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本編
15. エピローグ
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。o○o。.:*:.。o○o。
柔らかな風と、優しい歌声に誘われてレイナルドは目を覚ました。
無意識に隣で眠っているはずのメリュディーナを探して……どこにもその温もりがない事に気付いて身体を起こしてみると、二人で眠っても充分な広さがあるベッドにいるのは自分一人だけだった。
メリュディーナの名を呼ぼうとしたその時、ふわりと風に撫でられたレイナルドは海に面したデッキに視線を向けて、微笑んだ。
珊瑚色と水色の髪を柔らかな風にふわりふわりと揺らされながら、メリュディーナが澄んだ声に人魚の特徴的な旋律を乗せて歌っていた。
レイナルドはベッドから下りてデッキへと向かうと、メリュディーナを背中から抱き締める。
気配で気付いていたのか、驚く事もなくレイナルドの胸に背中を預けて歌い続けているメリュディーナの髪に口付けて、さて、今日の幸運な船はどんな船だろうかと海に視線を向けた。
今日一日の好天を予想させる真っ青な空と透き通ったコバルトブルーの海に、ぽつりと一隻の帆船が浮かんでいる。
波も風も穏やかなせいだろう。帆船はゆったりと進んでいる。
今頃あの船の人たちは人魚からの祝福に沸いているんだろうなと眺めながら、レイナルドはメリュディーナの優しい歌声に耳を傾けた。
程なくして歌い終わったメリュディーナが、レイナルドの腕の中でくるりと身体の向きを変えて抱き着いてくる。
「おはよう、レイ」
「おはよう、メル。祝福は終わりかい?」
「えぇ、ちゃんと届いていると良いのだけど」
「きっと届いてるよ」
人魚の歌声は、そう大きな声を出しているわけでもないのに不思議と遠くまでよく通る。
歌声にほんのわずか、魔力を乗せているのだそうだ。
「ねぇ、レイ。少しだけ泳いできても良い?」
「もちろん」
レイナルドから気を付けてと軽い口付けを貰って、メリュディーナは行ってきますと微笑むとデッキから海へと飛び込んだ。
メリュディーナと共に生きると決めた後、レイナルドは海辺のコテージを二人の新居にする事にした。
幼かったレイナルドの為に建てられたこじんまりとしたコテージは、いずれ家族が増える事を想定して増築したものだから、随分と広く立派になった。
今いるデッキはレイナルドが特にこだわった部分で、メリュディーナがすぐに海に出られるようにと、海に突き出るように設置されている。
メリュディーナもとても喜んで、日に一度はこうして泳ぎに行っている。
「おはようございます、レイナルド様。朝食のお支度が――」
朝食を告げにやって来た、コテージに住み込んで貰っている使用人に海を指させば、海に目をやった使用人は「もう少し後ですね」と微笑んだ。
朝食は自分たちで適当に食べるから気にしなくて良いと伝えると、心得ている使用人は頭を下げて下がって行く。
海に視線を戻せば、柔らかな朝日の中、メリュディーナがぱしゃんと軽い水音と共に跳ねたところだった。
気持ち良さそうに泳ぐメリュディーナの姿に、レイナルドは目を細める。
暫くメリュディーナの姿を追っていたレイナルドは、そろそろかな、と立ち上がるとキッチンへ向かう。
メリュディーナとこのコテージで暮らすようになってから、レイナルドは自分でお茶を淹れるようになった。
最初の頃は「不思議な味」と言っていたメリュディーナも好きな味というものが出来てきたから、最近メリュディーナが気に入っている茶葉を選んで沸かしたての湯を注ぐ。
くるくると踊って綻んでいく茶葉からじんわりと紅みが広がっていくのを眺めながら、レイナルドはふと笑みを零した。
初めてメリュディーナにお茶を淹れた時。
あの時は上手く淹れられたと思ったし、味もまぁ悪くはなかったと思うけれど、きっと今のメリュディーナが飲んだら微妙な顔をするだろう。
それだけレイナルドのお茶を淹れる腕も上がったし、メリュディーナもお茶に親しんだのだと、確実に二人で同じ時を歩んでいるのだと実感したのだ。
五年後、十年後にも、やっぱり「あの時は」と思うのかなと思いながら、レイナルドは二人分のカップを並べた。
