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本編
66. 花嫁来たる。
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何だかんだと結局鍛錬場で剣を振るい、リィナの事を散々揶揄われ、フェリクスは精神的疲労でぐったりしながらもヴィクトールを伴って屋敷に戻った。
「まぁ鍛錬所の機能としては問題なさそうだな。今回は試験的なもんだから一月だが、新人はそのまま延長させるつもりだ。あいつらが出た後に、新たに新人を10名程度送る」
通された部屋のソファにどっかりと座り込んでそう言ったヴィクトールに、フェリクスは向かいに座りながら頷く。
「つーかあいつら一月も居て大丈夫なのか?」
ベテラン──すなわち、彼らは師団長だったり副だったり、肩書がなくともそこそこに重要なポストにいたり、という連中ばかりだ。
それがこぞって一月も持ち場を空けるというのは結構な問題な気がして問えば、ヴィクトールが豪快に笑う。
「ま、一月でどうにかなるようならそこの隊は配置変更するだけだ。お前は気にすんな」
「なぁんか使われてる気がすんな……」
「気にすんなって。あぁ、あと、一応俺も定期的に様子は見に来るつもりだ。何かあればそん時に言ってくれ」
「──定期的?」
「ま、次は10日後だな」
「来んな」
「良いじゃねーか、減るもんじゃなし」
確実に俺の中のナニカが減る、とフェリクスがぐったりと項垂れた時、部屋のドアがノックされてシュゼットがお茶を運んできた。
「ありがたいが、すまんな。すぐに出るから俺の分は不要だ」
ヴィクトールがそう言うと、シュゼットは首を傾げる。
「ですが王都までは3時間ほどかかるのですよね?せめて飲み物だけでも口にされた方がよろしいと思いますが……」
そう言ったシュゼットに、フェリクスも頷く。
「一杯くらい飲んでけ。あと菓子も食ってけ。シュゼット、今日のカリーナのやつ出してくれ」
「っえ!?」
「ん?」
お茶を煎れていたシュゼットが慌てたような声を上げたのでフェリクスが顔を向けると、シュゼットが申し訳なさそうに笑う。
「今日は私なんです──ですので、その……騎士団長様にお出しできるようなものでは……」
「食えりゃ良いって人間だから、気にするな」
フェリクスにそう言われてシュゼットは困ったように眉を下げつつも、2人にお茶を出してから一度下がると、シュゼットとカリーナで作ったマドレーヌを皿にのせて戻って来た。
フェリクス自身が焼き菓子に飽きて来た事もあってヴィクトールに消費に協力して貰おうと思ったのもあるが、厳つい顔をしたこの騎士団長が実のところ大の甘い物好きだと知っているフェリクスの読み通り、ヴィクトールは焼き菓子をばくばくと消費してくれた。
「美味い!久しぶりに食った」
嬉しそうに皿の上の焼き菓子をぺろりと平らげたヴィクトールに、フェリクスはあぁそうかと思い出す。
ヴィクトールは既婚ではあるが、その妻を3年前に病気で亡くしている。
元々あまり身体が丈夫ではなかった妻との間に子供はなかったし、恐らくは菓子を作ってくれるような相手は今もいないのだろう。
店で買えば良じゃないかと思うが、女性客ばかりの店に自分のようなのが入っていけるわけがないと以前こぼしていた事があるから、きっと今も店には入れていないのだろう。
「多分まだ残ってるだろうから、何なら持って帰って良いぞ」
「本当か!?」
頼む!と言われたフェリクスはシュゼットを呼ぶと、昨日の余りなんかも入れて良いからと、ヴィクトール用の焼き菓子土産の準備をさせた。
「色々とすまんな! じゃあ、また来る」
ホクホク、といった様子で菓子を手に帰って行くヴィクトールを見送って、フェリクスは何となく流れで一緒に見送りに出ていたシュゼットを振り返る。
「悪いな、仕事増やしちまって」
「お菓子を包むくらい、何てことありませんよ。でも、ふふ……っ」
シュゼットがクスクスと笑う。
「あんなにお強そうな騎士団長様が甘い物が好きだなんて、何だか可愛いですね」
