6 / 387
駆け出し転生者ウタ
スライム
しおりを挟む
「……あのー、一応聞いておきたいんですけど」
「なんだ?」
「アリアさんと戦う……とかじゃないですよね?」
「まさか」
僕の言葉がよほど的を外していたのか、アリアさんは軽く笑い飛ばしてしまった。
「そんなわけがないだろう? 第一、レベル差が40もあるんだ。やるにしたって秒だ」
「秒!?」
「そりゃそうだ。私だってレベル80のやつに勝てなんて言われても無理だとしか言えないからな。
ましてやお前、基本の戦い方も知らないだろう?」
「まぁその……はい」
そりゃそうだ、死ぬ前は戦う理由なんてなかったんだ。戦争が起きる可能性も、国内では今のところはゼロである。
「だから、別のやつに相手をしてもらおうと思ってな」
「別のやつ……?」
話しながら移動していると、目の前に大きな扉があった。アリアさんはその扉を押し開け、中に入る。
「ほら、お前も来い」
「は、はい!」
中は、よく映画とかで出てくる闘牛場みたいになっていて、丸い造りだった。天井は半透明で、太陽の光がやさしく全体を照らしている。
その、一番下。客席の真ん中にある、闘牛場でいったら闘牛するためのところに直結する入り口。そこから、僕らは入ったようだ。
「さて、ここなら多少暴れたりミスったりしても外に被害はないだろう。
……ほい」
「え?」
アリアさんはそう言うと、僕に剣を渡してきた。……え?
「えええええええっ!?」
「えっ?! な、何を驚いているんだ?」
「いきなり剣使うんですかぁ?!」
「そ、そりゃそうだ。剣術は全ての基本だぞ?」
とはいえ、剣なんて握ったことのない僕の手はぶるぶる震えた。お、重いし……。え、これ、一歩間違えたら僕も怪我するよね? ね? いや逆にどうして怪我しないと思ってたって話になるけどさ。
「うわぁぁ……」
「……そんな泣きそうにならなくても、相手は討伐推奨レベル1のやつだぞ?」
「その討伐推奨レベル1のやつって誰ですかぁ……」
すでに心が折れかかってる僕の前に現れたのは、青いプルプルした物体だった。
「……あれ、これってもしかして」
この色。この形。推奨レベル1……。まさか、某RPGで定番の……。
「知ってるのか? こいつはスライムだ」
「やっぱりスライムだった!」
それそのうち灰色のとか王冠被ったのとか出てこないよね? ね?
「まぁ、こいつは攻撃力がとにかく低い。練習相手にはちょうどいいだろう。斬ってみろ」
「はい……はいぃっ?!」
どうやるの!?
「いちいち聞かないとやれないのか? 自分から行動するっていうことを覚えてくれ。習うより慣れろだ」
「えええええええっ!?」
っていうか、あれだよね? 僕はネット小説ってのも結構好きで読んでたんだけど――根倉認定されたのはそれのせいじゃない。多分きっともしかして――最近流行りの『異世界転生もの』ってのは努力パートないじゃん!
なんか主人公、最初からめちゃ強いじゃん!
「いや、やめましょうよ! 努力パートなんて見ても面白くないですって!」
「何を言っている。身を守るためだ。ほら、さっさとやらないとあいつから攻撃されてしまうぞ」
見ると、スライムがポヨポヨしながらこちらに近づいてくる。とっさに僕は剣を構えて振りかぶり――
「こ、こっち来んなーーー!!!」
「……おい」
――なんてせずに、スライム相手に全速力で逃げ出した。それを鬼ごっことでも思ったのか、スライムは嬉しそうに体をプルプルさせ、僕のあとを追いかけてくる。しかも結構な速さで。
よって僕らは、あきれ返ったアリアさんの周りをぐるぐると追いかけっこするかたちになったのだ。
「ぷるぷるっ!」
「やぁぁぁぁめてぇぇぇぇ!!!」
「……おい」
「来ないでぇぇぇ!!!」
「おい」
「あっちいけぇぇぇ!!!」
「ウタ! いい加減にしろ!」
「ぬぁっ!」
アリアさんに首根っこを掴まれて、強制的に追いかけっこは終了。スライムはプルプルしながらこちらを見て、頭にはてなを浮かべている。
「ただのスライムだろ? これ以上待たせるなら……私が相手になるが?」
「ひぇっ!」
それはマズイ! かなりマズイ! ど、どうしよう……剣で切ればいいのかな?