丁度お茶が入った頃に上がってきたメリュディーナと一緒に朝食を済ませると、レイナルドはさて、とメリュディーナを腕の中に閉じ込める。
「今日のデートはどこへ行こうか?」
「そうね……」
小さく首を傾げて考える素振りを見せたメリュディーナの唇にちょんと口付けて、レイナルドは当てようか? と笑う。
「じゃあ一緒に言いましょう」
くすくすと笑うメリュディーナの提案にレイナルドが良いねと返すと、メリュディーナがせーの、と掛け声をかける。
「「サンドイッチを持って、丘の上の公園へ!」」
二人の声がぴったりと重なって、そうしてコテージの中に幸せそうな笑い声が響いた。
後のリナレス領史には、人魚族を妻として迎えたレイナルド・リナレスは人魚族の保護に特に尽力した人物として記されているという。
八十年にも亘り領民の声をよく聞き、その海と同じように穏やかな治世を敷いたレイナルドとその妻は領民からとても慕われた、とも記されているという。
○o。. Fin. .。o○
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
お読みくださいましてありがとうございました!(。ᵕᴗᵕ。)
この作品は2021年8月~2023年9月までの期間限定で販売していた、
獣人と執着アンソロジー『ヒロインは獣の愛に囚われ、もう逃げられない』
に掲載していた『人魚はその熱に溶かされる』に加筆修正したものです。
アンソロは1人3万字くらいという目安だったので、プロット作成時に考えたエピソードを全部入れると3万字に収まらない!
といくつかのエピソードを泣く泣くカットしました(それでも結局3万5千字になったのですが……(´∀`;)
アンソロ販売期間終了後は作品は各々好きに扱って良いよ、と話していたので、
いつかエピソード全部盛りしたやつ書くんだ!!と思っていました。
今回こうしてエピソード全部盛り版を無事投稿出来て何となくホッとしたり嬉しかったり、
温め続けていたせいか、少し寂しいような気もしたり(^^;
可愛い我が子が完全独り立ちしたような、そんな気分です。
そんな今作ですが、初めて読むという方は勿論、
アンソロを読んでくださった方にも楽しんで頂けたなら嬉しいです( *´꒳`*)
柔らかな風と、優しい歌声に誘われてレイナルドは目を覚ました。
無意識に隣で眠っているはずのメリュディーナを探して……どこにもその温もりがない事に気付いて身体を起こしてみると、二人で眠っても充分な広さがあるベッドにいるのは自分一人だけだった。
メリュディーナの名を呼ぼうとしたその時、ふわりと風に撫でられたレイナルドは海に面したデッキに視線を向けて、微笑んだ。
珊瑚色と水色の髪を柔らかな風にふわりふわりと揺らされながら、メリュディーナが澄んだ声に人魚の特徴的な旋律を乗せて歌っていた。
レイナルドはベッドから下りてデッキへと向かうと、メリュディーナを背中から抱き締める。
気配で気付いていたのか、驚く事もなくレイナルドの胸に背中を預けて歌い続けているメリュディーナの髪に口付けて、さて、今日の幸運な船はどんな船だろうかと海に視線を向けた。
今日一日の好天を予想させる真っ青な空と透き通ったコバルトブルーの海に、ぽつりと一隻の帆船が浮かんでいる。
波も風も穏やかなせいだろう。帆船はゆったりと進んでいる。
今頃あの船の人たちは人魚からの祝福に沸いているんだろうなと眺めながら、レイナルドはメリュディーナの優しい歌声に耳を傾けた。
程なくして歌い終わったメリュディーナが、レイナルドの腕の中でくるりと身体の向きを変えて抱き着いてくる。
「おはよう、レイ」
「おはよう、メル。祝福は終わりかい?」
「えぇ、ちゃんと届いていると良いのだけど」
「きっと届いてるよ」
人魚の歌声は、そう大きな声を出しているわけでもないのに不思議と遠くまでよく通る。
歌声にほんのわずか、魔力を乗せているのだそうだ。
「ねぇ、レイ。少しだけ泳いできても良い?」
「もちろん」
レイナルドから気を付けてと軽い口付けを貰って、メリュディーナは行ってきますと微笑むとデッキから海へと飛び込んだ。
メリュディーナと共に生きると決めた後、レイナルドは海辺のコテージを二人の新居にする事にした。
幼かったレイナルドの為に建てられたこじんまりとしたコテージは、いずれ家族が増える事を想定して増築したものだから、随分と広く立派になった。
