器ってのは、高く売れるらしいぞ?」
「う……」
怯えたように目をそらすポロンくんを見て、愉快そうに笑うノーセス。……僕は、まだぐったりとしているスラちゃんを腕に抱えたまま、じっとノーセスを見据える。
「お前は、ウタ、とかいう名前だったか? 転生者らしいが、どうしてまぁ、お前のような軟弱者が皇女と一緒にいられるんだか。何かの腐れ縁か?」
「……あなたには、関係ないです」
「はっ、どーだかな」
そして、なにかを思い出したようにポロンくんの方を見る。
「あぁ、そう。おい、ポル・ポロン。生きたいか?」
「…………ぇ」
ポロンくんは、目を丸くしてノーセスを見る。ノーセスは面白そうにポロンくんに語りかけるのだった。
「お前は、『マルティネス・アリアとヤナギハラ・ウタの身柄を私に渡すため、仲間になったふりをした』」
「っ?!」
辺りに衝撃が走る。ポロンくんは何も言えずにノーセスの目を見ている。
「どうだ? その二人を犠牲にしてくれるならお前は見逃してやろう。今まで通りだ」
「……お、おいら…………」
目に涙をため、うろたえたように視線を泳がせる。ただでさえ威圧を使われているんだ。冷静な思考で答えるのは難しいはずだ。そんなの、誘導尋問だ。
…………ポロンくん……。
「おいらは……っ!」
そして、ぎゅっと目を閉じると、ポロンくんはノーセスに向かって叫んだ。
「――嫌だっ!」
「…………なに?」
……ポロン、くん?
「おいらはっ……、もう、自分に嘘ついて生きてくのは嫌なんだい! しょうがないやって諦めるのは嫌なんだい!」
僕のなかで、なにかが動く。
「お……おいらは、ずっと、誰かに信じてもらえなかった。盗賊として生きてたから、正直な世界で生きられなかったんだ。
だ、だから、二人がおいらのこと、信じるって言ってくれて……ほ、本心からじゃなかったかもしれないけど、嬉しかった…………。すごく、嬉しかった」
「…………」
ノーセスは黙ってポロンくんの声を聞いている。アリアさんは、心配そうにポロンくんを見ている。
僕は――。
「だから……だからおいらは! 二人の仲間として生きていくことに決めたんだい! お、お前なんかに! 大事な仲間を売ってたまるか!」
どくん、と、大きく鼓動が鳴るのが聞こえた。
ポロンくんが、頑張っている。
僕らを守るために、僕らと生きるために、仲間になるために、頑張っている。
僕には、何ができる?
今の僕に……何ができる?
考えろ……考えるんだ。なにか出来るはずだ。そうだ、威圧をかけられているだけで、手足を縛られているわけでも、牢に入れられているわけでもない。
……絶対、なにか出来るはずだ。
「…………そうか」
ノーセスは目を閉じ、そして、恐ろしいほど低い声で呟く。
「――ならば死ね」
「っ!」
ポロンくんとノーセスの間は、約3mほどしかない。超至近距離だ。その距離でノーセスはレイピアをポロンくんに突き刺そうと振り上げる。威圧を受けているポロンくんは、体を震わせることしか出来ない。
「…………なに?」
レイピアが振り下ろされるまでに一秒もなかっただろう。その間に、ポロンくんと僕は床に倒れていた。
正確には、レイピアが振り上げられた瞬間、僕がポロンくんに体当たりし、攻撃を避けたってことだ。……火事場の馬鹿力、ってやつなのかな、これ。
「おい、お前……なんで泣きながら笑ってんだよ」
ポロンくんが困ったように笑いながら聞いてくる。僕はなんとなく目をそらして、そして笑った。
「あはは……なんか、嬉しくってさ」
「嬉しい……?」
「……スラちゃんのこと、少し頼むね」
よく分からないという表情だけれど、ポロンくんは僕の腕からまだスラちゃんを受けとると、しっかりうなずいた。
一方、攻撃を避けられたノーセスは少し苛立ちながら魔法を唱える。
「森羅!」
「ウタっ!」
アリアさんの声がする。ノーセスの手のひらから、僕らに向かって来る草木の蔦のような、幹のようなもの。見たところたくさんのトゲがあり、殺しにきているようだ。
……ここは冷静に対処しよう。
「ファイヤ」
「ふん、レベル15のお前が使う初級魔法なんて効くわけ……?!」
僕の炎は迫ってきたそれを全て焼き尽くした。動揺しているノーセスに、僕は初級光魔法を放つ。
「ライトっ!」
「っあ?!」
信じられないほどの眩い光がノーセスの目を焼く。と同時に威圧が解けたようだ。動けるようになったアリアさんが僕らの方へ駆け寄ってくる。
「ウタ! ポロン!」
「アリアさん……ポロンくんとスラちゃんのこと、お願いします」
そして、いつのまにか落としていた剣を拾い上げると、ぎゅっと握りしめた。
「僕は今、すごく怒ってるんですから!」
エヴァンさんのときもそうだったけど、ろくに動くこともできなければ言葉を発することも出来ない。なにも、することが出来ない。
「マルティネス・アリア。まさか、皇女であるお前がノコノコとこんなところまで来るなんてな。
高額商品がそちらから来てくれるなんて、こちらからしたらしてやったりだな」
「……黙れ…………!」
「……おや、」
ノーセスはレイピアを右手に持ったまま、左手をスッとアリアさんの首の下へもっていく。そして、赤く、長い爪で軽くその首筋を引っ掻く。
「っ……」
「私の威圧を受けてそんな口がきけるなんて。さすがマルティネス・エヴァンの娘、といったところか? でもまぁ、いつまで持つか」
それから、ノーセスはアリアさんから離れ、ポロンくんの前へといく。
「やぁ、裏切り者くん?」
「…………」
ポロンくんはアリアさんとは違う。威圧自体、受けるのは初めてだ。何も答えることが出来なくて当たり前だ。
ただ震えることしか出来ないポロンくんを、ノーセスは楽しむように鼻で笑う。
「ふん、生まれたての小鹿のように震えるくらいなら、わざわざやられに来なくてもよかったのなぁ?
