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駆け出し転生者ウタ

明け方

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 スライムにスラちゃんという名前をつけたあと、アリアさんと僕はお風呂に入って――お風呂は三つある。断じて、一緒に入ったりしていない――そのままそれぞれの部屋で眠った。
 そして、次の日の朝早く。ドアの向こうで足音がして目が覚めた。ぼんやりとした意識をどうにかそちらに向ける。

 まだ寝ぼけてるから、転ばないように足下に気をつけてドアを開ける。キョロキョロと廊下を見渡すと、アリアさんが、あの鎧に着替えて立っていた。


「アリアさん?」

「ん? ……あぁ、ウタか。おはよう」

「おはようございます。どうしたんですか? まだ薄暗いですよ? どこか行くんですか?」

「いや、まぁな」


 少し言葉を濁したアリアさんだったが、それから切り替えたように笑った。


「ちょっと、魔物の討伐にな」

「今からですか!?」

「あぁ。もう一時間もすれば積み荷が他国に向け送られる。それまでに、ある程度潰しておこうと思ってな」

「潰すって……え? もしかして、毎日これを?」

「そうだ。大体昼過ぎくらいまでな。
 あぁそうだ。飯は街中でどうにかしてくれ。金貨を何枚か貸してくれないか? 両替したほうがいいだろう」


 アリアさんがいうには、この世界には鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、とあるらしく、鉄貨が大体百円、銅貨は千円、銀貨は一万円、金貨は十万円だそうだ。
 一枚で十万円……結構な大金くれたんだなーと思うと同時に、確かに両替した方がいいと思い、金貨5枚を銀貨30枚、銅貨200枚にしてもらうことにした。


「そんなにいっぱい小銭あるんですか?」

「まぁ、多少面倒だが用意できなくはない……あっ! そうだ! ウタ、すぐに支度できるか? 服は適当なものを貸そう」

「え? まぁ、出来ますけど」

「よし、三分で支度してこい」


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


「うっわー! すっごい大きな建物ですね!」

「ぷるるっ!」

「そうだろ、この王都の中でも一二を争うほどの大きさだからな。それだけ人気の職業ってことだ、冒険者は」


 準備をしている間に、僕の隣ですやすやと眠っていたスラちゃんも目を覚まし、三人で外へ出た。
 僕のお金を両替するため、アリアさんが向かったのは『冒険者ギルド』である。冒険者が登録をして、依頼を受けたり、それに対する報酬をもらったりするやつだ。とはいえ、まだ明け方なので、中に入っても、人はぽつりぽつりいる程度だ。奥にはカウンターがあるが、そこにいる人もまだ少ない。

 アリアさんはまたあの帽子で顔を隠す。……どうやら、マルティネス・アリアだとしれるとめんどくさくなるらしい。やっぱり王族ってなると、色々あるのかなぁ?


「……あら、アリアじゃない。久しぶりね」


 ふと、桃色の髪の女性が声をかけてきた。胸のあたりまであるウェーブがかった髪を揺らして僕らに少し近づく。


「久しぶりだな、エマ。悪いが、金貨の両替を頼んでもいいか?」

「もちろんいいけれど……その子は? スライムを使役してるなんて珍しいー」


 エマさんが僕に視線を向ける。ドキッとしてしまうほど妖艶な紫色の瞳に、僕は思わず見入ってしまう。恥ずかしくて目を逸らしたいのに、なぜか目を背けられず、頭がぼんやりとしてくる。


「あ……えっと……」

「ぷ、ぷる……」

「こーら! エマ、やめろ」


 アリアさんが、僕からエマさんをぐいっと引き離す。と、ぼんやりしていた思考が戻ってきた。……なんか僕、またスキル使われたんじゃ?


「こいつは転生者だ。ろくに耐性も持っていない」

「あらそうなの? まぁ、アリアが面倒見てるくらいだから訳ありだろうとは思ってたけど」

「……わかってたな、お前」

「さぁねー?」

「ったく……。早く! 金貨五枚! 両替!」

「はいはい。銀貨が30、銅貨が200でいい?」

「あぁ。……ほら、さっさと行け!」


 アリアさんが押し付けるようにして渡した金貨を受け取り、カウンターの奥に歩いていった。


「全く……あいつの前だと、何もかも読まれている気がしてならない」

「えっと……?」

「あいつはエマ・キャンベル。私の古い馴染みだ。根は悪いやつじゃないんだが、いつもあんな感じでな……」

「あの、僕、自分のことなにも言ってないんですけど、大丈夫ですかね? あと、さっきの」

「さっきのはエマの悪ふざけだ。あと、お前のことも、もう大体分かってるだろう。戻ってきたら聞いてみろ」

「はぁ……?」


 そうこうしているうちに、エマさんがたくさんの銀貨、銅貨をお盆のようなものに乗せて戻ってきた。


「銀貨30枚、銅貨200枚。確かめる?」

「いや、大丈夫だ。仕事だけは正確なのは知っている」

「だけってなによー。お金はウタ君に渡せばいいのね」

「あぁ。……私はこれから外にいく。こいつを頼んだぞ」

「はーい!」


 アリアさんは僕をその場に残して、ギルドから出ていった。多分、森の方へ向かったのだろう。


「はい。アイテムボックスの使い方は分かってる?」

「は、はい! ……あのー」


 お金をアイテムボックスにしまい、『銀貨30・銅貨200』と表示されたのを確認すると、僕はエマさんに声をかけた。


「なーに?」

「その、ステータス、見せてくれませんか?」


 直接口から聞くのがめんどくさいと思った訳じゃない。ただ、その方が効率がいいと思ったのだ。
 僕のことを分かっていることや、アリアさんが悪ふざけと言っていたこと。ステータスを覗けば、多分分かる。


「いいわよ。水晶版は、必要ないわね。鑑定スキル、持ってるんでしょ?」

「あ、はい」


 水晶版がなにかなのは知らないが、会話の流れ的に、多分、ステータスを見れるようなものだろう。

「じゃ、どーぞ」


 少しドキドキしながら、僕は鑑定を発動させた。
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