チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

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ウタと愉快な盗賊くん

考え事

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「ふぅ……。空いたぞ。ウタも入ってきたらどうだ?」

「あ、はい。じゃあ、入ってきます」


 アリアさんが、濡れた髪をタオルで拭きながら言う。
 ガルシアさんと話したあと、ギルド内でも聞き込みをしてみたけど、収穫は、やはりというかなんというか、全くなかった。
 なので、僕らは街でチョコレートだけ買い、その後そのままホテル・チョコレートへ戻ってきて、少し休んだのち、夕食を食べて寝る支度に入っている。

 お風呂は部屋にひとつ。ここはさすがに、アリアさんに先に入ってもらった。僕はスラちゃんと戯れつつ待っていて、これから入るのだ。
 二日ぶりのお風呂、気持ちいいだろうなぁ。


「あぁ、結構お湯は熱めだ。のぼせないようにしろよ」

「はーい」


 部屋と浴室をつなぐドアを閉め、服を脱ぐ。……この服、着やすいけど、いまだにちょっと違和感だ。王都にいたときに貸してもらって――今はもう僕のものとなっている――洗濯が必要ないとかでずっと着続けている。
 アリアさんいわく、『父上の若いときに着ていたもの』だそうで、今はもう着ていないんだとか。
 シャツのような物に革のベスト。それからストレッチジーンズのようなズボン、と、シンプルで軽装だが動きやすく丈夫だ。

 まぁそれはともかく、服を脱ぎ、少しお湯を被ってから湯船に浸かる。


「ふぅーーーーー」


 やっぱ日本人っていうのは、お風呂に浸かるとリラックス出来るもんなのね。
 こっちの世界では、湯船にはよく浸かるらしい。過去の転生者が入浴の文化を教えたんだとか。……ナイス過去の転生者。これ本当に疲れがとれる、


「…………」


 それにしても……。今日だけで色々あった。
 侍にぼったくられて、キルナンスが襲ってきて、宿屋の人はなぜかめちゃ強くて、またぼったくられて、ギルドでガルシアさんと会って……。


(いや、今日だけで二回もぼったくられてるのか、僕ら)


 ふと、そこであの人の言葉を思い出す。


(氷、雷、光、風、炎……って、なんだ? 何かの順番みたいだけど……)


 ただ魔法っぽいなぁってことしか分からない。暗号にしちゃ無理があるし、だからってなんの意味もないってことでもなさそうだけど……。

 ……それに、ガルシアさんはあぁ言ってたけど、仮にそうするように頑張るとして、僕らにできるのだろうか?
 勇気が発動すればチャンスはあるかもしれない。でも、勇気は故意に発動出来ない。いざというときに切れてしまう可能性だってあるわけだ。そんな不確かなものに、命を懸けるのか? いや怖すぎる。アイリーンさんに頼めばいいのに。
 ……アイリーンさんに頼めばいいのか? いや、多分やってくれないなー。めんどくさいからって。

 ていうかアイリーンさんどんだけ強いの? ドラくんだってあのステータスにとどいていない。
 あとでアリアさんから聞いたけど、全種類の属性魔法をマスターするのはとても難しいらしい。人それぞれ、得手不得手があるから、一生一つだけ、なんてケースもよくあるらしい。
 特にドラくんのような人でないものだとその影響はさらに大きく、普通は一つ、多くて三つだそう。

 ……そう考えると、アイリーンさんは、やはり異常だ。

 あー、もう! 考えることが多すぎて話にならない! まずは一つ一つ整理して…………。

 …………。
 ……あれ?

 ……これは……まさか…………?


「…………」

「お、出てきたか」


 なるべく早く体を洗い、髪を洗い、僕はぼんやりとアリアさんの前に立っていた。


「…………アリア、さん」

「え? お前……どうした?」


 ふらふらと歩いていき、僕はベッドに倒れこんだ。


「……のぼせました…………」

「……はぁ?!」


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 はぁ……僕は何をしているんだ。わざわざアリアさんも注意してくれたのに……いや、あれはフラグか? フラグなのか?


「ほら、飲み物貰ってきたぞ。お茶でよかったか?」

「はい……すみません、色々」

「気にするな」


 ベッドから起き上がり、アリアさんからお茶を受け取ってごくごくと飲む。……はぁ、生き返るような気がする。でも体はまだポカポカしてて、頭もボーッとする。


「それにしても……ウタならあり得ると思って注意したが、まさか本当に……」

「す……すみません。考え事してたら、なんか、ボーッとしてきて」

「考え事、か。もしかして、キルナンスのことか?」


 少し堅い顔でアリアさんが尋ねる。僕がそれにうなずくと、深く一つ息をはいた。


「……そんなこと言われたってなぁ、そもそも上層部のやつらがどこにいるのかも分からないんだ。倒すもなにもない気がする」

「僕もそう思います。だってほら、どこにいるのか分からないなら、来週の奴隷市まで待つしかないってことですよね? きっとたくさんの人が集まるでしょうし、その人数を掻い潜って上層部5人を見つけるなんて、難しい気がします」

「……まぁ、場所は知ろうと思えば知れなくもないがな」


 そう、場所が分かって、5人を相手にするだけでいいとしても、僕らは二人しかいない。実力の差は、計り知れない。


「……どうすれば、いいんでしょうか…………」

「……とりあえず、だ。お前は横になれ。それでじっとしてろ。まだ顔が赤いぞ」

「うぅ……すみません」
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