15年前に助けた人族に執着されて逃げられません! ~人魚はその熱に溶かされる~

桜月みやこ

文字の大きさ
上 下
11 / 17
本編

10. 抱きたい

しおりを挟む
 そうして翌日はまた丘に連れて行って貰って、その翌日はメリュディーナのために買ってくれた傘の出番だった。
 傘をさしながら街をぶらぶらと歩いてなぜだかまたメリュディーナの物が少し増えて、その翌日はコテージでレイナルドが持って来てくれた物語を読み聞かせて貰ったりしながらのんびりと過ごして――

 そんな風にレイナルドとメリュディーナはデートを重ねた。
 日を重ねていく内にレイナルドの都合が悪い日も出てきて、会えない日はメリュディーナは少しだけ寂しい気分を味わいながらも、一日捜索に充てられるわと鼓舞してその日を乗り越えた。

 毎日毎日、デートが終わった後に続けていた捜索を、その日もメリュディーナは海に戻って早々に開始して――
 そうして遂に、見つけた。


 翌日は、前の日に読んでいた物語の続きを聞かせて貰うために直接コテージに来てと言われていたから、メリュディーナは逸る気持ちそのままに勢いよく海から上がると、一直線にコテージへと向かう。

「レイ、あのね! プレゼントがあるの!」

 駆け込んで来たメリュディーナに驚いたような顔をしたレイナルドは、いらっしゃいと微笑んでから、プレゼント? と首を傾げる。

「昨日やっと見つけたの! はい、これ!」

 大事そうに握り込まれていたメリュディーナの手がぱっと開かれる。
 何だい? と嬉しそうに覗き込んだレイナルドは、メリュディーナの掌にのっかっている〝プレゼント〟に驚いて目を瞠った。

「……メル、これ……」
「レイの瞳と同じ色の真珠を貰ったでしょう? だから、私もあげたくなったの」

 多分似ていると思うけど、どうかしら? と少し心配そうにしているメリュディーナの掌の上には、そんな彼女の瞳とよく似た翠色の真珠が一粒。

 ――メリュディーナは知るはずもないだろう。
 お互いの色を纏ったアクセサリーを贈り合う、その意味を。

 知るはずがないと分かっていても、レイナルドは喜びに震えてしまいそうになった。
 実際少しばかり震えてしまっている指で、少し歪な形のその粒をそっと取り上げると、レイナルドは耐えきれずに目の前の華奢な身体を抱き締める。

「レイ……?」
「ありがとう、メル……一生、大事にする」
「喜んで、貰えた?」
「すごく」
「良かった…………あの、レイ。そろそろ」

 離して、と言おうと思ったのに、レイナルドの腕に力が籠る。

「メル……メリュディーナ。キスを、しても良い?」
「え?」

 驚いて顔を上げたメリュディーナのすぐ目の前にレイナルドの顔があって、メリュディーナは小さく息を飲む。
 そしてまだメリュディーナ自身が良いとも駄目とも分かっていないのに、レイナルドはそっと顔を寄せて来て――二人の唇が重なった。

「んっ……」

 唇に触れた柔らかな感触に、メリュディーナの喉から小さな声が漏れる。
 その声に反応するかのようにレイナルドの唇が僅かに離れて、けれどまた重ねられる。

 そうしてレイナルドは何度かメリュディーナに唇を重ねてから、そっと顔を離した。
 いつの間にかレイナルドに縋るように体を寄せていたメリュディーナがつられるように瞼を持ち上げると、今まで見た事の無い色を宿したレイナルドの瞳とぶつかった。