「可愛い……?あれがか?」
「男の方には、分からない感覚かもしれませんけど……可愛いですよ」
楽しそうに笑っているシュゼットに、フェリクスは心底不思議そうに首を傾げた。
❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊
翌日から早速、新人に実際に稽古をつけながら、ベテラン勢の意見を聞いて指南方法を固めていく作業に入った。
と言ってもまだフェリクス自身が丸1日時間を取れる訳ではないので、午前中だけ、午後の数時間だけ、という風に毎日少しずつといった感じで、残りの時間は自主練(という名のベテラン勢によるしごき)に充てられていた。
他にもとにかく離れを使い倒して欲しいと頼んである。
設備に不備がないか、改善して欲しいところはないか、本格的に鍛錬所として始動する前に洗い出しておきたいからだが、特に問題なく使えているようで、フェリクスとリシャールはひとまず胸を撫で下ろしたのだった。
そうして誓約式の前日。
デルフィーヌ家の面々がヴァルデマン伯爵邸に到着した。
「遠い所ありがとうございます。お疲れでしょう、どうぞ中へ」
「いやぁ、ここは遠い内には入らないよ」
──なんて会話をまず交わすことになるだろうと、フェリクスもジェラルドも思っていた。
リィナが真っ先に馬車から飛び出して、フェリクスに向かって駆け出すその時までは。
「フェリクス様ーーー!」
令嬢らしからぬ猛ダッシュで、なのに軽やかに見えるという器用な走りでもって一直線にやって来るリィナに、フェリクスはその場に留まるとリィナを受け止める準備をする。 主に精神面の。
けれどそのまま真っ直ぐ飛び込んでくると思っていたリィナが、フェリクスの少し手前でとんと踏み切った。
「っおい!」
ぴょんと飛び上がったリィナを、フェリクスは咄嗟に膝を落として掬い上げるように抱き上げる。
「──馬鹿、危ねーだろ」
「フェリクス様なら大丈夫だと信じていますから」
小言を言いながらもしっかり抱き留めてくれているフェリクスに、リィナは嬉しそうに笑って、そしてぎゅうっと首に腕を回す。
「お会いしたかったです」
「まぁ、確かに今回は少し空いたけどな……」
「少しではありませんわ。ドレスが出来上がった日からずっとお会い出来なかったんですよ?」
「ほらほら、リィナ。今日からはずっと一緒なのですから、その辺にしておきなさいな」
リィナがぷくりと頬を膨らませる表情も何だかすっかり見慣れちまったなと思っていると、いつの間にか馬車から下りて来ていたリアラがリィナの背を叩く。
「何かもう……本当にリィナが色々とすまないね……」
ハハハ、と諦めたように弱弱しく笑いながらリアラの隣に立ったジェラルドに、フェリクスはリィナに視線を送る。
無言でぎゅっと首に抱き着き直したリィナに「だよな。分かりたくねーが、分かってる」と心の中で返して、フェリクスはまたリィナをくっつけたままジェラルドとリアラ、そして2人の後ろで「姉がすみません」と頭を下げたエミリオと、頬を染めてフェリクスとリィナをうっとりと見つめているリディに挨拶をすると、屋敷へと招き入れた。
「──何だ、あれは」
「俺達は今何を見ている……」
「いや、結婚すんだぞ?分かってたはずだろう?」
「だが、それにしても──何だ、あれは!?」
デルフィーヌ侯爵家が一家揃ってやってくると聞いて、この時屋敷の人間だけではなく騎士団の面々も出迎えに出ていた。
フェリクスの元へ押しかけて来て妻にして欲しいと迫ったという『幻の令嬢』を見てみたいという好奇心に溢れていた男達は、想像以上に小柄で可愛らしい令嬢が馬車から飛び出して来た瞬間、思わず「はぁ!?」と声を上げてしまった程だ。
挙句令嬢本人から抱き着いた上に、あのフェリクスが少女を大事そうに抱えているという光景に、騎士団のベテラン組はお互いの頬を抓り、それだけでは足りずに叩きあった。
「おい、痛ぇぞ」
「俺もだ」
「夢でも幻でもないって事か……」
「──楽しそうなところ申し訳ありませんが」
背後から割って入ってきた涼やかな声に、騎士達が振り返る。
「『明日もその調子ならぜってーくんな』と、フェリクスから伝言です」
「おぉ、久しぶりだな、アリス・デュバル!フェリクスに引っ付いてるってのは本当だったんだな」
「今はカンタールですし、フェリクスに引っ付いてるわけではありません」
わざと言ってます?とにっこりと微笑んだアリスに、ベテラン組はいやいやいやと慌てて手を振って、そして首を傾げる。
「あれ、フェリクスのやつは?」
「皆さんが遊んでる間にとっくに中に入りましたよ」
呆れたようにアリスに言われて、いや別に遊んでいたわけでは……と呟いてから、ベテラン組はアリスにずいっと顔を寄せる。
「一応念の為に確認するが」
「近い」
べしんと遠慮なく顔面を叩かれながらも、もしも万が一認識の違いがあってはいけないので確認の言葉を口にする。
「あの小さくて可憐な令嬢がリィナ・デルフィーヌ侯爵令嬢で、明日フェリクスの妻になる女性──なんだよな?」
「あの小さくて可憐で天使か妖精かと見紛うほどに可愛いらしい令嬢がリィナ・デルフィーヌ侯爵令嬢で、明日フェリクスの妻になる女性です」
何か増えていた事はとりあえず置いておいて、きっぱりと言い切られたもう間違えようもないその事実に、ベテラン組は呆然としたように呟く。
「嘘だろう……あんなちっこい子が本当にフェリクスの相手だってのか……」
「ちょっと色々受け入れ難い……」
「そうだよな……受け入れられないよな」
「あんな華奢じゃ簡単にぶっ壊れそうだしな」
「あいつどうする気なんだ?まさか白い結婚なんて事は……」
下ネタかっ!と頭の中で突っ込んで、アリスは「もうとっくに関係済みですよ」と言おうかどうしようか迷って──
これ以上うるさくなられても迷惑だなと、結局口を閉じた。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
家名についてですが、嫁いだらお相手の家名を名乗る事になります。日本といっしょ。
なのでアリスさんは嫁ぐ前はアリス・デュバル。リシャールと結婚してアリス・カンタールになりました。
あとついでに、領地名=家名です。ヴァルデマン伯爵領、デルフィーヌ侯爵領…
だって名前たくさん考えるの大変なので……!(`・ω・´)
「まぁ鍛錬所の機能としては問題なさそうだな。今回は試験的なもんだから一月だが、新人はそのまま延長させるつもりだ。あいつらが出た後に、新たに新人を10名程度送る」
通された部屋のソファにどっかりと座り込んでそう言ったヴィクトールに、フェリクスは向かいに座りながら頷く。
「つーかあいつら一月も居て大丈夫なのか?」
ベテラン──すなわち、彼らは師団長だったり副だったり、肩書がなくともそこそこに重要なポストにいたり、という連中ばかりだ。
それがこぞって一月も持ち場を空けるというのは結構な問題な気がして問えば、ヴィクトールが豪快に笑う。
「ま、一月でどうにかなるようならそこの隊は配置変更するだけだ。お前は気にすんな」
「なぁんか使われてる気がすんな……」
「気にすんなって。あぁ、あと、一応俺も定期的に様子は見に来るつもりだ。何かあればそん時に言ってくれ」
「──定期的?」
「ま、次は10日後だな」
「来んな」
「良いじゃねーか、減るもんじゃなし」
確実に俺の中のナニカが減る、とフェリクスがぐったりと項垂れた時、部屋のドアがノックされてシュゼットがお茶を運んできた。
「ありがたいが、すまんな。すぐに出るから俺の分は不要だ」
ヴィクトールがそう言うと、シュゼットは首を傾げる。
「ですが王都までは3時間ほどかかるのですよね?せめて飲み物だけでも口にされた方がよろしいと思いますが……」
そう言ったシュゼットに、フェリクスも頷く。
「一杯くらい飲んでけ。あと菓子も食ってけ。シュゼット、今日のカリーナのやつ出してくれ」
「っえ!?」
「ん?」
お茶を煎れていたシュゼットが慌てたような声を上げたのでフェリクスが顔を向けると、シュゼットが申し訳なさそうに笑う。
「今日は私なんです──ですので、その……騎士団長様にお出しできるようなものでは……」
「食えりゃ良いって人間だから、気にするな」
フェリクスにそう言われてシュゼットは困ったように眉を下げつつも、2人にお茶を出してから一度下がると、シュゼットとカリーナで作ったマドレーヌを皿にのせて戻って来た。
フェリクス自身が焼き菓子に飽きて来た事もあってヴィクトールに消費に協力して貰おうと思ったのもあるが、厳つい顔をしたこの騎士団長が実のところ大の甘い物好きだと知っているフェリクスの読み通り、ヴィクトールは焼き菓子をばくばくと消費してくれた。
「美味い!久しぶりに食った」
嬉しそうに皿の上の焼き菓子をぺろりと平らげたヴィクトールに、フェリクスはあぁそうかと思い出す。
ヴィクトールは既婚ではあるが、その妻を3年前に病気で亡くしている。
元々あまり身体が丈夫ではなかった妻との間に子供はなかったし、恐らくは菓子を作ってくれるような相手は今もいないのだろう。
店で買えば良じゃないかと思うが、女性客ばかりの店に自分のようなのが入っていけるわけがないと以前こぼしていた事があるから、きっと今も店には入れていないのだろう。
「多分まだ残ってるだろうから、何なら持って帰って良いぞ」
「本当か!?」
頼む!と言われたフェリクスはシュゼットを呼ぶと、昨日の余りなんかも入れて良いからと、ヴィクトール用の焼き菓子土産の準備をさせた。
「色々とすまんな! じゃあ、また来る」
ホクホク、といった様子で菓子を手に帰って行くヴィクトールを見送って、フェリクスは何となく流れで一緒に見送りに出ていたシュゼットを振り返る。
「悪いな、仕事増やしちまって」
「お菓子を包むくらい、何てことありませんよ。でも、ふふ……っ」
シュゼットがクスクスと笑う。
「あんなにお強そうな騎士団長様が甘い物が好きだなんて、何だか可愛いですね」
「可愛い……?あれがか?」
「男の方には、分からない感覚かもしれませんけど……可愛いですよ」
楽しそうに笑っているシュゼットに、フェリクスは心底不思議そうに首を傾げた。
❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊
翌日から早速、新人に実際に稽古をつけながら、ベテラン勢の意見を聞いて指南方法を固めていく作業に入った。
と言ってもまだフェリクス自身が丸1日時間を取れる訳ではないので、午前中だけ、午後の数時間だけ、という風に毎日少しずつといった感じで、残りの時間は自主練(という名のベテラン勢によるしごき)に充てられていた。
他にもとにかく離れを使い倒して欲しいと頼んである。
設備に不備がないか、改善して欲しいところはないか、本格的に鍛錬所として始動する前に洗い出しておきたいからだが、特に問題なく使えているようで、フェリクスとリシャールはひとまず胸を撫で下ろしたのだった。
そうして誓約式の前日。
デルフィーヌ家の面々がヴァルデマン伯爵邸に到着した。
「遠い所ありがとうございます。お疲れでしょう、どうぞ中へ」
「いやぁ、ここは遠い内には入らないよ」
──なんて会話をまず交わすことになるだろうと、フェリクスもジェラルドも思っていた。
リィナが真っ先に馬車から飛び出して、フェリクスに向かって駆け出すその時までは。
「フェリクス様ーーー!」
令嬢らしからぬ猛ダッシュで、なのに軽やかに見えるという器用な走りでもって一直線にやって来るリィナに、フェリクスはその場に留まるとリィナを受け止める準備をする。 主に精神面の。
けれどそのまま真っ直ぐ飛び込んでくると思っていたリィナが、フェリクスの少し手前でとんと踏み切った。
「っおい!」
ぴょんと飛び上がったリィナを、フェリクスは咄嗟に膝を落として掬い上げるように抱き上げる。
「──馬鹿、危ねーだろ」
「フェリクス様なら大丈夫だと信じていますから」
小言を言いながらもしっかり抱き留めてくれているフェリクスに、リィナは嬉しそうに笑って、そしてぎゅうっと首に腕を回す。
「お会いしたかったです」
「まぁ、確かに今回は少し空いたけどな……」
「少しではありませんわ。ドレスが出来上がった日からずっとお会い出来なかったんですよ?」
「ほらほら、リィナ。今日からはずっと一緒なのですから、その辺にしておきなさいな」
リィナがぷくりと頬を膨らませる表情も何だかすっかり見慣れちまったなと思っていると、いつの間にか馬車から下りて来ていたリアラがリィナの背を叩く。
「何かもう……本当にリィナが色々とすまないね……」
ハハハ、と諦めたように弱弱しく笑いながらリアラの隣に立ったジェラルドに、フェリクスはリィナに視線を送る。
無言でぎゅっと首に抱き着き直したリィナに「だよな。分かりたくねーが、分かってる」と心の中で返して、フェリクスはまたリィナをくっつけたままジェラルドとリアラ、そして2人の後ろで「姉がすみません」と頭を下げたエミリオと、頬を染めてフェリクスとリィナをうっとりと見つめているリディに挨拶をすると、屋敷へと招き入れた。
「──何だ、あれは」
「俺達は今何を見ている……」
「いや、結婚すんだぞ?分かってたはずだろう?」
「だが、それにしても──何だ、あれは!?」
デルフィーヌ侯爵家が一家揃ってやってくると聞いて、この時屋敷の人間だけではなく騎士団の面々も出迎えに出ていた。
フェリクスの元へ押しかけて来て妻にして欲しいと迫ったという『幻の令嬢』を見てみたいという好奇心に溢れていた男達は、想像以上に小柄で可愛らしい令嬢が馬車から飛び出して来た瞬間、思わず「はぁ!?」と声を上げてしまった程だ。
挙句令嬢本人から抱き着いた上に、あのフェリクスが少女を大事そうに抱えているという光景に、騎士団のベテラン組はお互いの頬を抓り、それだけでは足りずに叩きあった。
「おい、痛ぇぞ」
「俺もだ」
「夢でも幻でもないって事か……」
「──楽しそうなところ申し訳ありませんが」
背後から割って入ってきた涼やかな声に、騎士達が振り返る。
「『明日もその調子ならぜってーくんな』と、フェリクスから伝言です」
「おぉ、久しぶりだな、アリス・デュバル!フェリクスに引っ付いてるってのは本当だったんだな」
「今はカンタールですし、フェリクスに引っ付いてるわけではありません」
わざと言ってます?とにっこりと微笑んだアリスに、ベテラン組はいやいやいやと慌てて手を振って、そして首を傾げる。
「あれ、フェリクスのやつは?」
「皆さんが遊んでる間にとっくに中に入りましたよ」
呆れたようにアリスに言われて、いや別に遊んでいたわけでは……と呟いてから、ベテラン組はアリスにずいっと顔を寄せる。
「一応念の為に確認するが」
「近い」
べしんと遠慮なく顔面を叩かれながらも、もしも万が一認識の違いがあってはいけないので確認の言葉を口にする。
「あの小さくて可憐な令嬢がリィナ・デルフィーヌ侯爵令嬢で、明日フェリクスの妻になる女性──なんだよな?」
「あの小さくて可憐で天使か妖精かと見紛うほどに可愛いらしい令嬢がリィナ・デルフィーヌ侯爵令嬢で、明日フェリクスの妻になる女性です」
何か増えていた事はとりあえず置いておいて、きっぱりと言い切られたもう間違えようもないその事実に、ベテラン組は呆然としたように呟く。
「嘘だろう……あんなちっこい子が本当にフェリクスの相手だってのか……」
「ちょっと色々受け入れ難い……」
「そうだよな……受け入れられないよな」
「あんな華奢じゃ簡単にぶっ壊れそうだしな」
「あいつどうする気なんだ?まさか白い結婚なんて事は……」
下ネタかっ!と頭の中で突っ込んで、アリスは「もうとっくに関係済みですよ」と言おうかどうしようか迷って──
これ以上うるさくなられても迷惑だなと、結局口を閉じた。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
家名についてですが、嫁いだらお相手の家名を名乗る事になります。日本といっしょ。
なのでアリスさんは嫁ぐ前はアリス・デュバル。リシャールと結婚してアリス・カンタールになりました。
あとついでに、領地名=家名です。ヴァルデマン伯爵領、デルフィーヌ侯爵領…
だって名前たくさん考えるの大変なので……!(`・ω・´)
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