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ウタと愉快な盗賊くん

ギルドへ

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 結果として、やっぱり女侍にぼったくられ、金貨二枚を失い、僕らはしぶしぶ手に入れた睡眠学習用枕もろもろをアイテムボックスに入れた。
 それからしばらくして、ようやく本来の目的であるギルドに辿り着いたのだった。……まぁ、あの人が言っていたことが気にならなくもないが、今はこちらから攻めようという話になった。

 ギルドに入り、受付嬢の一人にアリアさんが声をかける。


「少しいいか?」

「はい、どうなさいましたか?」

「キルナンスのやつらは、ここに捕らえられているんだな?
 会わせてほしい。いくつか聞きたいことがあるんだ」

「え!? 何いってるんですか! ダメですよ一般の人がそんなこと!」

「……あー、そうなるわけか」


 アリアさんは、少し前まではただ帽子をかぶっているだけだったが、キルナンスの狙いが自分だと分かり、今は長く綺麗な金髪を帽子にいれて隠している。
 まぁそのせいで、受付嬢さんに話が通じなくなってしまったようだが。


「んー……どうしましょうか」

「まぁ、これが一番手っ取り早いだろう。
 めんどくさいことになるかもしれないが、その時は、上手く立ち回ってくれ」

「…………?」


 そしてアリアさんが帽子に手をかけると、ふわっと綺麗な金髪がこぼれ、アリアさんの胸より少し下くらいまで落ちていった。
 アリアさんは唖然としているギルドの受付嬢さんを横目に、蝶の髪飾りで手早く長い髪をまとめると、にっこりと笑った。


「これならいいか?」

「あ……あ、アリア様!? 本当にいらっしゃったんですか!?」

「あぁ。だから、キルナンスのやつらの――」


 ……なんだか、周りがうるさい気がするなぁー?


「アリア様!」

「アリア様だ! 本物だ!」

「お、おい……めっちゃ美人じゃねーかよ」

「こうしてられるかよ! 握手だけでもしてもらわねーと!」

「ちょっと! あんたばっかりずるいわよ!」

「あ、わ、私も!」

「俺もー!」

「……え、わ、ちょっと待っ」

「アリア様ー!!!」

「うわぁ!?」


 アリアさんはあっという間にギルド内にいた人々に囲まれ、完全にもみくちゃにされていた。……めんどくさいって、こういうことか。人気者は辛いなぁ……。


「……う、ウタっ! 助けてくれっ!
 っ、あー! ちゃんと順番に対応するから、少し離れろー!」

「あっ、アリアさん! ちょっと待ってください!」


 人混みを押し分け、なんとかその隙間からアリアさんを逃がす。……レベル上がっててよかったぁ。ステータス上限無効持っててよかったぁ。でなきゃみんな格上だから弾き飛ばされて終わりだったよ。

 ……こうして始まったアリアさんの握手会(?)は、相当な時間にわたって行われた。いやいや、アリアさんアイドルかい。って、なんか人増えてるし。
 その間に僕はキルナンスの人たちについて交渉をし、今回のキルナンスの部隊長だった人と面会する許可をもらった。

 なんやかんやあって、ようやくみんなから解放されたアリアさんは、これからはもっと冷静に行動しろと言い、みなさま、元気なお返事をしていました。


「……ふぅ、やっとか」

「お疲れ様です。……いつもこうなんですか?」

「いつもって訳じゃないが、王都に近いところだと高確率でこうなる。他国や田舎だとそうでもないさ」

「そうなんですか。……いやまぁ、他でもこうだったら大変ですもんね。
 部隊長だった人と面会できるらしいです」

「そうか。任せっきりで悪かったな」

「逆にあれで対応しようとか無理じゃないですか?」

「…………まぁ、な」


 僕らがカウンターの奥の扉に入ると少し開けた空間になっていて、そこには一人の男性が立っていた。


「このギルドのギルドマスター、クラークといいます。アリア様と、ウタ様ですね、どうぞこちらへ」

「はい。……あの騒ぎの中、キルナンスの人がみんな倒れて、誰も不思議に思わなかったんですか?」

「アイリーン様の実力は、みな存じておりますので」

「なるほど」


 そして、そのまま奥に案内される。広くはない通路を進んでいくと、やがて、頑丈そうな真っ黒い扉の前に来る。


「この部屋は面会用の隔離部屋となっています。中は透明な壁で仕切られており、全ての攻撃体制があるため危害は与えられませんが声は聞こえます。
 万が一なにかありましたら私をお呼びください。少しは力になれるでしょう。
 あぁ、スライムは、中へは入れないでください。私がちゃんと見ています」

「ぷる……」


 僕はスラちゃんを肩から床に下ろし、そっと撫でた。


「……分かった。ちなみに、中にいるのは何て言うやつだ?」

「確か、ガルシアという男です。レベルは50を越えているようですが、捕らえられたキルナンスの中では話が出来る方ですよ。中には、錯乱しているのか、誰彼構わず魔法を放つような輩もいましたからね」


 そこまで言うと、クラークさんは扉を開き、僕らを中へ促した。それに従って中に入ると、少し薄暗い印象で、例えるとすれば、刑事ドラマであるような面会室。あれによく似たつくりになっていた。
 こちら側には椅子が二つ。他にものはなく、入ってきた扉があるだけだった。
 あちら側も、造りとしてはほとんど同じ。違うことがあるとすれば、あちらには椅子は一つしかなく、もうすでに、一人の男が座っていた。
 瞳は深い緑色。髪は黒く、ボサボサだった。髭も伸び、きれいとは決して言えないような見た目だが、雰囲気だけは妙に落ち着いていた。

 僕らは用意されていた椅子に腰を掛けると、じっとその男の、深い緑の目を見た。


「……お前が、ガルシアか?」


 アリアさんがたずねると、男はにたぁっと、気味の悪い笑みを浮かべた。
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