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番外編

酒は飲んでも呑まれるな。

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最初に土下座しておきます。すみませんごめんなさい。
ちょっとした出来心だったんです……( ´ㅁ` ;)
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*



「陛下から、ですか?」
「結婚祝いだと」
「まぁ……誓約式にもいらして頂いたのに……何だか申し訳ないですね」

そう言って心底申し訳なさそうな顔をしているリィナに、フェリクスは顔を顰める。

「あれは勝手に押しかけて来ただけだろ」
「それでも、立会人にもなって下さいましたし……あぁ、とにかくすぐにお礼状を書かなくてはいけませんね」
「んなもん……」

必要ねー、とフェリクスが言い切る前にぱっと立ち上がって自室へと向かってしまったリィナを見送って、フェリクスは溜息を落とした。

「つーか、あいつは飲めんのか?」

届いたばかりの最高級とされている葡萄酒の瓶を指で軽く弾いて、フェリクスはリィナが出ていった部屋のドアを見た。



「一応飲んだことはあるのですが……エミリオが『姉上は飲んではダメです』なんて言うものですから、実家ではあまり飲ませて貰えなくて……」
「てことは、何かやらかした事があるわけだな」
「それが、覚えていなくて………と言いますか、私の記憶では普通におしゃべりをしていただけだったのですが……」

何故でしょうね?とこてんと首を傾げていたリィナに、フェリクスはエミリオが飲むなと言ったのであればそれ相応の理由があるのだろうと、念の為食事の席で飲む事は止めて、就寝前にフェリクスの部屋で軽く味見でもするか、という事にした。

そうして二人きりで、軽いつまみと共に"味見"を始めたのだが──

「フェリクス様、抱っこしてください」

香りが良いですしとても飲みやすいですね、なんて言いながらグラス半分程の葡萄酒を消費した頃、リィナが甘えるようにフェリクスに身体を寄せて来た。
一緒に住む様になってから「抱っこ」は割と頻繁に要求されていたから、フェリクスは何の疑問も持たずにリィナを抱き上げると背中から抱き締める格好で膝の上に乗せる。

「向きが違います」
「それじゃ飲めねーだろ」

膝の上でもぞもぞと身体の向きを変えて対面したリィナにそう言うと、リィナがふふっと微笑む。

「フェリクス様が飲ませてください」

ん、と強請るように顎を持ち上げてみせたリィナに、フェリクスは何となく僅かな違和感を覚えたけれど、まさかなと小さく首を振って、自身のグラスを手に取って葡萄酒を口に含む。
そうしてリィナの顎に指を添えると、唇を重ねてリィナの口内へと葡萄酒を流し込んだ。

こくんとリィナの喉が鳴る。

唇を離したフェリクスの首に、リィナがゆっくりと腕を回した。

「………もっと」
「どっちをだ?」

口端を上げたフェリクスに、リィナは小さく首を傾げて、そしてフェリクスの唇をそっと指でなぞる。

の、お好きな方を」

そんな風に言われて、フェリクスはグラスを煽って中身を飲み干してからテーブルに戻すと、葡萄酒の瓶の口にストッパーを放り込んで、リィナを抱き上げてベッドへと向かう。

そっとリィナをベッドに下ろしたところで、リィナに纏っているガウンの袖をちょんと引かれた。
次いで手を取られて、隣に座れとでも言うようにその手を緩く引かれたフェリクスがリィナの望むままその隣に腰を下ろすと、リィナは腰を上げてフェリクスの足の間に座る。
フェリクスの胸に手をあてて体重を乗せたリィナに口付けられて、フェリクスは僅かに首を傾げた。