そっと剣を握りしめ、ゆっくりと振りかぶる。
「ぷるぷるっ……」
「…………」
僕は、剣を置いた。
「……アリアさん」
「な、なんだ?」
僕は両手にそのスライムを乗せると、懇願するようにアリアさんを見た。
「愛着が湧いてしまいました!」
「はぁっ!?」
「僕にこの子は殺せませんっ!」
「いやお前なぁ」
僕はスライムをアリアさんの顔の前にバッと差し出した。手の上のスライムはひんやりしていてプルプルで、とても気持ちよかった。
「ほら見てくださいアリアさん……この可愛らしい形、クリクリとした目、プルプル! どうしてこんな可愛い生命体を殺せるんですか!」
「いや、可愛いからって魔物には変わりな――可愛い?」
「ぷるぷるっ?」
一瞬、アリアさんの動きが止まる。そして、僕の手からそっとスライムを受け取り、じっと見る。
「――いや、お前の言う通りかも知れない」
折れた!
「なぜ今までスライムがこんなに愛らしいと気づかなかったのだろう……」
「ですよね! やっぱりこの子殺すのは間違ってますよね!」
「そうだな。魔物だからなんだ。全くの無害じゃないか! もっと他のゴブリンやらオークやらを倒すべきだ!」
「そうだそうだ!」
「そしてお前の相手は私がやろう」
「そうだそう……え? うそん」
……死ぬかもしれない。というわけで、死ぬ前に有名な台詞を言っておこう。
スライムが なかまになりたそうに こちらをみている!
「なんだ?」
「アリアさんと戦う……とかじゃないですよね?」
「まさか」
僕の言葉がよほど的を外していたのか、アリアさんは軽く笑い飛ばしてしまった。
「そんなわけがないだろう? 第一、レベル差が40もあるんだ。やるにしたって秒だ」
「秒!?」
「そりゃそうだ。私だってレベル80のやつに勝てなんて言われても無理だとしか言えないからな。
ましてやお前、基本の戦い方も知らないだろう?」
「まぁその……はい」
そりゃそうだ、死ぬ前は戦う理由なんてなかったんだ。戦争が起きる可能性も、国内では今のところはゼロである。
「だから、別のやつに相手をしてもらおうと思ってな」
「別のやつ……?」
話しながら移動していると、目の前に大きな扉があった。アリアさんはその扉を押し開け、中に入る。
「ほら、お前も来い」
「は、はい!」
中は、よく映画とかで出てくる闘牛場みたいになっていて、丸い造りだった。天井は半透明で、太陽の光がやさしく全体を照らしている。
その、一番下。客席の真ん中にある、闘牛場でいったら闘牛するためのところに直結する入り口。そこから、僕らは入ったようだ。
「さて、ここなら多少暴れたりミスったりしても外に被害はないだろう。
……ほい」
「え?」
アリアさんはそう言うと、僕に剣を渡してきた。……え?
「えええええええっ!?」
「えっ?! な、何を驚いているんだ?」
「いきなり剣使うんですかぁ?!」
「そ、そりゃそうだ。剣術は全ての基本だぞ?」
とはいえ、剣なんて握ったことのない僕の手はぶるぶる震えた。お、重いし……。え、これ、一歩間違えたら僕も怪我するよね? ね? いや逆にどうして怪我しないと思ってたって話になるけどさ。
「うわぁぁ……」
「……そんな泣きそうにならなくても、相手は討伐推奨レベル1のやつだぞ?」
「その討伐推奨レベル1のやつって誰ですかぁ……」
すでに心が折れかかってる僕の前に現れたのは、青いプルプルした物体だった。
「……あれ、これってもしかして」
この色。この形。推奨レベル1……。まさか、某RPGで定番の……。
「知ってるのか? こいつはスライムだ」
「やっぱりスライムだった!」
それそのうち灰色のとか王冠被ったのとか出てこないよね? ね?
