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ウタと愉快な盗賊くん

雷の使い手 エイプリー

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 四階は、三階に比べるととても明るいが、二階よりは薄暗い。そして、とても殺風景だった。ほとんど何もないのだ。ただ、奥に扉があって、その前に例のごとく螺旋階段があるだけだった。


「……はぁ…………」

「大丈夫ですか? アリアさん」

「無理すんなよ? 次はおいらが頑張るからさ!」

「心配かけて悪いな。……でも、今はあっちに集中だ」


 アリアさんの視線の先に目をやる。奥の扉が開いていて、その前には、真っ白な長い髪をした女性が、静かに立っていた。
 消去法でいくと、この人が四天王最後の一人、エイプリー。とりあえず、冷静に鑑定する。



名前 エイプリー

種族 人間

年齢 29

職業 魔術師

レベル 60

HP 7100

MP 4000

スキル アイテムボックス・暗視・剣術(中級)・体術(中級)・初級魔法(熟練度6)・炎魔法(熟練度6)・雷魔法(熟練度8)・光魔法(熟練度4)・闇魔法(熟練度3)

ユニークスキル 雷鳴

称号 キルナンス四天王・雷の使い手・冷淡



 身構える僕らに、エイプリーは静かに口を開く。


「……先を急ぐのはわかる。でも、少し話を聞いて」


 今までの四天王とはまるで違う。疲れきっているアリアさんに代わって、僕は口を開いた。


「……話が、したいって?」

「今までの、全部見てた。みんなは強い。でも、それを倒した、あなたたちはもっと強い。普通に戦ったら、勝てない」


 あまりにも弱気な態度に、こちらがどう反応していいのか分からなくなってしまう。


「だから、取り引き、したい」

「取り引き?」


 僕が聞き返すと、エイプリーはうなずく。


「あなたたちが、ローレン、カーター、モーリスをここに残して、ここから去ってくれたら、私たちは、あなたたちのことは追わない。危害も加えない。だから、帰ってほしい」

「…………」


 簡単に言えば、今ここで引き下がれば、お前らのことは許してやる、ということだ。
 僕はちらりと二人を見る。……しっかりと意思を持った目で、うなずかれた。


「……僕らは、退きません。絶対に」

「そう。残念。……それじゃあ、」


 エイプリーが右手を前に突き出す。僕らもそれを見て一気に身構えた。


「雷鳴」


 突如として、その手から僕らに向かって三本の雷が放たれる。咄嗟に横に避けて回避する。ポロンくんも同じように。が、


「っく……」

「あ、アリアさん……!」


 動きが鈍っていたアリアさんだけは避けきることができずにその攻撃を受け、床に膝をつく。すぐに駆け寄ろうとしたが、


「雷鳴」

「っ……」


 また魔法が放たれ、近づくことが出来ない。その代わりアリアさんにエイプリーが近づいていった。
 雷魔法には麻痺の効果がある。そう、さっきアリアさんが言っていたのを思い出した。そのせいなのか、アリアさんはほとんど動くことが出来ないようだ。


「……ステータス10倍に加えて、窃盗という大きなスキル。そして、なぜかあなたたちは、私たちの弱点を知っている。普通にやったら勝てない。
 でも、一人弱ったのがラッキーだった」

「っ、離せ……!」


 エイプリーは身をかがめ、アリアさんの首に左腕を回し、懐から取り出したナイフを突きつける。


「……殺されたく、ないでしょ? 私も殺したくない。いい商品。カモはたくさんいる。皇女で、美人。スタイルもいい。金貨1000枚はくだらない。

 殺されたくなかったら、そこから一歩も動かないで。あと、窃盗のスキルは解いて。言うこと聞かなかったら、この首、切っちゃうからね」


 なにも言い返せないし、なにか行動することも出来ない。と、いつのまにか窃盗を使っていたポロンくんが僕の隣に姿を見せ、そして、僕に聞いてきた。


「……なぁ、予定は未定であって、絶対にそうしなきゃいけないってことじゃ、ないよな?」

「え?」


 この状況で、何をいってるんだろう……。僕が頭にはてなを浮かべると、ポロンくんは続けていう。


「敵を倒すよりも、仲間を助ける方がいいよな」

「……うん、そうだね」


 ポロンくんがなぜそんなことを聞いてくるのかわからなかった。けど、


「……じゃあ、二人は、死んで」

「お前ら! 避け――」


 次の瞬間、全て理解した。


「プランツファクトリー!」


 ポロンくんがそう叫んだ瞬間、床から無数の蔦がのび、エイプリーのナイフに絡みつく。蔦は、驚いて僕らから目を離したエイプリーにも絡み付き、動きを封じていった。
 僕はチャンスだと思い、アリアさんの方へかけていき、蔦が絡み付いたナイフを遠ざけ、腕を引いた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ……悪い、私が避け損ねたから」

「もういいですって! 無事だったんだから! それに、まだ終わってませんよ!」


 蔦に絡まれ、それをなんとか振りほどこうとしているエイプリーだが、これはアイリーンさんにポロンくんがもらったスキルだ。そう簡単に解除できるわけがない。


「なに……これ……とれない」


 そして、その背後に、スッとポロンくんが現れる。


「おいらだって、キルナンスの端くれだい。こういう修羅場、何回か乗り越えてるんだからな」

「…………!?」

「卑怯なのは、お互い様だい!
 ウィングトルネード!」


 ポロンくんは風魔法を唱えると同時にプランツファクトリーを解除する。風の渦に巻き込まれたエイプリーは高く浮き上がり、やがて、床に落ちて気を失った。


「……へへ、予定とは違うところでプランツファクトリー使っちまったよ。ごめん」


 頭をポリポリとかきながら気まずそうにポロンくんがいうが、僕もアリアさんも首を振る。


「いや、お前が機転を利かせてくれなかったら、私は死ぬか、人身売買で売り渡されていたかもしれない」

「僕らだって死んでたかもだしね。全然大丈夫だよ! むしろ本当にありがとう! ポロンくん!」

「……べ、別に、おいらは自分が助かろうと思ってそうしただけだい!」


 自分が助かればいいのであれば、窃盗を解除せずに背後をとればよかったのだけど、そうはせずに姿を現してアリアさんの安全を確保しようとした。

 ……全く、素直じゃないなぁ。


「……次、頭領か?」

「そうだな。四天王はみんな倒した。おいらが知ってるのが正しければ、次が頭領のはずだい」

「ちょっと緊張しますね……。アリアさん、怪我とかしてませんか?」

「怪我はしてないが、まだ完全に痺れが……あぁそうだ。二人のどっちでもいいが、回復魔法お願いできるか?」

「あっ、じゃあ僕が。僕ならすぐにMP回復しますから。ヒール」


 アリアさんに向かって手をかざす。目には見えないが、アリアさんの様子を見る限り、ちゃんと出来ているようだ。


「よし、もういいぞ。疲労感も、さっきよりは大分回復した。これならいける」

「……いける? ポロンくん」

「おいらはいつだって大丈夫だい!」

「よし……じゃあ、行くよ」


 僕らは、最後と思われる螺旋階段をのぼった。
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