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番外編

乙女は我慢の限界です。

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フェリクスとリィナの婚約期間中のお話です。
フェリクスがあれやこれやと奔走して忙殺されている頃(本編だと「64. 野獣は忙殺される。」の頃)になります。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


「ねぇ、アンネ。フェリクス様ともう何日お会いしていないかしら」

部屋の窓から外を眺めながらそんな事を呟いたリィナに、アンネはほんの僅か、当人しか気付かない程度に紅茶を注いでいた手元を狂わせた。

「お嬢様、まだたったの2日です」
「……そうだったかしら?もう1週間くらい経ったような気がするわ」

ほぅ、と切な気に息を落としたリィナの横顔を「そんな憂い顔もお可愛らしいですお嬢様」と内心で萌え転がりながら、アンネはそっと淹れたてのカップをリィナの前に置く。

「王都にいらっしゃる機会も増えそうだとおっしゃっておりましたし、きっとすぐにお会い出来ますよ」
「そうだと嬉しいけれど………」

リィナは窓の外を見つめたまま、またほぅと息を落とした。


「ねぇ、アンネ。フェリクス様ともう何日」
「4日です、お嬢様」


「ねぇ、アンネ。フェリクス様と」
「6日です、お嬢様」


「ねぇ、アンネ」
「7日です、お嬢様」


「ねぇ、」
「9日経ちましたね、お嬢様」
「ねぇ、アンネ……私もう死んでしまいそうだわ………」

くすん、と鼻を鳴らしてパタリとソファに倒れ込んだリィナに、アンネは即座に畏まりましたと頭を下げた。


❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊

「──あれ、フェリクス様。今日来客の予定なんてありましたっけ?」

たまたま窓辺に寄っていたリシャールがそんな事を言ってきたものだから、フェリクスは書類を見つめたまま顔を顰める。

「聞いてねえ。つーかお前が知らねーんなら俺が知るわけあるか」
「ですよねぇ……でも……あ。」

これは大変ですねとのんびりと呟いたリシャールに、フェリクスは何がだ?と書類から顔を上げる。

「私の視力では些か不明瞭ではありますが、あれは多分デルフィーヌ侯爵家の馬車ですね」
「──は?」

お迎えに行って参りますと執務室を出て行ったリシャールを見送って、フェリクスはガシガシと頭を掻くと大きな溜息を落とした。


「フェリクス様、リィナ様をお連れしましたよ」

リシャールの不明瞭故の見間違いである事を全力で祈っていたフェリクスは、ガクリと肩を落とす。

「フェリクス様……」

リシャールの後ろからそぉっと顔を覗かせたリィナの姿に、フェリクスは放り出しそうになったペンをぎゅっと握り直す。

「手紙も先触れも、来ちゃいねー気がすんだが?」

眉根を寄せたままの溜息混じりのフェリクスの言葉に、リィナがしゅんと小さな身体を更に小さくする。

「あの、私、10日もお会いしてなくて」
「9日ですお嬢様」
「フェリクス様不足で、私瀕死の状態に陥ってしまいまして」
「食が更に細くおなりなのは本当です」
「ですから、その、お邪魔だと分かってはいるのですけれど、我慢出来なくて……その……少しだけ、お顔を見るだけでもと……思いまして………」

じっとリィナを見つめたまま動きもせず言葉を発しもしないフェリクスに、リィナの声が小さくなっていく。

そしてうるっと瞳を潤ませたかと思うと、ぺこんと頭を下げる。

「お顔、見られて元気が出ました。──それでは私、これで失礼いたしますわね」

お邪魔致しました、とくるんっと踵を返したリィナの耳に、おい、とフェリクスの不機嫌そうな声が届く。
リィナがおずおずとフェリクスを振り返ると、指でちょいちょいと"こっちへ来い"と呼ばれる。

アンネとリシャールにちらりと視線を向けて、二人ともがこっくりと頷いたのを見て、リィナはそっと執務室に足を踏み入れる。
そうしてフェリクスの前に立ったリィナは、無言で腕を伸ばして来たフェリクスにひょいと抱き上げられて、膝の上に乗せられる。

「……フェリクス様?」
「来るなら来るで連絡くらい寄越せ。仕事の調整もできねーだろうが」

むっつりとしたまま言われて、リィナはまたしゅんと肩を落とす。

「すみません……」
「疲れてんだろ。あの部屋は使える様にしてあるから、少し休んでろ」
「……ご迷惑では、ないですか?」

恐る恐る尋ねたリィナに、フェリクスはふっと息を落とすとリィナの頬を撫でる。

「俺だって叩き出すほど非道じゃねーよ。まだ暫く手が離せねーからな。三人娘と茶でも飲んで待ってろ──それとも」
「んっ……!」

いきなり唇を塞がれて、リィナはきゅっとフェリクスの服を握る。

「んっ……んん……」

背後でそっとドアが閉まる音が聞こえた気がしたけれど、角度を変えられて更に深く口付けられたリィナは応えるのに必死ですぐにそんな事は頭から消え去ってしまった。
そうして上手く息を継げずに苦しくなったリィナがぱたぱたとフェリクスの胸を叩くと、フェリクスはゆっくりと唇を離してふにゃんと胸にもたれかかって来たリィナの髪を撫でながら小さく笑う。

