チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

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ウタと愉快な盗賊くん

最上階

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 螺旋階段をのぼる。と、その時、なにか違和感のようなものを感じた。……なんだろう、これ。


「アリアさん、ポロンくん、なんか、変じゃない?」

「……おいらも思ってた。なんか、空気が重いっていうか」

「なんだ……? 毒、とかではなさそうだな。でも明らかに、この上は雰囲気が変わっている」

「……進みますけど、大丈夫、ですか?」

「行くしかないだろう」

「今さら引き返せないや。行こうぜ!」


 二人の言葉にうなずいて、最上階の床を踏む。とたんに、目に見えない圧迫感に襲われ、思わず顔をしかめた。……な、なんだ、これ。


「……やはり、ここから上は、ないか」


 アリアさんがいう。確かに、今まであった螺旋階段がなく、奥に大きな扉、その左右に大きな窓があり、扉の前には玉座のようなものが置いてある。……いよいよボス戦って感じがしてきた。


「…………おい、あれ、なんだ?」

「あれって?」

「う、上、だよ」


 ポロンくんが震える声で言う。その声に促されて上を見上げる。すると、


「な、なんだこれ!」


 アリアさんも声をあげる。僕はもう恐怖から震えしかない。
 見上げたそこには、大きな黒い穴がぽっかりと開いていたのだ。唖然として見上げていると、その穴が不気味に光始め、そして、とんでもない数の魔物が降ってきた。


「うわわわっ!?」

「嘘だろ!?」

「お、おい! おいらの後ろに来い! ウォール!」


 ポロンくんの作った壁によって、直接鉢合わせすることはなくなったが、その壁を回り込んでたくさんの魔物が襲ってくる。


「……くっ、相手にしている時間なんてないのに、仕方ないな。
 ウタ、やれるか?」

「…………」


 守るため――。


「わかりました。ポロンくん! アリアさん! やりましょう!」

「よし! 行くぜー!」


 僕は鞘から剣を抜いた。……先に言っておこう。


「…………ごめんなさい」


 そして、目の前に迫ってくるゴブリンやオーク、ウルフたちを、時に切り裂き、魔法で吹き飛ばし、数を減らしていった。

 ……魔物たちと、仲良くはなれないのだろうか? スラちゃんとは友達になれたのに、倒さなきゃいけないのかな。

 考えている暇なんてない。倒さないと、やられてしまう。
 一通り倒し終え、アリアさんの方をちらりと見ると、あちらも無事のようだ。ポロンくんは……うん、大丈夫。そうしたら、今度こそ頭領を探さないと。


「……っ?! ウタ! 避けろ!」


 ハッとして上を見上げると、そこにはまさかの魔物第二段。あ、ヤバイ。逃げ遅れ――


「ぷるっ! ぷるるっ!!」

「す、スラちゃん!?」


 突然、僕の服の内側に隠れていたスラちゃんが飛び出す。そして、魔物たちに向かっていった。


「だ、ダメだよ! 危ないよ!」

「ぷるるるるっ!!!」


 スラちゃんの体がまばゆく輝く、と思ったら、周りにいた魔物たちはみんな消え去っていた。


「…………え?」

「ぷしゅー……」

「あ、スラちゃん! うぉ、ウォーター!」


 心なしか少し水分が抜けたように見えるスラちゃんに水をぱしゃぱしゃとかけつつ、僕はスラちゃんを鑑定してみた。



名前 スライム

種族 スライム族

年齢 ???

職業 ――

レベル 15(使役者と共通)

HP 115

MP 23

スキル 体術(初級)

ユニークスキル 劇薬

称号 ぷるぷる・ウタの使い魔・癒し



 ……劇薬って、なんだ?


「お、おい! スラちゃんは大丈夫なのか!? 何が起こった!」

「な、なんかすごいの見ちまった気がする……」

「なんか、劇薬ってスキルがあって……鑑定してみますね」


劇薬……使役されたときのみ手にいれるスキル。主人の敵とみなした対象を消し去る。その後、一定時間行動不能。


「…………主人の敵を、消してくれるそうです。そのあと、行動不能になるって書いてありますけど、休ませれば大丈夫そうですね」


 僕はスラちゃんをそっと抱き締める。……僕のこと、守ってくれたってことだよね。ありがとう。


「…………30分だ」


 突然響いた低い女性の声。ハッとして振り向くと、誰も座っていなかったはずの玉座に、一人の女性が腰かけていた。
 穴は閉じているが、不気味に笑うその人は、目を静かに光らせた。


「…………これ……」


 急に鼓動が速くなる。息が苦しい。体全身が強ばったように動かない。目だけを動かして二人を見る。
 ……アリアさんは苦しそうにしながらも、これがなんなのか分かっているようだった。ポロンくんは、この感覚を知らないのか?


「ステータス10倍のスキルが切れるまで、30分、だったな?」


 こちらから一切視線を離さずにその人は笑う。心の内を射ぬかれているようで、背筋に悪寒が走る。


「ポル・ポロン……全く、どうしてお前のような下っぱに、頭領についての正しい情報が流れてると思ったんだか」

「……じ、じゃあ、お前…………」


 その女性は、真っ赤な髪をかきあげると、にたりと微笑んだ。


「私がキルナンス頭領、ノーセスだ。ここまで来てしまったことを、十分過ぎるまでに後悔させてやる」


 そして、ゆっくりと、僕らに近づいてきたのだ。
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