今いるデッキはレイナルドが特にこだわった部分で、メリュディーナがすぐに海に出られるようにと、海に突き出るように設置されている。
メリュディーナもとても喜んで、日に一度はこうして泳ぎに行っている。
「おはようございます、レイナルド様。朝食のお支度が――」
朝食を告げにやって来た、コテージに住み込んで貰っている使用人に海を指させば、海に目をやった使用人は「もう少し後ですね」と微笑んだ。
朝食は自分たちで適当に食べるから気にしなくて良いと伝えると、心得ている使用人は頭を下げて下がって行く。
海に視線を戻せば、柔らかな朝日の中、メリュディーナがぱしゃんと軽い水音と共に跳ねたところだった。
気持ち良さそうに泳ぐメリュディーナの姿に、レイナルドは目を細める。
暫くメリュディーナの姿を追っていたレイナルドは、そろそろかな、と立ち上がるとキッチンへ向かう。
メリュディーナとこのコテージで暮らすようになってから、レイナルドは自分でお茶を淹れるようになった。
最初の頃は「不思議な味」と言っていたメリュディーナも好きな味というものが出来てきたから、最近メリュディーナが気に入っている茶葉を選んで沸かしたての湯を注ぐ。
くるくると踊って綻んでいく茶葉からじんわりと紅みが広がっていくのを眺めながら、レイナルドはふと笑みを零した。
初めてメリュディーナにお茶を淹れた時。
あの時は上手く淹れられたと思ったし、味もまぁ悪くはなかったと思うけれど、きっと今のメリュディーナが飲んだら微妙な顔をするだろう。
それだけレイナルドのお茶を淹れる腕も上がったし、メリュディーナもお茶に親しんだのだと、確実に二人で同じ時を歩んでいるのだと実感したのだ。
五年後、十年後にも、やっぱり「あの時は」と思うのかなと思いながら、レイナルドは二人分のカップを並べた。
丁度お茶が入った頃に上がってきたメリュディーナと一緒に朝食を済ませると、レイナルドはさて、とメリュディーナを腕の中に閉じ込める。
「今日のデートはどこへ行こうか?」
「そうね……」
小さく首を傾げて考える素振りを見せたメリュディーナの唇にちょんと口付けて、レイナルドは当てようか? と笑う。
「じゃあ一緒に言いましょう」
くすくすと笑うメリュディーナの提案にレイナルドが良いねと返すと、メリュディーナがせーの、と掛け声をかける。
「「サンドイッチを持って、丘の上の公園へ!」」
二人の声がぴったりと重なって、そうしてコテージの中に幸せそうな笑い声が響いた。
後のリナレス領史には、人魚族を妻として迎えたレイナルド・リナレスは人魚族の保護に特に尽力した人物として記されているという。
八十年にも亘り領民の声をよく聞き、その海と同じように穏やかな治世を敷いたレイナルドとその妻は領民からとても慕われた、とも記されているという。
○o。. Fin. .。o○
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
お読みくださいましてありがとうございました!(。ᵕᴗᵕ。)
この作品は2021年8月~2023年9月までの期間限定で販売していた、
獣人と執着アンソロジー『ヒロインは獣の愛に囚われ、もう逃げられない』
に掲載していた『人魚はその熱に溶かされる』に加筆修正したものです。
アンソロは1人3万字くらいという目安だったので、プロット作成時に考えたエピソードを全部入れると3万字に収まらない!
といくつかのエピソードを泣く泣くカットしました(それでも結局3万5千字になったのですが……(´∀`;)
アンソロ販売期間終了後は作品は各々好きに扱って良いよ、と話していたので、
いつかエピソード全部盛りしたやつ書くんだ!!と思っていました。
今回こうしてエピソード全部盛り版を無事投稿出来て何となくホッとしたり嬉しかったり、
温め続けていたせいか、少し寂しいような気もしたり(^^;
可愛い我が子が完全独り立ちしたような、そんな気分です。
そんな今作ですが、初めて読むという方は勿論、
アンソロを読んでくださった方にも楽しんで頂けたなら嬉しいです( *´꒳`*)
応援ありがとうございます!
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