「まぁ、こいつは攻撃力がとにかく低い。練習相手にはちょうどいいだろう。斬ってみろ」
「はい……はいぃっ?!」
どうやるの!?
「いちいち聞かないとやれないのか? 自分から行動するっていうことを覚えてくれ。習うより慣れろだ」
「えええええええっ!?」
っていうか、あれだよね? 僕はネット小説ってのも結構好きで読んでたんだけど――根倉認定されたのはそれのせいじゃない。多分きっともしかして――最近流行りの『異世界転生もの』ってのは努力パートないじゃん!
なんか主人公、最初からめちゃ強いじゃん!
「いや、やめましょうよ! 努力パートなんて見ても面白くないですって!」
「何を言っている。身を守るためだ。ほら、さっさとやらないとあいつから攻撃されてしまうぞ」
見ると、スライムがポヨポヨしながらこちらに近づいてくる。とっさに僕は剣を構えて振りかぶり――
「こ、こっち来んなーーー!!!」
「……おい」
――なんてせずに、スライム相手に全速力で逃げ出した。それを鬼ごっことでも思ったのか、スライムは嬉しそうに体をプルプルさせ、僕のあとを追いかけてくる。しかも結構な速さで。
よって僕らは、あきれ返ったアリアさんの周りをぐるぐると追いかけっこするかたちになったのだ。
「ぷるぷるっ!」
「やぁぁぁぁめてぇぇぇぇ!!!」
「……おい」
「来ないでぇぇぇ!!!」
「おい」
「あっちいけぇぇぇ!!!」
「ウタ! いい加減にしろ!」
「ぬぁっ!」
アリアさんに首根っこを掴まれて、強制的に追いかけっこは終了。スライムはプルプルしながらこちらを見て、頭にはてなを浮かべている。
「ただのスライムだろ? これ以上待たせるなら……私が相手になるが?」
「ひぇっ!」
それはマズイ! かなりマズイ! ど、どうしよう……剣で切ればいいのかな?
そっと剣を握りしめ、ゆっくりと振りかぶる。
「ぷるぷるっ……」
「…………」
僕は、剣を置いた。
「……アリアさん」
「な、なんだ?」
僕は両手にそのスライムを乗せると、懇願するようにアリアさんを見た。
「愛着が湧いてしまいました!」
「はぁっ!?」
「僕にこの子は殺せませんっ!」
「いやお前なぁ」
僕はスライムをアリアさんの顔の前にバッと差し出した。手の上のスライムはひんやりしていてプルプルで、とても気持ちよかった。
「ほら見てくださいアリアさん……この可愛らしい形、クリクリとした目、プルプル! どうしてこんな可愛い生命体を殺せるんですか!」
「いや、可愛いからって魔物には変わりな――可愛い?」
「ぷるぷるっ?」
一瞬、アリアさんの動きが止まる。そして、僕の手からそっとスライムを受け取り、じっと見る。
「――いや、お前の言う通りかも知れない」
折れた!
「なぜ今までスライムがこんなに愛らしいと気づかなかったのだろう……」
「ですよね! やっぱりこの子殺すのは間違ってますよね!」
「そうだな。魔物だからなんだ。全くの無害じゃないか! もっと他のゴブリンやらオークやらを倒すべきだ!」
「そうだそうだ!」
「そしてお前の相手は私がやろう」
「そうだそう……え? うそん」
……死ぬかもしれない。というわけで、死ぬ前に有名な台詞を言っておこう。
スライムが なかまになりたそうに こちらをみている!
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね
いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。
しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。
覚悟して下さいませ王子様!
転生者嘗めないで下さいね。
追記
すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。
モフモフも、追加させて頂きます。
よろしくお願いいたします。
カクヨム様でも連載を始めました。


一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!
モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。
突然の事故で命を落とした主人公。
すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。
それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。
「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。
転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。
しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。
そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。
※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる