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糾弾

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日を追うごとに、日中の日差しが強くなっていくのを感じます。夏本番も近いですね。レイチェルです。
 
戸外にいる時間が増えたのもあるのでしょう。季節の移ろいを肌で感じます。
そんな日差しの眩しさに目を細めていると、ボスっと頭になにかをのせられて、視界が翳りました。

「?」

「日焼けするぞ。帽子かぶれ」

相変わらずの無愛想な言葉がぽいっと放り出されます。

「ありがとう。でも、おにいさんの分が」

「ある。大丈夫だ」

――わたしのために、わざわざ用意してくれた?
と訊いても返事がないことはわかっているので、ただ、「ありがとう」とだけ繰り返して、自然に緩んでしまう口元を隠すためにさりげなく俯いて作業に没頭するふりをします。

 ただいま、花壇植え替え用の花畑の手入れ中です。わたしがしているのはただの雑草くさむしりですけどね。
 頭を動かすたびに乾いた麦藁の匂いが漂います。それがとてもくすぐったい感じです。

 ◇◇◇◇◇

 その日は朝から雨でした。
 雨の日は裏庭に行く理由がありません。

 だからというわけではないのですが、放課後、アレクサ嬢のもとへむかいました。作戦遂行いつものです。

 上級生の教室へと続く廊下を歩いていると、雰囲気がなんだかいつもと違うように感じました。
 薄暗い天気のせいとも違うような、穏やかでないざわめきとともに、すれ違う人の視線が飛んでくるのをひしひしと感じます。

 以前は「殿下の連れの留学生をいびりに来る下級生」という好奇心のこもった注目を浴びていた時期もあったのですが、割とすぐに皆さん慣れたのか飽きたのかあるいは呆れたのか、日常の風景として見過ごされるようになりました。さすがのモブりょくです。
 
 なのに、また注目されるようななにかがあったかな、と首をかしげつつ、目的の教室手前の角に差し掛かった時、ぐいっと腕をつかまれて、柱の陰に引き込まれました。

 「!?」
 驚いて振り向くと、見覚えのある上級生のお姉さまです。
 というか、こちらは先日の三人組とは違う「本物」のグロリア様の親しいご学友でした。
 
「ごきげんよう、あの、なにかご用でしょうか?」
 
 あたりの雰囲気にも関わらず、危機感のないわたしの問いにやや青ざめた表情で、そのお姉さまは早口におっしゃいました。

 「教室に近づいては駄目よ。今日は、帰りなさい。しばらくはこちらに来てはいけないわ。――グロリア様からの伝言よ」

 「グロリア様から、ご伝言ですか?わざわざありがとうございます。でも、どうしてそんなことを――?」

 一瞬、はげしくためらった後、お姉さまは一つ深く息を吐いてから教えてくれました。

 「……アレクサ・モールトン様の持ち物が誰かに荒らされたのが見つかったの。
 
 それをやったのががあなたじゃないか、って――あなたを呼び出せって言いだす人が出てきたの。
 
 でも、グロリア様があなたはそんなことはしない、って反論なさって――立場上、グロリア様と正面から対立したくないんでしょうね、相手も一旦は引いたようだけど、嫌な雰囲気になってるの。
 
 その人たちに見つかったら、なにを言われるかわからないから、当分の間はこちらに来てはいけないってあなたに伝えるようにわたしが頼まれたの」

「――グロリア様は?今、どちらに……?」

「まだ、教室にいらっしゃるわ。アレクサ様と殿下とご一緒に――お待ちなさい。行っては駄目と今、言ったでしょう!?」

横をすり抜けようとしたわたしをお姉さまが押しとどめます。

 「でも、グロリア様が……!
 それに、わたくし、そんなことしておりません!
 自分で、きちんと申し上げなくては……!」

 「駄目よ、火に油を注ぐだけよ。
あの人たちは無責任な噂をたてて面白がってるだけ。
本気でこちらがとりあっても意味がないわ。
騒ぎを大きくすれば、かえってあちらの思うつぼよ。
 
 ――いいこと、少しの間、我慢なさい。グロリア様とわたしたちがけっして悪いようにはしないから」

 わたしの目を覗き込んでおっしゃるその真剣な表情に、ただ、わたしは言葉もなくして立ち尽くすことしかできませんでした。

 なにが起こっているのか、これからどうなっていくのかもわからず――ただほの見える誰かの悪意に震えていたのです。
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