「今夜は随分と積極的だな、奥サマ?」

ゆるりとリィナの髪を掬って毛先に口付けると、リィナがふふ、と笑う。

「新刊が出たんです」

リィナの言葉にフェリクスは何の話だと瞬いて、ややあってあぁ、と頷く。

「あの小説か」
「はい。もう"お勉強"は必要ないかと思ったのですが、ずっと読んでいたものですから、やはり続きが気になってしまいまして」

どうやら単にナニをアレコレしているだけではなく、一応何かしらのストーリー展開があるらしい。

「そうしたら今回は女性がとっても積極的で、私ビックリしてしまって……でも、もしかしたらフェリクス様も喜んで下さるかしらって」

つ、とはだけている胸元を指でなぞられて、フェリクスの身体が僅かに反応する。

「ですから、フェリクス様──今夜は、私にさせて下さい」

ね?と妙に色気を含んだ笑みを浮かべて小首を傾げたリィナに、フェリクスは知らず息を飲んだ。



♡♡♡ ‪‪❤︎‬ ♡♡♡

 (待て待て待て待て……!!)

フェリクスは必死に己を律していた。
今自身の足の間では、ぺろぺろとミルクを舐める子猫のような、リィナの”ご奉仕”が行われている。

根元を緩く握り、そこから先端に向けて舌を這わせて、そしててっぺんをぱくりと咥えたかと思うと、リィナの小さな口腔に自身が飲み込まれていく。
ゆっくりと、"悦い"というよりも擽ったい方が勝る拙い舌の動きに、フェリクスは自身で腰を動かしたい衝動を必死に堪える。

「んっ……ふぇるしゃま……きもちい、れすか?」

ぺちゃ、と水音を立てながら上目遣いのリィナに問われて、フェリクスはぐっと呻く。

「──あぁ、もっと強くして良いぞ」
「つよく……」

一度フェリクスから口を離したリィナはきゅうっと根元を握っていた手に僅かに力を込めて、そしてそのまま手を動かし始める。

「ぅっ……」

フェリクスの口から零れた小さな声に気を良くしたのか、リィナは手の動きを早める。
そうしてフェリクスの反応を伺いながら少しずつ力を込める箇所を変えて、ついにフェリクスがピクリと身体を揺らす場所を暴いたリィナは、何度かそこを、強弱をつけるなんて事までして扱く。

「お、まえ……本当に本の知識だけか?」

漏れそうになる声を堪えながら、フェリクスはリィナの髪を掻き上げる。
他の誰かと……なんて事を疑っているわけではない。
リィナにそんな時間の余裕も体力の余裕もない事は、ほぼ毎晩抱き潰しているフェリクス自身もよく分かっている。
しかし"口での奉仕"は今までやらせた事もないし、今回だってフェリクスから求めたわけでもないのに、手も舌も動きはとんでもなく拙いのに、普段なら絶対に恥ずかしがって嫌がりそうな事なのに、やたら積極的に自分を翻弄しているこれは一体誰だと、フェリクスはリィナの髪を引く。

「ん、はい──ですから、おしえてください……どうすれば、気持ち良いのか……」

ちゅっと先端に口付けられて、フェリクスはリィナの手の中でどくりと自身を硬くした。



「んっ……んむっ………んんっ」

じゅぽじゅぽと卑猥な水音を響かせて、リィナの小さな頭が上下している。

何故だか分からないが、愛しい妻が積極的に"ご奉仕"を覚えようとしているこの機会を逃す手はない。
フェリクスはゆっくりとリィナに口でのやり方を教え込んで、そうして今、リィナは教えられた通りに手を、舌を、口を、時には吐息までもを使ってフェリクスの昂りを愛撫している。

そう長い時間を費やしたわけでもないのに、最初とは比べ物にならないくらいの上達ぶりを見せているリィナに満足気に笑みを浮かべて、フェリクスは奥まで飲み込みすぎたのか、時折苦しそうな声を漏らすリィナの頬に手をやると顔を上げさせる。

「……らめ、れしたか?」

回っていない口で不安そうに言うリィナに、フェリクスはいや、とリィナの頬を撫でる。

「すげぇ上手くなった──が、まだ少しばかり物足りねぇ」

リィナの上体を起こさせて、フェリクスはその場に膝立つと、来いとリィナの顎を引く。

「咥えろ」

言われるまま、リィナは片手をフェリクスの腰に添えて、そうしてもう片方の手で再びフェリクスの根元を握ると、ぺろりと先端を舐めてから、躊躇う事なくフェリクスを咥え込む。

