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本編
21. 乙女は野獣を出迎えたい。
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フェリクスの言っていた通り、日が傾き始めた頃に外から馬車が近づいてくる音が聞こえて来て、リィナは顔を上げた。
「お戻りになったようですね」
窓辺に寄って確認したクラーラが頷いたのを見て、リィナは慌てて部屋を出る。
一応歩けるようにはなったけれど、残念ながらまだそこまでの歩行速度が出せないリィナの後ろを、アンネ達3人は不測の事態に備えて普段よりも若干距離を詰めてついて行く。
リィナが階段を下りている途中で2階の奥の部屋からアリスが出て来て、そしてリィナの姿を認めて慌てたように駆け寄って来る。
「リィナ様、ご無理はなさらずに」
「もう大丈夫ですわ。それに、あの、お出迎えを、したくて……」
頬を染めてはにかんだように微笑むリィナに、アリスがむぐっと片手で口元を覆って何かをやり過ごしてから、ふーっと息を吐く。
そしてリィナの隣までやって来て、手を差し出した。
「では、どうぞおつかまり下さい。もしリィナ様が足を滑らせでもしたら大事ですから」
「もう大丈夫ですのに……でも、ありがとうございます」
リィナが微笑んでアリスの手にそっと自分の手を重ねて階段を下り始めたところで、玄関のドアが開いてフェリクスとリシャールが入って来た。
「フェリクス様!」
ぱっと弾んだリィナの声に、フェリクスが顔を上げる。
そしてリィナの姿を見て一瞬眉を寄せたかと思ったら、ものすごい勢いで階段を駆け上って来て、その勢いのままにリィナを抱き上げる。
「きゃあっ!?」
階段の途中で抱き上げられて視界がぐんっと高くなったリィナは、思わずぎゅうっとフェリクスの首に抱き着いた。
知りたくはなかった事ではあるけれど、下りる方を向いた状態で視界が高くなるのは中々の恐怖だ、という事を、リィナはこの時初めて知った。
「ふぇ……フェリクス様……??」
「もう大丈夫なのか?」
不機嫌そうな声音で問われて、そろそろと身体を起こしたリィナの目に飛び込んできたのは、声音以上に不機嫌そうなフェリクスの顔。
リィナは苦笑しながらフェリクスの首に回していた腕をゆっくり解くと、フェリクスの眉間に指を伸ばす。
「そんなに心配なさらないで下さい。身体はもう大丈夫ですわ」
フェリクスの視線がリィナの背後に移って、どうやらその視線の先にいるらしいアンネが「まぁ一応は」と答えた。
「一応じゃダメだろーが」
「もうっ!信用してください」
抗議の意味を込めて強めにフェリクスの眉間の皺をぐにぐにと伸ばすリィナの手を、フェリクスが掴む。
「信用できるか──おい、リシャール。手紙の確認だけしておいてくれ」
いつの間にか階段を下りていたアリスに上着を預けていたリシャールが「畏まりました」とニヤニヤしながら答えたのを聞いて、フェリクスはそのまま階段を上がるとリィナが使っている客室へと向かう。
そして部屋に入ってそのままベッドへ直行すると、リィナをベッドに下ろした。
「本当にもう大丈夫ですのに……」
「だったら、何でそんな顔してる」
「……顔、ですか?」
「元気ねー顔」
リィナの頬をむにっと摘んでそう言ったフェリクスに、リィナが僅かに目を瞠る。
「飯が出来たら呼びに来るから、もう少し休んでろ」
リィナの背に腕を回して横にならせようとするフェリクスに、リィナは首を振る。
「違うんです。本当に身体はもう大丈夫で───もし、顔に出ているのでしたら、違う理由ですわ」
言いながら、リィナはぎゅっとフェリクスに抱き着く。
「フェリクス様……私、誓約式までに鍛え直しておきますわ」
「はぁ?これ以上鍛えんなっつっただろ」
「でもフェリクス様の──ヴァルデマン伯爵の妻になるのですもの。こちらに来てからは、ラーシュ君と一緒で構いませんから私にも稽古をつけて下さい」
ぴくりと、フェリクスの眉間に皺が寄る。
「私、フェリクス様が安心して家を任せられるような妻になりたいんです」
