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そこからはあっという間だった。
ほんの僅かな期間で慌ただしく準備が整えられて、すぐに婚姻の日を迎えてしまった。
その間エーヴァウト様が私を訪ねて下さる事は一度もなく、直接対面を果たしたのは婚儀の時。
初めて間近で拝見したエーヴァウト様は、中々に美丈夫だった。
何となく熊のような恐ろしいお顔をなさっているかと思っていたのだけれど。
整ったお顔に思わず見惚れてしまいそうになったけれど、それは叶わなかった。
アイスブルーという色のせいで二割増しくらいになっていそうな鋭い目付きと、何よりも眉間の皺がすごすぎて。
普通であればこれから夫婦となる二人の晴れやかな門出となるはずだけれど、エーヴァウト様の眉間には深ぁい皺が刻まれっぱなしで、始終不機嫌そうで、思わずこれが自分の婚儀だという事を忘れてしまいそうなくらい〝晴れやか〟とは言い難い雰囲気だった。
婚儀に参加して下さった方々からの私への視線もあまりにも同情的で、何だか笑えて来てしまう程に。
それでも額にではあったものの誓いの口付けをして下さったし、婚儀を終えた後はしっかりと手を取って馬車までエスコートをして下さった。
少なくとも人前で蔑ろにされる事はないのかもしれない、と思えば、少しだけ肩の力が抜けた。
王都内にあるお屋敷――カイゼル侯爵家のタウンハウスへ向かう馬車の中でもやっぱり眉間の皺は健在で、そして始終無言だった。
私から何か話しかけるべきかしら、とちらりと隣に座っているエーヴァウト様を見上げてみても、むっつりと黙ったまま微動だにしない。
話しかけるな、と全身で拒絶されているようで、話しかけた途端に視線だけで射殺されてしまいそうな気がして、
結局私は馬車に揺られている間、ただひたすらに膝に置いた自分の手を眺めていた。
お屋敷の使用人にも冷たくされるのかしら、と不安を覚えていたけれど、意外にも温かい歓迎を受けた。
侍女長と数人の侍女を紹介された後は、今日はお疲れでしょうからその他の細かい事は明日に、という執事長の言葉に甘えて与えられた部屋でゆっくりして、
夕食はエーヴァウト様と一緒にとったけれどやっぱり無言のまま終わって、
そうして実家からついて来てくれた侍女のルイサに手伝って貰って湯浴みを終えて、寝支度を整えて貰って――
「頑張ってください!」なんて言ってそそくさと出て行ってしまったルイサを見送って、暫く部屋をうろうろとした後、私はベッドに腰かけた。
どうすれば良いのか分からなくて、薄い布で仕立てられている、何だかあれこれ透けてしまっている夜着の裾をいじる。
そう、今夜は初夜。
これから私はエーヴァウト様とそういう事をするわけで……
落ち着かない気分だけを抱えて、いついらっしゃるかしら、私はきちんとお務めを果たせるかしら、とドキドキそわそわしていたけれど、
いつまで経ってもエーヴァウト様はいらっしゃらない。
ずぅっと不機嫌そうだったエーヴァウト様の顔を思い出して、そして私が「エーヴァウト様は私の寝室にはいらっしゃらないのでは」という可能性に思い至った時――
部屋のドアがゆっくりと開いた。
「……エーヴァウト様……」
その姿にほっとしたのか、緊張したのか、自分ではよく分からなかった。
ほんの僅かな期間で慌ただしく準備が整えられて、すぐに婚姻の日を迎えてしまった。
その間エーヴァウト様が私を訪ねて下さる事は一度もなく、直接対面を果たしたのは婚儀の時。
初めて間近で拝見したエーヴァウト様は、中々に美丈夫だった。
何となく熊のような恐ろしいお顔をなさっているかと思っていたのだけれど。
整ったお顔に思わず見惚れてしまいそうになったけれど、それは叶わなかった。
アイスブルーという色のせいで二割増しくらいになっていそうな鋭い目付きと、何よりも眉間の皺がすごすぎて。
普通であればこれから夫婦となる二人の晴れやかな門出となるはずだけれど、エーヴァウト様の眉間には深ぁい皺が刻まれっぱなしで、始終不機嫌そうで、思わずこれが自分の婚儀だという事を忘れてしまいそうなくらい〝晴れやか〟とは言い難い雰囲気だった。
婚儀に参加して下さった方々からの私への視線もあまりにも同情的で、何だか笑えて来てしまう程に。
それでも額にではあったものの誓いの口付けをして下さったし、婚儀を終えた後はしっかりと手を取って馬車までエスコートをして下さった。
少なくとも人前で蔑ろにされる事はないのかもしれない、と思えば、少しだけ肩の力が抜けた。
王都内にあるお屋敷――カイゼル侯爵家のタウンハウスへ向かう馬車の中でもやっぱり眉間の皺は健在で、そして始終無言だった。
私から何か話しかけるべきかしら、とちらりと隣に座っているエーヴァウト様を見上げてみても、むっつりと黙ったまま微動だにしない。
話しかけるな、と全身で拒絶されているようで、話しかけた途端に視線だけで射殺されてしまいそうな気がして、
結局私は馬車に揺られている間、ただひたすらに膝に置いた自分の手を眺めていた。
お屋敷の使用人にも冷たくされるのかしら、と不安を覚えていたけれど、意外にも温かい歓迎を受けた。
侍女長と数人の侍女を紹介された後は、今日はお疲れでしょうからその他の細かい事は明日に、という執事長の言葉に甘えて与えられた部屋でゆっくりして、
夕食はエーヴァウト様と一緒にとったけれどやっぱり無言のまま終わって、
そうして実家からついて来てくれた侍女のルイサに手伝って貰って湯浴みを終えて、寝支度を整えて貰って――
「頑張ってください!」なんて言ってそそくさと出て行ってしまったルイサを見送って、暫く部屋をうろうろとした後、私はベッドに腰かけた。
どうすれば良いのか分からなくて、薄い布で仕立てられている、何だかあれこれ透けてしまっている夜着の裾をいじる。
そう、今夜は初夜。
これから私はエーヴァウト様とそういう事をするわけで……
落ち着かない気分だけを抱えて、いついらっしゃるかしら、私はきちんとお務めを果たせるかしら、とドキドキそわそわしていたけれど、
いつまで経ってもエーヴァウト様はいらっしゃらない。
ずぅっと不機嫌そうだったエーヴァウト様の顔を思い出して、そして私が「エーヴァウト様は私の寝室にはいらっしゃらないのでは」という可能性に思い至った時――
部屋のドアがゆっくりと開いた。
「……エーヴァウト様……」
その姿にほっとしたのか、緊張したのか、自分ではよく分からなかった。
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