「動くぞ」

リィナの頭を緩く掴んで、フェリクスは腰を動かし始める。
じゅぷ、じゅぷ、と水音が響いて、リィナの眉間に皺が寄る。

こんな小さな口では苦しいだろうと、あまり無茶な事をさせないでおこうと思う反面、
このまま無茶苦茶に腰を振ってやったらどんな表情を見せるのかを見てみたい気もして……
ほんの僅かな葛藤の末、フェリクスは腰の動きを徐々に早める。

苦しそうに歪んでいくリィナの表情と、漏れてくる呻くような声に、フェリクスは己の中の嗜虐心が刺激されるのを感じていた。

 (そんな趣味は、持っちゃいなかったはずなんだがな……)

言葉や行為で虐めて、恥ずかしがるリィナを僅かな時間愉しむ事はあるが、それだって"可愛いから"であって、本気で嫌がったり辛そうだったりする事をしたいなんて思わない。

思わないはずだった。

「んんんっ……んあっ…ぁっ……んむっ……!」

口腔を容赦なく蹂躙されて、空気を求めて離れようとするリィナの頭を押さえて、フェリクスはリィナの口腔に自身を捩じ込む。

苦しそうにぎゅうっと目を閉じて、あまり見る事の無い眉間の皺を深く刻んで涙まで零しているリィナに、フェリクスの背をゾクゾクとした、快感にも似たものが這い上っていく。

射精すが、飲み込むなよ」

言うや否や、フェリクスが一気に硬さを増して、そしてリィナの口腔に勢いよく白濁が注ぎ込まれる。

「んふっ……んんっ……!」

苦しそうに顔を歪めながらも、リィナはその小さな口腔で必死に白濁を受け止める。

そうして全てを出し切った後にフェリクスがリィナの口腔からずるりと自身を引き抜くと、それと一緒に放ったばかりの白濁が零れ落ちた。
フェリクスは咳き込んだリィナの口元にタオルをあてて吐き出させると、口内を指で拭う。

「あとはすすいだ方が早ぇか」

サイドテーブルの水差しを手に取って口に含んで、リィナに口移す。
水を含ませたのは、水ごと白濁を吐き出させようと思っての事で、先ほど吐き出させた時に既に濡れてしまっているタオルの面を入れ替えてリィナの口元に持っていこうとしたフェリクスは、ぎょっとリィナを見る。

「おい、馬鹿……っ」

やめろ、と言おうとした時にはリィナの喉がコクリと上下していた。
途端また顔を歪めてきゅっと目を閉じたリィナに、フェリクスはもう一度水を口に含むと、リィナの頬を包んで口移す。

「──飲むなっつったろ」

リィナがこくりと飲み込んだのを確認してから、フェリクスがまだリィナの口端や頬に残っていた白濁を指で拭ってその顔を覗き込むと、リィナは涙で潤んだ瞳をゆっくりと持ち上げてフェリクスを見た。

「でも、これがフェル様の赤ちゃんを運んで来て下さるのでしょう?」
「まぁ、そうだが……口から飲んだところで孕むわけじゃねーだろ」

もっと飲んどけとフェリクスに口移される水を与えられるまま飲み下していたリィナが、はふっと息をついてからゆるりと首を傾げた。

「でしたら、フェル様……」

するりとリィナの腕がフェリクスの首に絡む。

「下のお口にも、たくさんください」



♡♡♡ ‪‪❤︎‬ ♡♡♡

 (これは……もしかしなくても、か……)

フェリクスは己を律する事を完全に放棄して、己に跨っているリィナを見上げる。

ください、と言われたから「欲しければ自分でやってみろ」と、今までに何度か"恥ずかしい"という理由で拒まれているそれを要求してみたら、今晩のリィナは仰向けになっているフェリクスに躊躇いもなく跨ってきた。