「これで満足して今日のうちに帰るってなら、今ここでもう少し構ってやるぞ?」

小さく唸ったリィナの顎を、フェリクスは指でくいっと持ち上げる。

「夜まで良い子にしてられんだったら、朝までたっぷりもてなして・・・・・やるが──どうする?」

ニヤリと、とんでもなく悪そうな顔で笑うフェリクスをうっとりと見上げて、リィナは「いいこにしてます……」とフェリクスの胸に顔を埋めた。


「申し訳ありません、フェリクス様。何分急な事だったので……夜着が普通です」
「持って来てるって事はハナから泊る気満々じゃねーか」

心底申し訳なさそうな顔をしているらしいアンネに深々と頭を下げられて、恐らくは三人娘に何を言ったところで聞きはしないだろうと分かり始めているものの、俺は別に夜着にこだわりはねーぞ?とフェリクスはとりあえず言ってみる。

「分かっております。次回からはきちんとした夜着をお持ちしますので」
「分かってねーだろ」

嘆息しながらもういいから下がれと手を振ると、アンネ達はでは、と足音も立てずに部屋を出て行く。

「普通、な」
「いえ、あの……普段はもっと、普通なんですけど……」

前回ほど裾が短いわけでも透けているわけでもないものの、胸元が大きく開いた、普通にしては裾の短い夜着に身を包んで既にベッドの上で待機させられていた・・・・・・・リィナはもじもじと夜着の裾をいじくる。

「ま、どうせすぐ脱いじまうしな」

ぎしっとベッドが軋んで、フェリクスがベッドに上がる。
そうして下ろされているリィナの髪を一筋すくうと、くいっと緩く引く。
ほんの少し引かれただけで、実際にはそれでリィナがフェリクスの方へ傾ぐ程の強さではないけれど、リィナは引かれるままフェリクスに身を寄せる。

「ふぇるさま……」

フェリクスはリィナの小さな身体を抱き留めると、ゆっくりと唇を重ねた。


「あっ、あっ、あんっ……んっ、ふぇるっさ……」

足を大きく開かされて両腕を掴まれたまま激しく揺さぶられて、リィナはいやいやと首を振る。

「ふぇるさ……ら、め……ゆっくり……ゃあっ!」

がんっと突き上げられて仰け反ったリィナの腕を、フェリクスはそのままぐっと引き寄せる。
シーツの海から引き上げられたと思ったらフェリクスの膝の上に座らされて、その動きでぐりっと中を抉られて嬌声を上げたリィナの中から溢れた体液が二人の隙間から零れ落ちる。

「何だ、もうイッたのか?」
「ら、て……ふぇるさま、いじわる……っ」
「いじめてなんてねーだろ?」

ほら、と突き上げられて、リィナは悲鳴のような声で啼いて──そうしてまた新たに溢れた体液で、フェリクスの膝を濡らす。

「や……も……ぅんっ」

小さく首を振るリィナの頬を包んで、口付ける。
そうしてゆっくりと揺さぶれば、リィナの口からはただただ蕩けた声が零れ落ちた。


フェリクスが何度目かの白濁を放ったその時、リィナの身体からふいにかくんと力が抜け落ちた。

「──リィナ?」

ぐったりとシーツに沈み込んだリィナに、フェリクスはしまったなと独り言ちる。

「わりぃ、やり過ぎた……」

もう聞こえてはいないであろうリィナに向かってそんな呟きを落としたフェリクスは、前髪を掻き上げながら窓の外へと視線を向ける。
まだ空は白み始めてもいない深夜だ。

リィナとの誓約式まであまりにもギリギリのスケジュールで、ここのところあれやこれやと多忙を極めていたせいか、どうにも余裕を失って加減を忘れてしまったようだ。
昼間にリィナに言ったように、朝までじっくりたっぷり愉しもうと思っていたのだが……とフェリクスはリィナの頬を撫でる。

「まぁ朝があるか」

リィナが聞いたら「もう充分です」と言いそうな事を呟いて、フェリクスは乱れてしまっているリィナの髪を梳いてから腕の中にリィナを抱き込むと目を閉じた。


そして翌朝──
目覚めてすぐにフェリクスに「続きするか?」と言われて、リィナはぶんぶんと首を振った。

「む……むりですっ」
「朝までもてなしてやるって言ったのに、出来なかったからな」
「いえ、あの、今日は本当にもうむり………やんっ」

身体を捩って逃げようとしたけれど、足も腰も、何なら腕すらもちっとも力が入らずに僅かな抵抗しか出来ず、結局リィナはその細腰をがっしりと捕まえられて、そうして朝からたっぷりとフェリクスの熱を注がれてしまった。


❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊

「ねぇ、アンネ」
「まだ3日です、お嬢様──あんなにぐちゃどろになるまでいちゃつき倒したばかりなのに、もうフェリクス様不足ですか?」
「あ、あれは、少し大変だったけれど……でも、出来れば毎日だってお顔は見たいしギュッてして頂きたいし、キ……キスだって、したい、もの……」

もじもじとソファの上に置かれていたクッションを抱きしめながらそんな事を言ったリィナに左様でございますか、と返しながら、
今回は何日持つかしら。早急に夜着を新調しておいた方が良いわね。あとでクラーラにでもお遣いを頼んで……と、
アンネは頭の中で今後の算段をつけるのだった。


~~ おしまい ~~

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