「レイ……?」
「メル、僕とこうするのは、嫌じゃない?」

 問われて、メリュディーナは少しだけ考える。

「嫌、ではなかった、わ……あの、気持ち良かったと、思う、の……」

 もじもじと俯いたメリュディーナの頬を、レイナルドはそっと包み込む。

「じゃあ、この先は……?」
「この先?」
「メルを――抱きたい」
「い、今も、抱き締められてるわ……」

 メリュディーナの返事に、レイナルドは少し考える。

「メルと番いたいと言えば、分かる? メルに、僕の奥さんになって欲しい」

 初めて会った日にも言われた「奥さん」という言葉に、メリュディーナは息を飲む。

「で、でも、私は人魚で、レイは人で……」
「この国は今すごく獣人が増えてるんだ。リナレスは田舎だからまだそこまで多くはないけどね――それでも、人族と番った獣人も何人か暮らしているよ。あぁ、つい先日、この国の末姫様と獣人の婚約も発表されたしね」
「おかしな事では、ないの……?」
「ちっとも。――メル、好きだよ。顔を見る度、声を聞く度、笑顔を向けられる度、どんどん好きになる。メル、どうか僕をメルの番に選んで欲しい」

 そう言ってメリュディーナの左手の指輪に口付けたレイナルドに、メリュディーナの頬が染まる。

「ズルいわ……そんな事言われたら、断れない」
「嫌なら突き飛ばしてでも殴ってでも逃げて良いんだよ」
「そんな事、もっと出来ないわ……」

 メリュディーナはどうすれば良いのかしらと弱り切ってしまった。
 番を持つという事を、いずれはと漠然と考えてはいたけれど、自分にはまだまだ先の話だと思っていたし、番うのは当然人魚族の雄だと思っていた。
 それなのに――レイナルドは種族の違いなんて気にしてもいないようにメリュディーナと番いたいという。

 レイナルドと一緒にいるのは楽しいし、何より彼はとても優しい。
 街を歩いていて疲れて来ると、いつだってそのタイミングで休憩を入れてくれる。
 市場では魚を売っているお店を避けて歩いてくれている事だって、食事に入る店も頼む食事も、すごく気をつけてくれている事だって、つい最近だけれど気付いてしまった。

 もしここで「ごめんなさい」と答えたら、明日から今までのように会う事は出来なくなってしまうのかしらと思ったら、メリュディーナの胸がちくりと痛んだ。
 一日会えなかっただけで寂しく思った事を思い出して、それがずっと続いてしまうのかと思ったら、今度は胸がずきんと痛んだ。

 ――もしかして、これが答えなのかしらと、メリュディーナはおずおずとレイナルドを見上げる。

「あの……あのね。番うって、まだよく分からないの。でも、レイと離れるのは……嫌だわ。これからも、一緒に居たい、の」

 メリュディーナの言葉に、レイナルドは少しだけ困ったような笑みを浮かべた。

「それは、抱いても良いって受け取って良いのかな」
「抱くって……交尾するって、こと……?」
「そうだね。子供が出来るような事、だね――それでも、一緒に居たいと、思ってくれる?」

 ゆっくりと確認されて、メリュディーナはこくりと喉を鳴らすと、俯いてレイナルドの胸に額を押し付ける。
 そうしてこくんと、小さく小さく頷いた。

「きゃあっ!?」

 途端にメリュディーナはがばっと横抱きにされた。
 ダイニングもリビングもすごい勢いで突っ切って、レイナルドはその奥の部屋のドアを乱暴に開く。
 そうして部屋の真ん中に置いてあるベッドに、慎重にメリュディーナを横たえた。

「あ、あの、レイ……あのね、私叔母さんみたいにずっと陸で暮らすのは難しいかしらって。時々海に帰りたいのだけど……」
「僕のところに帰って来てくれるなら、構わないよ」

 レイナルドの体重が加わったベッドが、きしりと音を立てる。

「ただ、何日も帰ってこないのは、困るかな」

 レイナルドは握っていた翠色の真珠を大事そうにサイドテーブルの上に置くと、メリュディーナの首に下がっている懐中時計をそっと外して真珠の横に置いた。

「そ、そんなに長くはないわ。何時間か……の、つもりよ。ちゃんと時計を持って行くわ」

 メリュディーナのその答えにレイナルドは驚いたように目を瞠って、そうしてふわりと微笑んだ。

「ありがとう、メル」

 少しだけ泣きそうな、けれどとても嬉しそうに微笑んだレイナルドに、メリュディーナの心臓がとくりと音を立てた。


しおりを挟む
お読みいただきましてありがとうございます!

** マシュマロを送ってみる**

※こちらはTwitterでの返信となります。 ** 返信一覧はこちら **

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

処理中です...