 (タチの悪ぃ酔い方しやがって……いや、俺にとっては悪くはねーが……)

心の中で悪態づいて、フェリクスはふぁっと甘い息を漏らしたリィナの腰を掴んで、そうしてぐっと下げる。

「きゃうっ!」

ようやく奥までフェリクスを飲み込んだところだったリィナは、更に腰を落とされてぐりっと最奥を刺激されて、びくりと身体を震わせる。

「やぁっ……ふぇるさま、だめです……」
「喜んでんじゃねーかよ」

ほら、と軽く突き上げてやると、リィナはまた甘い声を漏らす。

「だ、て……じぶんで……て……」

吐息交りにそんな事を言われて、フェリクスはリィナの腰から手を離して、身体を支える為にフェリクスの腹に置かれているリィナの手を握る。

「だったら──早いとこ見せてくれよ。俺の上で乱れるリィナをよ」

握ったままの手はそのままに、リィナの手の甲を親指でするりと撫でてやると、リィナはふっと熱い吐息を漏らして小さく身体を震わせる。
フェリクスがリィナの手を離すと、それが合図のようにリィナはまたフェリクスの腹に手を置いて、ゆっくりと腰を持ち上げた。


くちゅ、くちゅ、と水音を響かせてゆっくりと身体を上下させていたリィナが少しずつ速度を上げて、そしてもどかしそうに前後に腰を揺らし始めるまで、フェリクスはリィナのその表情を、豊かな双丘が揺れる様を存分に堪能していた。
これで耐性がついて今後も応じて貰えれば万々歳ではあるが、酔っているが故の大胆さであるならば、次はいつ拝めるのか分からない。

「んっ……ふぇる、さま……っ」

少し前屈みになって、擦り付けるように身体を前後に揺らしているリィナに震える声で名を呼ばれて、フェリクスはそろそろ限界かと、リィナの腰を支えていた手に僅かに力を込める。

「そんなんじゃ物足りねーだろ?もっと、激しくしてみろ」

とんっと軽く突き上げてやると、リィナは可愛らしい声をあげて身体を跳ねさせる。

「で、も……も………っ」
「もっと欲しいか?」

フェリクスが囁くように問えば、リィナは即座にこくんっと頷く。

「だったら強請ってみろ。俺がリィナをめちゃくちゃに突き上げてやりたくなるように、な」

つつ、と腰を撫でるフェリクスの指に身体を震わせて──リィナは潤んだ瞳をフェリクスに向けた。

「ん……ください、フェルさま。いちばん奥……めちゃくちゃに、ついて。どこかへとんでしまいそうなくらい……つきあげて……ください」

小さな声で強請るリィナに、フェリクスは腰を撫でる手を止めずに口端を上げる。

「足りねぇな……そんな強請り方じゃ、ちっともこねぇ」

リィナの腰を持ち上げて、そして一気に下ろす。

「ひぁっ!」

ぐちゅんと水音が響く。
自分で動いていた時とは比べ物にならない快感に、リィナの背が反る。

「あ……あ、ふぇるさま……もっと……もっと、して」

与えられた快感を求めて、リィナの腰が揺れ始める。

「もっと、どうして欲しいんだ?」
「奥……おもいきり、つきあげて、ください……」

再び自身で上下し始めたリィナに、フェリクスは笑う。

「我慢できねーのか?俺はまだ何もしてねーってのに、腰振ってんじゃねーか」
「だ、て……ほし、の……!ふぇるさま、奥、めちゃくちゃについて、つきあげて。私のなか、フェルさまでいっぱいにしてくださ……!」

本当にタチの悪ぃ……と独り言ちて、フェリクスは一気にリィナを突き上げる。

「あぁっ……!」

大きく仰け反って、ぐらりと後ろに傾いだリィナの腕を掴むと、フェリクスはそのままリィナの望む通りにがんがんと突き上げ始める。
フェリクスの突き上げに合わせて、白い喉を仰け反らせて抑える事もなく喘ぎ声を零しているリィナの膣内がきゅうきゅうとフェリクスを締め付け始めたタイミングで、フェリクスは掴んでいた腕を引いてリィナの上体を傾がせると、誘うように揺れている胸に手を伸ばす。

揺さぶられながら胸を遊ばれたリィナの啼き声が高まると、フェリクスは胸から手を離してリィナの太腿と腰を押さえ付ける様に掴んで、そうして再び思い切り突き上げる。

「やぁぁっ……!」

押さえられているせいで、突き上げられた衝撃を全て最奥で受け止めるしかなかったリィナが切なげな声を上げて、
そして2人の間からリィナの体液が溢れ出した。

ふらりと倒れ込んできたリィナを抱き留めて、フェリクスは上体を起こす。
こつんとフェリクスの肩に額を乗せて荒い息を繰り返しているリィナのこめかみに口付けを落としてから、フェリクスはリィナの耳元に唇を寄せる。

「頑張った褒美だ」
「あっ!?や、まだ……っ!」

繋がったまま背中をシーツに沈められて、腰が浮いた状態のまま穿つように抽挿を始められたリィナは悲鳴ともつかない嬌声を上げた。

「やぁっ!いっちゃ……またいっちゃ、ますか、ら……ぁ!」
「何度でもイけば良い。褒美だっつったろ?」
「やぁっ……!」

容赦なく攻められて、リィナの中がまたフェリクスを締め付ける様にきゅうっと収縮して──

射精すぞ」

落とされた囁きにリィナは身体を震わせて、そうして最奥でフェリクスの熱が弾けるのと同時に、リィナも再び絶頂を迎えた。

何度か腰を打ち付けて、フェリクスはくたりと力の抜けたリィナから自身を引き抜く。

「──リィナ?」

呼び掛けてみたけれどピクリとも反応しないリィナに、フェリクスは物足りなさを感じつつ息を落とした。
そうして僅かに燻っている己の熱には気付かないふりをしてリィナの身体を清めてやると、腕の中にその小さな身体を閉じ込めて横になる。

さて、目が覚めた時の反応はどんなものだろうかと、
恐らくは真っ赤になって慌てふためくのだろうと想像して、

その想像にフェリクスは小さく笑みを浮かべると、リィナの柔らかな頬を撫でて目を閉じた。



♡♡♡ ‪‪❤︎‬ ♡♡♡

「う、ん………」

腕の中の小さな身体が僅かに身じろいだ事で、フェリクスは目を覚ました。
自身の腕の中に視線を落として、そしてまだ目を閉じたままのリィナの様子を伺う。

程なくしてふるりとリィナの睫毛が震えて、次いでとろりと瞼が持ち上がって淡い茶色の瞳がぼんやりとフェリクスを捉えたのを確認すると、フェリクスはその額に唇を落とす。

「起きたか?」
「………おはよう、ございます……?」

ぼんやりとしたまま、不思議そうな表情を見せたリィナがふとフェリクスの身体を見て、そうして自身の身体に視線を移す。

「……フェリクス様……私が寝てる間に……した、のですか……?」

「────は?」

ぱちりと瞬いたフェリクスに、リィナが拗ねたような顔をしてみせる。

「昨晩は陛下の葡萄酒を頂いて……私、眠ってしまったのでしょうか?それは申し訳なかったと思いますけれど……でも何も寝てる間になさらなくても……」

そう言って僅かに唇を尖らせたリィナに、フェリクスは「はぁ?」と口から零れそうになった音を飲み込んで、そうしてまさか……とリィナの顔をまじまじと見る。

「──覚えてねぇのか?」
「あ、あの、何となく、気持ち良い夢……を、見ていた気はするのですが……」

「覚えてねぇんだな……?」

思わず確認してしまったフェリクスに、リィナは拗ねていた表情から一転、もしかして、と眉を下げる。

「私、フェリクス様を受け入れてから、眠ってしまったのでしょうか……あの、それでしたら、本当に申し訳ありません……」
「あー……まぁ、昨晩のリィナは酔ってたみてーだしな……そういう事も、あるだろう」