「だからって、リィナが剣を覚える必要なんてない」
「でも戦えるようになれば──フェリクス様のご心配は、少しくらいは減りますでしょう?何かあった時に、せめて時間稼ぎが出来るくらいには、なりたいのです」
「────聞いたんだな」
リィナがこくんと頷くと、フェリクスがちっと舌打ちを落として「アリスのやつ」と呟いたので、リィナは慌ててフェリクスから身体を離す。
「アリス様は悪くありませんわ。ラーシュ君と話している時に少し気になってしまって……ですから、教えて下さったのです」
「ラーシュのせいか。あのクソガキ」
「ラーシュ君を怒らないでください。フェリクス様みたいに強くなりたいんだって、言ってたんですよ」
お願いしますと、渋面をつくっているフェリクスに上目遣いで頼めば、フェリクスは溜息を落としてリィナの頬に唇を寄せる。
「私、全然知らなくて……このお屋敷で、そんな事があったなんて……」
「伏せたからな」
フェリクスが呟くように落とした一言に、リィナはぎゅうっと、さっきよりも力を込めてフェリクスに抱き着いた。
リィナの腕ではフェリクスの大きな身体を包み込む事なんて出来はしないのに、必死に腕を伸ばしているリィナの背に、フェリクスもまた腕を回す。
「奴らも諦め始めたのか、最近では静かなもんだ」
フェリクスの手が、ゆったりとリィナの髪を撫でる。
「リシャールとアリスもうるせーしな──だから、リィナ達が来るまでにこっちの使用人も警備も、整えておく」
フェリクスはリィナを抱き上げるとベッドに腰かけて、そして自身の膝の上にリィナを乗せた。
「それに加えてリィナの側にあの侍女達が付いてるなら、リィナは剣を握る必要なんてないだろう?」
「でも……」
「何度も言わせんな。あんまり筋肉つけたら、俺の楽しみが減る」
するりとリィナの胸を撫でる様に手を滑らせて、フェリクスはリィナの唇を塞ぐ。
「──っん」
そのまま服の上からくるくると胸の頂を撫でられて、リィナの身体が小さく震えた。
「フェリクスさま……」
吐息を零したリィナの頭を強く引き寄せると、唇を合わせて、舌を絡める。
「ふっ……ぅん……」
まだ息継ぎが上手くできないリィナは、縋りつく様にフェリクスの背中に腕を回した──
「お戻りになったようですね」
窓辺に寄って確認したクラーラが頷いたのを見て、リィナは慌てて部屋を出る。
一応歩けるようにはなったけれど、残念ながらまだそこまでの歩行速度が出せないリィナの後ろを、アンネ達3人は不測の事態に備えて普段よりも若干距離を詰めてついて行く。
リィナが階段を下りている途中で2階の奥の部屋からアリスが出て来て、そしてリィナの姿を認めて慌てたように駆け寄って来る。
「リィナ様、ご無理はなさらずに」
「もう大丈夫ですわ。それに、あの、お出迎えを、したくて……」
頬を染めてはにかんだように微笑むリィナに、アリスがむぐっと片手で口元を覆って何かをやり過ごしてから、ふーっと息を吐く。
そしてリィナの隣までやって来て、手を差し出した。
「では、どうぞおつかまり下さい。もしリィナ様が足を滑らせでもしたら大事ですから」
「もう大丈夫ですのに……でも、ありがとうございます」
リィナが微笑んでアリスの手にそっと自分の手を重ねて階段を下り始めたところで、玄関のドアが開いてフェリクスとリシャールが入って来た。
「フェリクス様!」
ぱっと弾んだリィナの声に、フェリクスが顔を上げる。
そしてリィナの姿を見て一瞬眉を寄せたかと思ったら、ものすごい勢いで階段を駆け上って来て、その勢いのままにリィナを抱き上げる。
「きゃあっ!?」
階段の途中で抱き上げられて視界がぐんっと高くなったリィナは、思わずぎゅうっとフェリクスの首に抱き着いた。
知りたくはなかった事ではあるけれど、下りる方を向いた状態で視界が高くなるのは中々の恐怖だ、という事を、リィナはこの時初めて知った。
「ふぇ……フェリクス様……??」
「もう大丈夫なのか?」
不機嫌そうな声音で問われて、そろそろと身体を起こしたリィナの目に飛び込んできたのは、声音以上に不機嫌そうなフェリクスの顔。
リィナは苦笑しながらフェリクスの首に回していた腕をゆっくり解くと、フェリクスの眉間に指を伸ばす。