……お前は商品にしては汚れすぎた。だが……子供の臓器ってのは、高く売れるらしいぞ?」
「う……」
怯えたように目をそらすポロンくんを見て、愉快そうに笑うノーセス。……僕は、まだぐったりとしているスラちゃんを腕に抱えたまま、じっとノーセスを見据える。
「お前は、ウタ、とかいう名前だったか? 転生者らしいが、どうしてまぁ、お前のような軟弱者が皇女と一緒にいられるんだか。何かの腐れ縁か?」
「……あなたには、関係ないです」
「はっ、どーだかな」
そして、なにかを思い出したようにポロンくんの方を見る。
「あぁ、そう。おい、ポル・ポロン。生きたいか?」
「…………ぇ」
ポロンくんは、目を丸くしてノーセスを見る。ノーセスは面白そうにポロンくんに語りかけるのだった。
「お前は、『マルティネス・アリアとヤナギハラ・ウタの身柄を私に渡すため、仲間になったふりをした』」
「っ?!」
辺りに衝撃が走る。ポロンくんは何も言えずにノーセスの目を見ている。
「どうだ? その二人を犠牲にしてくれるならお前は見逃してやろう。今まで通りだ」
「……お、おいら…………」
目に涙をため、うろたえたように視線を泳がせる。ただでさえ威圧を使われているんだ。冷静な思考で答えるのは難しいはずだ。そんなの、誘導尋問だ。
…………ポロンくん……。
「おいらは……っ!」
そして、ぎゅっと目を閉じると、ポロンくんはノーセスに向かって叫んだ。
「――嫌だっ!」
「…………なに?」
……ポロン、くん?
「おいらはっ……、もう、自分に嘘ついて生きてくのは嫌なんだい! しょうがないやって諦めるのは嫌なんだい!」
僕のなかで、なにかが動く。
「お……おいらは、ずっと、誰かに信じてもらえなかった。盗賊として生きてたから、正直な世界で生きられなかったんだ。
だ、だから、二人がおいらのこと、信じるって言ってくれて……ほ、本心からじゃなかったかもしれないけど、嬉しかった…………。すごく、嬉しかった」
「…………」
ノーセスは黙ってポロンくんの声を聞いている。アリアさんは、心配そうにポロンくんを見ている。
僕は――。
「だから……だからおいらは! 二人の仲間として生きていくことに決めたんだい! お、お前なんかに! 大事な仲間を売ってたまるか!」
どくん、と、大きく鼓動が鳴るのが聞こえた。
ポロンくんが、頑張っている。
僕らを守るために、僕らと生きるために、仲間になるために、頑張っている。
僕には、何ができる?
今の僕に……何ができる?
考えろ……考えるんだ。なにか出来るはずだ。そうだ、威圧をかけられているだけで、手足を縛られているわけでも、牢に入れられているわけでもない。
……絶対、なにか出来るはずだ。
「…………そうか」
ノーセスは目を閉じ、そして、恐ろしいほど低い声で呟く。
「――ならば死ね」
「っ!」
ポロンくんとノーセスの間は、約3mほどしかない。超至近距離だ。その距離でノーセスはレイピアをポロンくんに突き刺そうと振り上げる。威圧を受けているポロンくんは、体を震わせることしか出来ない。
「…………なに?」
レイピアが振り下ろされるまでに一秒もなかっただろう。その間に、ポロンくんと僕は床に倒れていた。
正確には、レイピアが振り上げられた瞬間、僕がポロンくんに体当たりし、攻撃を避けたってことだ。……火事場の馬鹿力、ってやつなのかな、これ。
「おい、お前……なんで泣きながら笑ってんだよ」
ポロンくんが困ったように笑いながら聞いてくる。僕はなんとなく目をそらして、そして笑った。
「あはは……なんか、嬉しくってさ」
「嬉しい……?」
「……スラちゃんのこと、少し頼むね」
よく分からないという表情だけれど、ポロンくんは僕の腕からまだスラちゃんを受けとると、しっかりうなずいた。
一方、攻撃を避けられたノーセスは少し苛立ちながら魔法を唱える。
「森羅!」
「ウタっ!」
アリアさんの声がする。ノーセスの手のひらから、僕らに向かって来る草木の蔦のような、幹のようなもの。見たところたくさんのトゲがあり、殺しにきているようだ。
……ここは冷静に対処しよう。
「ファイヤ」
「ふん、レベル15のお前が使う初級魔法なんて効くわけ……?!」
僕の炎は迫ってきたそれを全て焼き尽くした。動揺しているノーセスに、僕は初級光魔法を放つ。
「ライトっ!」
「っあ?!」
信じられないほどの眩い光がノーセスの目を焼く。と同時に威圧が解けたようだ。動けるようになったアリアさんが僕らの方へ駆け寄ってくる。
「ウタ! ポロン!」
「アリアさん……ポロンくんとスラちゃんのこと、お願いします」
そして、いつのまにか落としていた剣を拾い上げると、ぎゅっと握りしめた。
「僕は今、すごく怒ってるんですから!」
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