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ウタと愉快な盗賊くん

テンプレ来たー?

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 しばらく何も起こらずに歩いていると、突然、アリアさんが立ち止まった。


「アリアさ――」

「しっ、静かに。……誰か、いるのか?」


 物音ひとつしない。気のせいか、と、僕らが気を緩めたその瞬間だった。


「ファイヤ!」

「うわっ?!」

「ウタ!」


 ぐいっと腕を引かれ、なんとか避けることができた。……初級炎魔法? もちろん、唱えたのは僕やアリアさんじゃない。いったい誰が……と思っていたら、僕のお腹の辺りに小さなナイフが突きつけられた。

 ……お腹?


「おい! 金目のものを出せ! そうじゃなきゃこいつの腹をかき切るぞ!」


 ……なんだろう。ずいぶんと低い位置から脅し文句が聞こえる。というかナイフの位置も低すぎやしないだろうか。普通は首とか……。
 てか、あれだな。僕でもドラくんほどの大物を相手にすると慣れってものが生じてくるんだな。ほとんどビビってない。


「……あー、その、あれだ。申し訳ないが、金目のものは持ってないんだ。私たちはまだDランクの冒険者で」

「え? ……あ、で、でも! お前はマルティネス・アリアで、お前はその御付きだときいたぞ!」

「御付きなんですかね」

「さぁな」

「皇女なら、なにかいいもん持ってるだろ!?」

「いや、悪いが、本当にない」


 確かに王都にあるアリアさんの物なら、かなりの値がつくだろう。しかし、それらをアリアさんは全て置いてきてしまったのだ。旅には必要ないし、もしも何かあれば、売って換金してもいいとまで言っていた。……とことん尽くす人だ。
 まぁそれはともかく、本当に僕らはお金がない。僕のお金だって、少ない収入源から考えるとかなり貴重だ。渡すことはできない。


(てゆうか盗賊なの、この子!)

「か、金目のものが、ない……?! そんな、だったらおいらはなんのために1週間前からここで張ってたんだ……意味が分からない……。
 親分にしかられる。この役立たずって、言われる……」

「…………」

「何でもいいから寄越せ! 金目のものがないゆなら、食べ物でもいいからなっ!」

「……えっと、さ?」

「はぁ……ほら」

「わ! わ! わ! お、お前何すんだよぉ!」


 アリアさんが持ち上げたその子は10才くらいの男の子だった。橙色の癖っ毛に茶色い瞳。背は低く、僕の腰くらいまでしかなかった。
 男の子を下に下ろし、アリアさんは優しく言う。


「どうした? 盗賊ごっこなんていい遊びだとは思えないぞ?」

「ご、ごっこじゃないやい! おいらは本当の盗賊だ!」

「…………」

「…………」

「な、なんか言えよっ!」


 僕とアリアさんはぱっと後ろを向き、こそこそと話す。


「……って言ってますけど、そうだとしたら」

「あぁ、盗賊は立派な犯罪組織だ」

「ですよねー」

「聞こえてるけど?!」

「どうするか」

「諭しますか?」

「無視かい!」

「ぷるっ! ぷるっ!」

「……え、スライム? ちょ、かわいいじゃねーかよコノヤロー!」


 スラちゃんと戯れるその子を見て、僕はなんとなく思った。


「……つき出すのは、なんか嫌ですね」

「そうだな。スラちゃん好きに本当の悪はいないとみた。私も手荒なことはしたくない。
 でも、このままって訳にもいかないだろう」

「……あ! アリアさん! 僕にいい考えが!」

「なんだ?」

「えっとですね……ゴニョゴニョ」

「ぷるっ? ぷるるっ!」

「あっ!」


 スラちゃんが僕の肩に戻ってくる。それとほぼ同時に、僕らは男の子と向き合った。


「お、おい! 金目のもの出さないんなら痛い目にあうぞ! いいのか? いいんだな! おいら本気出すからな!」

「…………仕方ない、ですね」

「あぁ、この手は使いたくなかったんだが」

「な、なんだよ……」


 どことなく身構えた男の子。僕とアリアさんはゆっくりと片手を自分の顔の横あたりにあげ、指を揃えた。
 そして、スラちゃんと共にじっと彼を見据えた。


「「……じゃ!」」

「え」


 それからそう一言言い残すと、僕らは全速力で逃げ出し、人をまくのにちょうどいい大きさの岩の角を曲がった。


「…………え?」


 ・・・・・・・・・・・・・・。


「待てやコラァッ!」


 そうして僕らのあとを追いかけてきた自称盗賊の男の子の前には、


「グォォォォォォォッ!!!!!」


 ドラくんがいた。それを見た盗賊くんは…………。


「あ……え…………ぁ……」


 完全にフリーズモードに入りました。そこを、アリアさんが後ろから捕まえ、アイテムボックスから取り出したタオルで、かるく腕を結ぶ。


「あ、なにすんだ」

「グォォォォォォォ!」

「……ナンデモナイデスー」

「少しの間だけ縛らせてもらうぞ。悪いようにはしないさ。……よし、ウタにしてはいいアイデアだったな」

「ですよね! やっぱりドラくん怖いのはみんな一緒なんですよ」

「……え、待てよ。ドラくんって言った? ドラくんって言った?! このドラゴン、ドラくんって名前なの!? 安直すぎない!? ダサくない!?」

「……言わないでくれ、我が悲しくなる」

「喋ったし!」


 僕はドラくんの背中をポンポンと叩くと、振り向いたドラくんに手を合わせる。


「ドラくん、この近くに洞窟的なのあったら、連れてってくれないかな? ドラくんが行けるところまででいいからさ!」

「心得た。皆、我の背に乗れ」

「乗るの!? てゆーかお前ら何者だよぉ! ちゃんと説明しろー!」

「はいはいどうどう」

「おいらは馬じゃなーい!」


 こうして僕らは愉快な盗賊くんと一緒に、ちょっとした洞窟へ向かうのだった。
 ……これは、盗賊やら山賊やらに絡まれるテンプレなのだろうか。
 いや、違う、そうじゃない。なんか違う。
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