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本編
19. 小さな乱入者
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アリスが部屋を出て行って、程なくしてワゴンで昼食が運ばれて来た。
「ベティ、クラーラ!」
ワゴンを押して来たのは、リィナ付きの侍女のベティとクラーラだった。
「はい、お嬢様。こちらのお屋敷の案内などをして頂いておりましたので、遅くなってしまって申し訳ありません」
「良いのよ、嬉しいわ。 あの……ベティもクラーラも、付いてきてくれるって聞いたのだけど……」
「勿論です。お嬢様の為ならば、どこへなりともお供させて頂きますわ!」
「アンネとベティだけではお嬢様熱が暴走してしまって暑苦しいでしょうから、私もご一緒させて頂きます」
クラーラの言い様に、リィナが可笑しそうに笑う。
「ふふ、3人とも来てくれるなんて嬉しいわ。よろしくね──と言っても、今回はすぐに帰らないといけないのだけれど……。誓約式までは実家にいろ、ですって……」
しょぼーんと肩を落としたリィナに、ベティは「お嬢様が居たいとおっしゃっているのに帰らせるなんて」と唇を尖らせて、クラーラは「『野獣伯爵』が常識人で安心しました」と満足気に頷いた。
ベティとクラーラの手によってテーブルに昼食の準備が整えられて、リィナはアンネに手を貸して貰いながらベッドからテーブルへと移動をする。
リィナの食欲がなかった時の事も考慮されたのか、昼食は食べやすいように薄く切られたパンに色々な具が挟まれたサンドイッチだった。
リィナがゆっくりと椅子に腰かけたところで、廊下をバタバタと走る足音が聞こえて来て、リィナ達は何の騒ぎかしらと首を傾げる。
「フェリクスによめができたって本当か!?」
「およめさん~~!」
「こらっ、ラーシュ!!ルチア!!!」
そんな3人分の声と共に、ばーーんっと部屋のドアが勢いよく開いた。
❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊
「本当に申し訳ない……!」
「アリス様、私は本当に全然全く気にしておりませんから……」
リィナは膝をついて深々と頭を下げているアリスと、アリスの鉄拳を喰らって撃沈している男の子を交互に見ながら困り果てていた。
「そうだわ。折角ですから皆で一緒にお昼を食べましょう?」
「おひる、たべるっ!」
リィナの言葉に、アリスの背中にまとわりついていた小さな女の子がわぁいと万歳をする。
「ですが……騒がしくなってしまいますし」
「私にも弟と妹がいますから、騒がしいのは慣れていますわ。ね、ですからどうぞ、座って下さいませ」
リィナの言葉に、アリスがもう一度頭を下げて、ついでに男の子の頭をぺしんっと叩いてから立ち上がる。
「ルチアちゃん?は、いくつ?」
「んっと……さんさい!」
アリスの後ろにいた女の子に声をかけると、不器用に指を3本立ててから答えてくれた。
まだ小さかった頃の妹の姿を思い出して、リィナが微笑みながらこっちに来る?とルチアに手を伸ばすと、ルチアはうん!とリィナに駆け寄って来た。
2人の子供はリシャールとアリスの子で、兄のラーシュが6歳、妹のルチアが3歳になるそうだ。
離れの自宅で使用人に世話を任せていたのだけれど、リィナからの昼食の誘いの直後にぐずったルチアがこちらにやって来てしまったらしい。
「お客様が来ているから」と帰らせようとしたけれど、ラーシュから「今日はフェリクスがいないのに客って誰だよー」と言われて、「フェリクスのお嫁さんになる人だ」と答えてしまったのだそうだ。
そうしてそれを聞いたラーシュが、好奇心のままに客室に駆け込んできてしまったらしい。
「あんたフェリクスのよめになりたいなんてモノズキだな!」
はぐはぐとサンドイッチを頬張りながら、ラーシュがそんな事を言う。
「フェリクスはでかくてごつくてらんぼーものだから、普通のごれーじょーはフェリクスの事がコワいんだろう?」
ラーシュの言い方に、リィナは隣に座っているルチアの為に自らサンドイッチを小さく切ってあげながらクスクスと笑う。
「そうですね。普通の令嬢は、フェリクス様がこわいみたいです。でも私はフェリクス様は強くて格好良くて素敵な方だと思っているので、ちっとも怖いなんて思わないんですよ。フェリクス様の事がとっても好きなので『お嫁さんにして下さい』って、お願いしに来たんです」
リィナの答えに、ラーシュがぱっと顔を輝かせる。
「おまえハナシのわかるヤツだな!フェリクスは強くてかっこいーんだぜ!オレもフェリクスみたいになりたくて、剣のケイコをつけてもらってるんだ!」
「まぁ、もう剣のお稽古を?ラーシュ君は大人になったら騎士様になるのですか?」
「騎士にもなりたいけど、"ぼーかん"が来ても母さんとルチアをまもれる男になるんだ!」
胸を張ったラーシュに、リィナはサンドイッチをルチアに渡してあげながら首を傾げる。
「ぼーかん……暴漢?ですか?」
「ラーシュ!」
アリスが慌てたようにラーシュの名を呼んだけれど、ラーシュは気にせず話し続ける。
「オレがフェリクスみたいに強くなれば、フェリクスがいない時に屋敷がおそわれてもぼーかんをやっつけられるだろう?そうすればフェリクスは安心して使用人をやとえて、父さんの仕事もラクになるはずだ!」
子供が語るには何だか話が具体的な気がして、リィナは更に首を傾げる。
「──このお屋敷で、何かあったのですか?」
「ラーシュ。おしゃべりばかりしてないで、食べなさい」
アリスに少しきつい口調で言われて、ラーシュは慌ててサンドイッチを頬張り始める。
