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本編

39. 貴方との約束

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フェリクスが部屋の奥にある浴室で着替えを済ませている間に、リィナも下着とドロワーズを身に着けて、乱れてしまっていたワンピースも直す。

「服、大丈夫だったか?」

着替えて出て来たフェリクスに頬を撫でながら問われて、リィナは目を細めてはい、と頷く。
今回はワンピースを汚す事なく終えられた。
強く握りしめていたせいか、スカートが少し皺になってしまっているけれど……。

「……あの、フェリクス様は……その……」
「あー……抜いてきた」
「え?あ、そ……そう、ですか……」

着替えに行っただけのフェリクスが、その割に出てくるのに少し時間がかかった理由が分かって、リィナは真っ赤になって俯いた。
フェリクスはそんなリィナを抱き上げて膝に乗っけると、リィナの手首の痕に唇を落とす。

「痕が消える前に、会いに行く」
「────え?」
「今日つけた痕、暫くは消えねーからな。それが全部消える前に、会いに行く」

胸の内側の、フェリクスがさっき付けた痕の辺りを指で撫でられて、リィナは暫くぼんやりとフェリクスを見上げて──
そうしてその言葉の意味を理解して、フェリクスの首に抱き着いた。

「はい──はい、お待ちしています。 絶対絶対、消える前に来て下さいね」
「あぁ、約束する」

フェリクスはリィナの背を撫でる。

「だから、俺が行くまで家で大人しくしてろよ」
「────たまには、遊びに来ても、良いですか?」
「ダメだ」

即答されて、リィナの眉がしょんぼりと下がる。

「──と言いたいところだが。まぁ、侯爵からお許しが出れば、構わない」

ぱっと顔を輝かせたリィナにフェリクスは苦笑を零す。

「泊まりはなしだぞ」
「え!?」

フェリクスは『愕然』という表情をしたリィナの額をぺちりと弾く。

「何か月かの辛抱だろ。10年に比べたら、可愛いもんじゃねーか」
「でも……だって、知ってしまったんですもの……」

フェリクスの優しさも、弱さも、温もりも、力強さも──そして何より、身体を繋げる事の気持ち良さと、幸福さを。

「フェリクス様に憧れていた10年よりも、次にフェリクス様とお会い出来るまでの数日の方が、きっとずっと長く感じてしまうと思います」

フェリクスの肩に甘えるように額を押し付けるリィナに、フェリクスは苦笑を零す。

「その代わり、誓約式が終わったら嫌がっても抱き潰す──覚悟しとけよ」
「ふぇっ!?え、えっと……あの……は、い……」

何だかとんでもない宣言をされて、リィナは期待8割、未知の領域に入り込んでしまいそうな恐れ2割で、こくこくと頷いた。


❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊

昼食の為にフェリクスの自室から食堂に直行したリィナは、アンネの視線がさり気なくリィナの全身を滑った事に気づいて、何となくスカートを握りしめてアンネから視線を逸らす。

「マウロさんのお昼も、楽しみね」

気まずいのか、早口でそう言うリィナに、アンネは内心で舌打ちをしている事を綺麗に隠して、そうですねと頷いた。

アンネとしては別に明らかにイチャついてましたという雰囲気の主人に何か言うつもりはない。
フェリクスがリィナを抱えて自室に行った時点でそうなるだろうと思っていたので、まともな状態で、自分達から出て来た事の方が驚きだった。

むしろ出てこなかった時に、誰が声をかけに行くかで揉めていたくらいだ。
勿論嫌だからではなく、誰がリィナの艶姿を拝むか、で。

アンネは一の侍女である自分が行くべきだと主張し、
ベティは男爵家のお嬢様でもあるアンネはそんな仕事はするべきではないから自分が行くと主張していた。
いつまで経っても平行線の2人に、クラーラがのんびりと「どうせ暇なのだし3人で行きましょう」と提案して、その手があったかとアンネとベティは驚愕した。

そう、侍女達は楽しみにしていたのだ。
事後の──あわよくば最中の、フェリクス以外まだ誰も見たことのないリィナの乱れた姿を拝めるのでは、と。

アンネとベティはその機会が先延ばしされた事に思わずフェリクスにじとりとした視線を送ってしまったが、意外と聡いフェリクスはその視線の意味を正しく理解したようで、呆れたような顔を見せた後、アンネとベティの視線をかわす様にリィナを伴ってさっさと食堂に入ってしまった。

昼食は、さすがにリィナにステーキをどかんと出すのを躊躇ったらしいマウロの配慮からか、ローストビーフだった。
リィナの皿には薄切りにされた肉に少し甘めに整えられたグレイビーソースがかけられ、見目好く盛られている。
付け合わせには揚げたジャガイモと、彩りに気を遣ったように蒸した数種類の野菜。

そんな"お上品"なリィナの皿とは対照的に、フェリクスの皿には明らかに厚みの違う、リィナの分を切り分けた残りの肉がどっさりと乗っている。
グレイビーソースに至っては「自分で勝手に好きなだけかけろ」とばかりにソースジャグに入れられている。

「あいつ……」

苦い顔をしたフェリクスに、リィナがくすくすと笑う。

「柔らかくてとろけるようで、とても美味しいです。厚く切ってあっても柔らかいですか?」
「ん?食ってみるか?」

アンネ達があっと思った時には、フェリクスが一口サイズに切った肉をフォークに刺してテーブル越しにリィナに向かって差し出していた。
リィナはぱちりと瞬いて、そして一瞬の迷いの後に身を乗り出して、フェリクスのフォークからぱくりと肉を頬張る。

「んっ。やっぱり柔らかいです。これも美味しいですね」

幸せそうに微笑んでもぐもぐと咀嚼しているリィナの姿を、アンネ達は表情は普段のままに、内心で大騒ぎしながら見つめていた。
これは所謂「はい、あーん」である。およそ貴族の食卓で見られる光景ではない。
リィナがそんな行為はい、あーんを知っていた事にも驚いたが、侯爵家の長女として育ち、マナー面はとても厳しく躾けられたリィナが、あっさりとそれに応じた事にも驚きであった。

そんな脳内大騒ぎのアンネ達の衝撃を余所に、リィナから第二波が放たれた。

「フェリクス様も、どうぞ」

リィナが自分の分の、薄切り肉をフォークに刺してフェリクスに向かって差し出したのだ。

「お、お嬢様…!?」

流石にアンネが声をかけたが、その時にはフェリクスはリィナのフォークにかぶり付いていた。

美味い、とろけますよね、なんて微笑み合っている二人に、アンネは暫く固まった後に、
一歩踏み出していた足をそっと元に戻した。




*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
侍女sが変態ですみません。(今更…?)


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