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ウタと愉快な盗賊くん
懸念
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アイリーンさんから色々すごいものを貰った僕たちは、突撃するのは明日にして、今日はそれに向けて体力を温存することにした。
ポロンくんとは明日の11時に、今日会った場所で待ち合わせることにした。僕とアリアさんは依頼用に採ってきた薬草をギルドに届け、二人で合計、金貨六枚を手にいれた。
「これでなんとか、ぼったくられた分はちゃらに出来ましたね!」
「だな。あいつ……情報をくれるのはありがたいが、色々と高値で売りつけてくるのは勘弁してほしいな」
そういえば、今回はまだあの人の言葉の意味が分かっていないのだった。
「何て言ってましたっけ……?」
「えーっと……なんだっけな?」
し、しまった。一晩経って忘れた……。情報がなければ、ただ単にぼったくられただけである。うっ、頭がいたい……。
「思いだそう、頑張って」
「そうですね。思い出しましょう……」
「…………あー、思い出せる、かな?」
「思い出せますよ! ……多分きっともしかして」
「不確かだな」
すると、そうだ! と、アリアさんが手を叩いた。
「思い出すには頭を使わないといけないよな!」
「えっ? まぁ、そうですね」
「脳みそを動かすには、甘いものだよな!」
……あー、もしかして?
「……普通に言ってくれていいですよ」
「甘いものが食べたくなった」
女子高生か! いや、年齢的にはバリバリ女子高生か。ならしょうがない? まぁ、僕だって甘いものは好きだけど。
「いいだろ? 少しくらい気を抜いたって。明日へのエネルギー補給だ!」
うっ……そ、そんな目をキラキラさせながら言われて断れるほど、僕はメンタル強くないですー。勇気とかそういう問題じゃないけど、やっぱり押しには弱いんですー。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
……というわけで街中で見つけたオシャレなカフェで休憩中です。少し暗めの暖色系の灯りが店内を照らし、なかなかシックな雰囲気に包まれている。テーブルも椅子も焦げ茶色の木製で、どこかホッとしてしまう。誰かがどこかで弾いているのか、それとも何か機械で流しているのか、ピアノの音が聞こえる。
「いい雰囲気だな」
「ですねー。落ち着きますね。なんか、ここだけ時間がゆっくりになってるみたいな」
「確かにそうだな。王都を出てから色々あったし、ゆっくりするのも、悪くないな」
しばらくしてウェイターがパイを二つ、僕らのもとに運んでくる。一口食べると、サクサクとした食感と優しい甘さが口に広がる。か、かなり美味しい。
「ところでウタ、二つほど落ち着いて話しておきたいことがあるんだ」
「…………? なんですか?」
そう聞き返すと、アリアさんは少しだけ声をひそめ、言った。
「まず、ポロンのことだ」
「ポロンくん……ですか」
「あいつ、何か隠してる風じゃなかったか?」
そのアリアさんの言葉に、僕は小さくうなずく。嘘をついている感じではなかったのだ。もううんざりだと言ったあの目や、上層部についての情報。嘘ではない。しかし、全てを言っているわけでもない。
「隠しているとしたら……なんでしょう。まぁ、僕らも手の内を全部さらしているわけじゃないですけど」
「……そうだな」
僕らが明かしていない手の内。それは、『勇気』についてだ。話す機会がなかったというのもあるけれど、アリアさんのことがキルナンスに伝わっていたことも考慮して、言わない方がいいかもしれないと思ったのだ。
ポロンくんを信じていない訳じゃないが、その後ろに誰がいるか分からない。ポロンくんがキルナンスであり、それが存在し続ける以上、警戒は怠れないのだ。
「あいつが隠すとしたら、こちらの不利益になって、あちらの利益になることだろう。そしてその材料の中に、『私たちが上層部を倒しにいくこと』が組み込まれていたり、な」
なんにしても、ポロンくんと塔に忍び込むうえで、一番警戒しなければならないのはポロンくんなのだ。今だって、『窃盗』を使って話を聞いている可能性だってないわけじゃない。
……でも、
「……信じたい、ですけど」
「……そうだな」
アリアさんのことをなにかしら僕らに言ってくれれば、僕らも素直に信じることが出来たのだけれど何も言わないとなると困ったものだ。
だって、僕もアリアさんも、ポロンくんが本当に悪いやつだなんて思ってないし、思いたくないからだ。
「明日、大丈夫でしょうか?」
「……さぁな」
でも、と、アリアさんがが続ける。
「アイリーンもポロンに言っていただろう? 魔属性球体、その使い方はポロン次第だ。
あの言い草だと、アイリーンも当然のように気づいてるだろうな。それでもあれをポロンに渡したんだ。大丈夫だという想いも、あったのだろう」
「…………信じますか」
「私は信じる。きっと大丈夫だって。……お前は?」
「僕も、信じます」
「……じゃあ、私たちの想いはそれだ。いいな?」
「はい!」
始めから疑ってかかるのではなくて、信じてみる。ダメならダメで、その時考えればいい。……せっかくの二度目の人生だ。一度目には出来なかったことをしよう。
「ところで、もう一つって?」
「あぁ、それは……」
少しだけ言葉に詰まったアリアさんをじっと見ると、いつになく悲しそうに笑いながら僕に言った。
「私の、過去についてだ」
ポロンくんとは明日の11時に、今日会った場所で待ち合わせることにした。僕とアリアさんは依頼用に採ってきた薬草をギルドに届け、二人で合計、金貨六枚を手にいれた。
「これでなんとか、ぼったくられた分はちゃらに出来ましたね!」
「だな。あいつ……情報をくれるのはありがたいが、色々と高値で売りつけてくるのは勘弁してほしいな」
そういえば、今回はまだあの人の言葉の意味が分かっていないのだった。
「何て言ってましたっけ……?」
「えーっと……なんだっけな?」
し、しまった。一晩経って忘れた……。情報がなければ、ただ単にぼったくられただけである。うっ、頭がいたい……。
「思いだそう、頑張って」
「そうですね。思い出しましょう……」
「…………あー、思い出せる、かな?」
「思い出せますよ! ……多分きっともしかして」
「不確かだな」
すると、そうだ! と、アリアさんが手を叩いた。
「思い出すには頭を使わないといけないよな!」
「えっ? まぁ、そうですね」
「脳みそを動かすには、甘いものだよな!」
……あー、もしかして?