「リィナ様、後ほど」
アリスに短く告げられて、リィナは小さく頷いた。
「ベティ、クラーラ!」
ワゴンを押して来たのは、リィナ付きの侍女のベティとクラーラだった。
「はい、お嬢様。こちらのお屋敷の案内などをして頂いておりましたので、遅くなってしまって申し訳ありません」
「良いのよ、嬉しいわ。 あの……ベティもクラーラも、付いてきてくれるって聞いたのだけど……」
「勿論です。お嬢様の為ならば、どこへなりともお供させて頂きますわ!」
「アンネとベティだけではお嬢様熱が暴走してしまって暑苦しいでしょうから、私もご一緒させて頂きます」
クラーラの言い様に、リィナが可笑しそうに笑う。
「ふふ、3人とも来てくれるなんて嬉しいわ。よろしくね──と言っても、今回はすぐに帰らないといけないのだけれど……。誓約式までは実家にいろ、ですって……」
しょぼーんと肩を落としたリィナに、ベティは「お嬢様が居たいとおっしゃっているのに帰らせるなんて」と唇を尖らせて、クラーラは「『野獣伯爵』が常識人で安心しました」と満足気に頷いた。
ベティとクラーラの手によってテーブルに昼食の準備が整えられて、リィナはアンネに手を貸して貰いながらベッドからテーブルへと移動をする。
リィナの食欲がなかった時の事も考慮されたのか、昼食は食べやすいように薄く切られたパンに色々な具が挟まれたサンドイッチだった。
リィナがゆっくりと椅子に腰かけたところで、廊下をバタバタと走る足音が聞こえて来て、リィナ達は何の騒ぎかしらと首を傾げる。
「フェリクスによめができたって本当か!?」
「およめさん~~!」
「こらっ、ラーシュ!!ルチア!!!」
そんな3人分の声と共に、ばーーんっと部屋のドアが勢いよく開いた。
❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊
「本当に申し訳ない……!」
「アリス様、私は本当に全然全く気にしておりませんから……」
リィナは膝をついて深々と頭を下げているアリスと、アリスの鉄拳を喰らって撃沈している男の子を交互に見ながら困り果てていた。
「そうだわ。折角ですから皆で一緒にお昼を食べましょう?」
「おひる、たべるっ!」
リィナの言葉に、アリスの背中にまとわりついていた小さな女の子がわぁいと万歳をする。
「ですが……騒がしくなってしまいますし」
「私にも弟と妹がいますから、騒がしいのは慣れていますわ。ね、ですからどうぞ、座って下さいませ」
リィナの言葉に、アリスがもう一度頭を下げて、ついでに男の子の頭をぺしんっと叩いてから立ち上がる。
「ルチアちゃん?は、いくつ?」
「んっと……さんさい!」
アリスの後ろにいた女の子に声をかけると、不器用に指を3本立ててから答えてくれた。
まだ小さかった頃の妹の姿を思い出して、リィナが微笑みながらこっちに来る?とルチアに手を伸ばすと、ルチアはうん!とリィナに駆け寄って来た。
2人の子供はリシャールとアリスの子で、兄のラーシュが6歳、妹のルチアが3歳になるそうだ。
離れの自宅で使用人に世話を任せていたのだけれど、リィナからの昼食の誘いの直後にぐずったルチアがこちらにやって来てしまったらしい。
「お客様が来ているから」と帰らせようとしたけれど、ラーシュから「今日はフェリクスがいないのに客って誰だよー」と言われて、「フェリクスのお嫁さんになる人だ」と答えてしまったのだそうだ。
そうしてそれを聞いたラーシュが、好奇心のままに客室に駆け込んできてしまったらしい。
「あんたフェリクスのよめになりたいなんてモノズキだな!」
はぐはぐとサンドイッチを頬張りながら、ラーシュがそんな事を言う。
「フェリクスはでかくてごつくてらんぼーものだから、普通のごれーじょーはフェリクスの事がコワいんだろう?」
ラーシュの言い方に、リィナは隣に座っているルチアの為に自らサンドイッチを小さく切ってあげながらクスクスと笑う。
「そうですね。普通の令嬢は、フェリクス様がこわいみたいです。でも私はフェリクス様は強くて格好良くて素敵な方だと思っているので、ちっとも怖いなんて思わないんですよ。フェリクス様の事がとっても好きなので『お嫁さんにして下さい』って、お願いしに来たんです」
リィナの答えに、ラーシュがぱっと顔を輝かせる。
「おまえハナシのわかるヤツだな!フェリクスは強くてかっこいーんだぜ!オレもフェリクスみたいになりたくて、剣のケイコをつけてもらってるんだ!」
「まぁ、もう剣のお稽古を?ラーシュ君は大人になったら騎士様になるのですか?」
「騎士にもなりたいけど、"ぼーかん"が来ても母さんとルチアをまもれる男になるんだ!」
胸を張ったラーシュに、リィナはサンドイッチをルチアに渡してあげながら首を傾げる。
「ぼーかん……暴漢?ですか?」
「ラーシュ!」
アリスが慌てたようにラーシュの名を呼んだけれど、ラーシュは気にせず話し続ける。
「オレがフェリクスみたいに強くなれば、フェリクスがいない時に屋敷がおそわれてもぼーかんをやっつけられるだろう?そうすればフェリクスは安心して使用人をやとえて、父さんの仕事もラクになるはずだ!」
子供が語るには何だか話が具体的な気がして、リィナは更に首を傾げる。
「──このお屋敷で、何かあったのですか?」
「ラーシュ。おしゃべりばかりしてないで、食べなさい」
アリスに少しきつい口調で言われて、ラーシュは慌ててサンドイッチを頬張り始める。
「リィナ様、後ほど」
アリスに短く告げられて、リィナは小さく頷いた。
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