完全に記憶がすっぽ抜けてんのか?つまり、アレもコレも、全く覚えてねぇって事か?
という内心の動揺を綺麗に隠して、フェリクスはリィナの頬を撫でる。

「悪ぃな。途中で寝ちまったのは分かったんだが、やめてやれなかった」

と、いう事にしても罰はあたらねーだろうと結論付けたフェリクスの言を信じ込んだらしいリィナは、きゅっと眉を下げて、ごめんなさいと瞳を潤ませる。

「そんなわけで、昨晩俺は少しばかり不完全燃焼だったんだが……良いか?」

ぎしりと軋んだベッドに、リィナは「もう朝ですよ……?」と言いながらも降ってきた唇を受け入れて、
そうしてフェリクスの背に腕を回した。


その後リィナは、フェリクスの寝酒に付き合って、そして最中に寝てしまったらしい、という状況に何度か見舞われる事になるのだけれど──
リィナが "ただ眠ってしまったわけではない" という真実を知る事はなかったとか。



✧✧✧✦✧✧✧

「飲酒後の姉上、ですか?」
「いや、リィナがな。エミリオから飲酒禁止令が出たって言ってたんだが……エミリオが禁止する程の何かがあったのかと思ってな」

後日、フェリクスはデルフィーヌ侯爵家を訪れた際に寄宿学校から帰省中だったエミリオに何気ない様子を装って確認をした。
まさかエミリオに迫ったわけじゃねーよな?と思いつつ、毎回毎回えらく積極的になって、そして翌朝には綺麗さっぱり記憶喪失になっているリィナに、一体家族の前で何をやらかしたのかと、心配になったのだ。

「いえ、フェリクス様が心配なさる程の事ではないのですが……絡み酒、というのですか?やたら饒舌になったと思ったら、説教を始めたりフェリクス様の……あ、いえ、色々と語り出したり──かと思ったら泣き出したりと、少し面倒で……フェリクス様の前では、大丈夫でしょうか?」

うちの姉がすみません、と申し訳なさそうな顔をしたエミリオに、フェリクスはいや、と首を振る。

「特に問題はないから大丈夫だ──もしかして、翌朝リィナはちっとも覚えてなかったか?」
「そうなんです。"普通におしゃべりしていただけでしょう?"なんて言うんですよ……という事は、やっぱりフェリクス様にもご迷惑をおかけしたんですね」

すみませんと頭を下げたエミリオの肩を気にすんなと叩いて、フェリクスは内心で盛大に安堵の息をついた。


つまりは相手によってやる事が変わるという事か……とフェリクスは暫く考えて──

そうしてリィナは「酔うと寝ちまうんだから、外では飲むな」と、フェリクスからも屋敷外での飲酒を禁止される事になったのだった。




*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
お読み頂きましてありがとうございました!
誓約式から間もない頃のお話でございました。

『冬薔薇を、あなたに』を読んだ方から、「慰謝料としてラブラブな話を」というお声をいくつか頂きましたので。
ラブラブ………?という疑問は残りつつも。

ちなみにこの国は18歳で成人なので、お酒もそこで解禁です。

最初にフェリクスを押し倒すシーン以降、リィナが受け身すぎるなぁ……と思ったので、ここはいっちょ、普段のリィナなら絶対やらないような事をやって貰いましょう、と。
思ったのが。
間違いだったような気も……(・_・;?

なんかフェリクスさんに変な性癖目覚めさせてしまったような気もしますが、全て気のせいという事にしておきます。


誓約式から半年後にはリィナの妊娠が発覚しているので(本編ラスト)、フェリクスさんがお酒で愉しめたのは数回程度だったのではないかと思います(^^;


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