「そんなに心配なさらないで下さい。身体はもう大丈夫ですわ」
フェリクスの視線がリィナの背後に移って、どうやらその視線の先にいるらしいアンネが「まぁ一応は」と答えた。
「一応じゃダメだろーが」
「もうっ!信用してください」
抗議の意味を込めて強めにフェリクスの眉間の皺をぐにぐにと伸ばすリィナの手を、フェリクスが掴む。
「信用できるか──おい、リシャール。手紙の確認だけしておいてくれ」
いつの間にか階段を下りていたアリスに上着を預けていたリシャールが「畏まりました」とニヤニヤしながら答えたのを聞いて、フェリクスはそのまま階段を上がるとリィナが使っている客室へと向かう。
そして部屋に入ってそのままベッドへ直行すると、リィナをベッドに下ろした。
「本当にもう大丈夫ですのに……」
「だったら、何でそんな顔してる」
「……顔、ですか?」
「元気ねー顔」
リィナの頬をむにっと摘んでそう言ったフェリクスに、リィナが僅かに目を瞠る。
「飯が出来たら呼びに来るから、もう少し休んでろ」
リィナの背に腕を回して横にならせようとするフェリクスに、リィナは首を振る。
「違うんです。本当に身体はもう大丈夫で───もし、顔に出ているのでしたら、違う理由ですわ」
言いながら、リィナはぎゅっとフェリクスに抱き着く。
「フェリクス様……私、誓約式までに鍛え直しておきますわ」
「はぁ?これ以上鍛えんなっつっただろ」
「でもフェリクス様の──ヴァルデマン伯爵の妻になるのですもの。こちらに来てからは、ラーシュ君と一緒で構いませんから私にも稽古をつけて下さい」
ぴくりと、フェリクスの眉間に皺が寄る。
「私、フェリクス様が安心して家を任せられるような妻になりたいんです」
「だからって、リィナが剣を覚える必要なんてない」
「でも戦えるようになれば──フェリクス様のご心配は、少しくらいは減りますでしょう?何かあった時に、せめて時間稼ぎが出来るくらいには、なりたいのです」
「────聞いたんだな」
リィナがこくんと頷くと、フェリクスがちっと舌打ちを落として「アリスのやつ」と呟いたので、リィナは慌ててフェリクスから身体を離す。
「アリス様は悪くありませんわ。ラーシュ君と話している時に少し気になってしまって……ですから、教えて下さったのです」
「ラーシュのせいか。あのクソガキ」
「ラーシュ君を怒らないでください。フェリクス様みたいに強くなりたいんだって、言ってたんですよ」
お願いしますと、渋面をつくっているフェリクスに上目遣いで頼めば、フェリクスは溜息を落としてリィナの頬に唇を寄せる。
「私、全然知らなくて……このお屋敷で、そんな事があったなんて……」
「伏せたからな」
フェリクスが呟くように落とした一言に、リィナはぎゅうっと、さっきよりも力を込めてフェリクスに抱き着いた。
リィナの腕ではフェリクスの大きな身体を包み込む事なんて出来はしないのに、必死に腕を伸ばしているリィナの背に、フェリクスもまた腕を回す。
「奴らも諦め始めたのか、最近では静かなもんだ」
フェリクスの手が、ゆったりとリィナの髪を撫でる。
「リシャールとアリスもうるせーしな──だから、リィナ達が来るまでにこっちの使用人も警備も、整えておく」
フェリクスはリィナを抱き上げるとベッドに腰かけて、そして自身の膝の上にリィナを乗せた。
「それに加えてリィナの側にあの侍女達が付いてるなら、リィナは剣を握る必要なんてないだろう?」
「でも……」
「何度も言わせんな。あんまり筋肉つけたら、俺の楽しみが減る」
するりとリィナの胸を撫でる様に手を滑らせて、フェリクスはリィナの唇を塞ぐ。
「──っん」
そのまま服の上からくるくると胸の頂を撫でられて、リィナの身体が小さく震えた。
「フェリクスさま……」
吐息を零したリィナの頭を強く引き寄せると、唇を合わせて、舌を絡める。
「ふっ……ぅん……」
まだ息継ぎが上手くできないリィナは、縋りつく様にフェリクスの背中に腕を回した──
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