「……普通に言ってくれていいですよ」
「甘いものが食べたくなった」
女子高生か! いや、年齢的にはバリバリ女子高生か。ならしょうがない? まぁ、僕だって甘いものは好きだけど。
「いいだろ? 少しくらい気を抜いたって。明日へのエネルギー補給だ!」
うっ……そ、そんな目をキラキラさせながら言われて断れるほど、僕はメンタル強くないですー。勇気とかそういう問題じゃないけど、やっぱり押しには弱いんですー。
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……というわけで街中で見つけたオシャレなカフェで休憩中です。少し暗めの暖色系の灯りが店内を照らし、なかなかシックな雰囲気に包まれている。テーブルも椅子も焦げ茶色の木製で、どこかホッとしてしまう。誰かがどこかで弾いているのか、それとも何か機械で流しているのか、ピアノの音が聞こえる。
「いい雰囲気だな」
「ですねー。落ち着きますね。なんか、ここだけ時間がゆっくりになってるみたいな」
「確かにそうだな。王都を出てから色々あったし、ゆっくりするのも、悪くないな」
しばらくしてウェイターがパイを二つ、僕らのもとに運んでくる。一口食べると、サクサクとした食感と優しい甘さが口に広がる。か、かなり美味しい。
「ところでウタ、二つほど落ち着いて話しておきたいことがあるんだ」
「…………? なんですか?」
そう聞き返すと、アリアさんは少しだけ声をひそめ、言った。
「まず、ポロンのことだ」
「ポロンくん……ですか」
「あいつ、何か隠してる風じゃなかったか?」
そのアリアさんの言葉に、僕は小さくうなずく。嘘をついている感じではなかったのだ。もううんざりだと言ったあの目や、上層部についての情報。嘘ではない。しかし、全てを言っているわけでもない。
「隠しているとしたら……なんでしょう。まぁ、僕らも手の内を全部さらしているわけじゃないですけど」
「……そうだな」
僕らが明かしていない手の内。それは、『勇気』についてだ。話す機会がなかったというのもあるけれど、アリアさんのことがキルナンスに伝わっていたことも考慮して、言わない方がいいかもしれないと思ったのだ。
ポロンくんを信じていない訳じゃないが、その後ろに誰がいるか分からない。ポロンくんがキルナンスであり、それが存在し続ける以上、警戒は怠れないのだ。
「あいつが隠すとしたら、こちらの不利益になって、あちらの利益になることだろう。そしてその材料の中に、『私たちが上層部を倒しにいくこと』が組み込まれていたり、な」
なんにしても、ポロンくんと塔に忍び込むうえで、一番警戒しなければならないのはポロンくんなのだ。今だって、『窃盗』を使って話を聞いている可能性だってないわけじゃない。
……でも、
「……信じたい、ですけど」
「……そうだな」
アリアさんのことをなにかしら僕らに言ってくれれば、僕らも素直に信じることが出来たのだけれど何も言わないとなると困ったものだ。
だって、僕もアリアさんも、ポロンくんが本当に悪いやつだなんて思ってないし、思いたくないからだ。
「明日、大丈夫でしょうか?」
「……さぁな」
でも、と、アリアさんがが続ける。
「アイリーンもポロンに言っていただろう? 魔属性球体、その使い方はポロン次第だ。
あの言い草だと、アイリーンも当然のように気づいてるだろうな。それでもあれをポロンに渡したんだ。大丈夫だという想いも、あったのだろう」
「…………信じますか」
「私は信じる。きっと大丈夫だって。……お前は?」
「僕も、信じます」
「……じゃあ、私たちの想いはそれだ。いいな?」
「はい!」
始めから疑ってかかるのではなくて、信じてみる。ダメならダメで、その時考えればいい。……せっかくの二度目の人生だ。一度目には出来なかったことをしよう。
「ところで、もう一つって?」
「あぁ、それは……」
少しだけ言葉に詰まったアリアさんをじっと見ると、いつになく悲しそうに笑いながら僕に言った。
「私の、過去についてだ」
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