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26 徴

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「―飲めた?」

聞かれて、ティレーリアはこくんと頷く。
ティレーリアが頷いたのを確認すると、ヴィリディスはティレーリアの身体をそっと抱き寄せて、そしてお互いの痕を合わせるように胸をくっつけると、何かを呟き始める。

それ・・が詠唱だと気づいた時、ティレーリアは左胸の甘やかだった痺れが、熱を持ち始めた事に気づいた。

「ヴィー、あつ、い……」

内側からじりじりと焦がされているように急激に熱くなっていく感覚に、堪らずに身を捩ろうとしたティレーリアは、けれどヴィリディスにぐっと腕に力を込めて押し止められる。
その腕の強さに詠唱中は動いてはいけないのだと理解して、ティレーリアはぐっと唇を噛み締めて、ヴィリディスの背中に回した腕に力を込める。
そしてヴィリディスの肩口に額をこすりつけるようにして、瞳をぎゅうっと閉じて、必死に熱に耐えた。

暫くして、ヴィリディスの詠唱が終わると共に今までの熱が嘘のようにすぅっと引いていくのを感じて、
ティレーリアは恐る恐る顔を上げた。

「ん。綺麗に咲いた・・・ね」

ヴィリディスが唇を落とした左胸に視線をやると、先ほどヴィリディスが痕を付けたその場所に、花の様な紅い模様が刻まれていた。

「これ、は…?」

ヴィリディスの胸にも浮かんでいる同じ模様をそっと撫でたティレーリアの手を取ってその指先に口付けると、ヴィリディスは満足そうに微笑む。

「魔王の花嫁だっていう、しるし。 互いの血を合わせるだけでも出来るんだけど…それだと時間がかかるから。先に飲んで体内に入れておいた方が、早く済むんだ」

そうなの、と呟いて、ティレーリアはそっと自分の胸に現れた徴を指で撫でる。

「この徴は加護も兼ねてるから、少しくらいの害なら弾けるよ」
「加護……?」
「うん。 それと、万が一ティーアに危害が加えられるような事があったらすぐに僕に伝わる。 逆に僕に何かがあった時も、ティーアに伝わるようになってる」

「…ヴィーと、繋がってるのね」

ティレーリアの呟きに、そうだねと嬉しそうに微笑んだヴィリディスの顔を、ティレーリアがふと見つめて、手を伸ばす。

「ティーア?」
首を傾げたヴィリディスの頬を包んで、今度はティレーリアが首を傾げる。
「やっぱりないわよね、牙……」
「あぁ―。 何となく、ヴァンピールみたいにしてみたくて」

真似してみた、と笑ったヴィリディスに、ティレーリアが瞬く。

「ヴィーは…本当に何でも出来ちゃうのね」
「そうでもないよ。 湖畔で一人で泣いてるティーアの隣に行く事すら出来なかった」
「それは、仕方なかった事、でしょう? それに、こうしてちゃんと迎えに来てくれたじゃない」

きゅっと抱き着いたティレーリアを、ヴィリディスは緩く抱き締め返す。

「でも、寂しい思いをさせた。 ―5年も」
「じゃあ、寂しかった5年分、これからたくさんたくさん、抱き締めてくれる?」

「――抱き締めるだけで、良いの?」

え、とティレーリアが顔を上げようとした途端に、噛み付くみたいに唇を塞がれた。

「――っんぅ」

漏れた声すらも飲み込むようにしっかりと両頬を包み込まれて、そして角度を変えて口付けを深めるヴィリディスに、ティレーリアは内心で悲鳴を上げる。

「んっ…ヴィ……んんっ……」

苦しくて、恥ずかしくて、逃げ出してしまいたいのに、
もっと…と思ってしまう自分も居て。

何度も何度も重ねられる内、少しずつ応えるように自分から角度を変えてくるようになったティレーリアに小さく笑うと、
ヴィリディスは最後に軽くティレーリアの唇を吸って、離す。

そうしてとろんとしているティレーリアの髪を撫でると、一房持ち上げて、その毛先に唇を落とす。

「抱き締めるだけじゃなくて、もっと色々したい ―良い?」

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