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小犬令嬢、いびりに参上! ※別視点
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留学生として始まった学園生活は、退屈なほどに穏やかだった。女装バレの危険を除けばの話だが。
運動や着替えの必要のあることは「体が弱い」「人見知りで恥ずかしがり」という設定で切り抜けた。
最初の頃は物見高い連中が好奇心を抑えきれずに根掘り葉掘りとさぐりを入れてきたが、そんな時は戸惑い気味に王子様(笑)へ目をやれば、ヤツがさらりと釘をさす。
まさかその様子が「頼り頼られ、仲睦まじい」と噂になったのは正真正銘の予想外。
同い年の二人だが少しばかりオレの方が背が高い。そこで上からヤツを見下ろした格好で顎をしゃくった仕草が”小首を傾げた上目遣い”に変換されたというのだから、認識阻害の補正の効果もすさまじい。
当事者にとっては噴飯ものだが、野郎二人がつるむ様子が美男美女のいちゃいちゃにしか見えないとは知らぬが幸い。
”実在しない可憐な乙女”は冷やかし混じりの生温い目で見守られるようになった。
無論万人が万人、アレクサを歓迎したかといえば、そのはずもない。
むしろポッと出の”カワイ子ちゃん”が王子様の腕にすがって登場したら、それだけでカンに障る連中もいて当然。
まして男はれっきとした婚約者持ち。眉をひそめる向きもある。
それでもまあ、触らぬ神にはなんとやら、わざわざ咎めにくるのもいないのか――と高をくくっていたのは甘かった。
あるとき、いつものように昼のチャイムで席を立ち、王子と二人でさあ飯だ、と廊下へ出たところでさっと立ちはだかる小柄な影が一つ。
「あらわたくしとしたことが失礼をまあモールトン嬢でいらっしゃるじゃありませんか奇遇ですわね、ごきげんよう」
一気呵成に言い切って、睨みあげてきたその様がキャンキャン吠える小犬に見えて、オレは思わず目をしばたたかせた。
「ちょうどよろしゅうございますわ。一言お伝え申し上げようと念じておりましたの。
――近頃のあなた様のお振舞い、いささか度が過ぎていらっしゃいませんこと?少しお考えになられてはいかがっ」
声をひそめる気配もなく、いっそ堂々と、と称したいくらいの勢いで食ってかかられて、オレたち二人は呆気にとられた。
正直、少しくらいのあてこすりなら、なにかの機会にでもあるだろうかと満更思わぬこともなかったが、こうまで正面きってかましてくるとは、いっそ蛮勇としか言いようがない。
とっさに返事もできずに絶句した二人を視線で切って
「――申し上げたいことは、以上です。ではごきげんよう」
というが早いか身をひるがえし、返事も待たずに立ち去って。
その言葉の勢いのままなのか、精一杯に背筋を伸ばしたような小さな後ろ姿が、妙に印象深かった。
これがのちに彼女がいうところの”アレクサ・モールトンVS.レイチェル・ランド”との戦いの幕開けだった、ということになる。
そして、オレがひそかに彼女に”小犬令嬢”と名付けたきっかけでもある。
――もちろん、この時の彼女には知る由もなかったが。
運動や着替えの必要のあることは「体が弱い」「人見知りで恥ずかしがり」という設定で切り抜けた。
最初の頃は物見高い連中が好奇心を抑えきれずに根掘り葉掘りとさぐりを入れてきたが、そんな時は戸惑い気味に王子様(笑)へ目をやれば、ヤツがさらりと釘をさす。
まさかその様子が「頼り頼られ、仲睦まじい」と噂になったのは正真正銘の予想外。
同い年の二人だが少しばかりオレの方が背が高い。そこで上からヤツを見下ろした格好で顎をしゃくった仕草が”小首を傾げた上目遣い”に変換されたというのだから、認識阻害の補正の効果もすさまじい。
当事者にとっては噴飯ものだが、野郎二人がつるむ様子が美男美女のいちゃいちゃにしか見えないとは知らぬが幸い。
”実在しない可憐な乙女”は冷やかし混じりの生温い目で見守られるようになった。
無論万人が万人、アレクサを歓迎したかといえば、そのはずもない。
むしろポッと出の”カワイ子ちゃん”が王子様の腕にすがって登場したら、それだけでカンに障る連中もいて当然。
まして男はれっきとした婚約者持ち。眉をひそめる向きもある。
それでもまあ、触らぬ神にはなんとやら、わざわざ咎めにくるのもいないのか――と高をくくっていたのは甘かった。
あるとき、いつものように昼のチャイムで席を立ち、王子と二人でさあ飯だ、と廊下へ出たところでさっと立ちはだかる小柄な影が一つ。
「あらわたくしとしたことが失礼をまあモールトン嬢でいらっしゃるじゃありませんか奇遇ですわね、ごきげんよう」
一気呵成に言い切って、睨みあげてきたその様がキャンキャン吠える小犬に見えて、オレは思わず目をしばたたかせた。
「ちょうどよろしゅうございますわ。一言お伝え申し上げようと念じておりましたの。
――近頃のあなた様のお振舞い、いささか度が過ぎていらっしゃいませんこと?少しお考えになられてはいかがっ」
声をひそめる気配もなく、いっそ堂々と、と称したいくらいの勢いで食ってかかられて、オレたち二人は呆気にとられた。
正直、少しくらいのあてこすりなら、なにかの機会にでもあるだろうかと満更思わぬこともなかったが、こうまで正面きってかましてくるとは、いっそ蛮勇としか言いようがない。
とっさに返事もできずに絶句した二人を視線で切って
「――申し上げたいことは、以上です。ではごきげんよう」
というが早いか身をひるがえし、返事も待たずに立ち去って。
その言葉の勢いのままなのか、精一杯に背筋を伸ばしたような小さな後ろ姿が、妙に印象深かった。
これがのちに彼女がいうところの”アレクサ・モールトンVS.レイチェル・ランド”との戦いの幕開けだった、ということになる。
そして、オレがひそかに彼女に”小犬令嬢”と名付けたきっかけでもある。
――もちろん、この時の彼女には知る由もなかったが。
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