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09. 一度だけ、呼んで

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 私が頷いたのを確認されたらしいルドヴィク様は、中から指を抜くと私の腰で結われている細い紐を解いた。
 身を覆っていた最後の一枚がはらりと落ちて、私の身体が全てルドヴィク様に晒される。

「エミーリア」

 名を呼ばれて、口付けられて、そしてルドヴィク様の指が再び私の中へと沈んだ。

「痛みは?」

 短な問いに、首を振る。
 二本、三本と指を増やされても、あまり痛みはなかった。
 ゆっくりだった指の動きが少しずつ早められて、水音もぐちゅぐちゅと激しさを増す。

「あ、あぁっ……あんっ、あっ」

 中を擦られて掻くように刺激されて、それだけでもうおかしくなりそうなのに、ルドヴィク様の指があわいの少し上を撫でた瞬間――

「ひぁっ!?」

 びくんっと身体が跳ね上がる。

「あ……? や、なに……っ」

 何が起きたのか分からなくて、けれどルドヴィク様はうっそりと目を細めると、またそこを撫で始める。

「ひっ、あ、や……やっ、ルドヴィクさ、まっ……それ、やぁっ! あ、あ……っ!」

 中を掻き混ぜる指の動きが早くなって、あわいの上を弄る指も動きを変えた。
 撫でていただけの動きが擦るようになって、時折弾くようにされて、そしてきゅっと抓まれる。

「あ――……っ!!」

 途端にびくりと大きく身体が跳ねて、頭が真っ白になった。
 何が起きたのか分からずに、けれど小さく痙攣してしまっている身体に、私はただ息を乱れさせて呆然としてしまう。

「エミーリア」

 ルドヴィク様に抱き締められて、口付けられる。

「挿れるぞ」

 はい、と返した声は、けれど掠れて音にはならなかった。
 くたりと弛緩していた足を開かされて、あわいに熱くて硬いものが押し付けられて――そしてぐっと、押し入って来る。

「――っ!」

 指とのあまりの違いに、息が詰まった。

「やはり、まだ狭いな」

 ルドヴィク様もお辛そうなお顔をなさって、そして小刻みに身体を揺すられる。

「あ、んっ……んっ」

 少しずつ、少しずつ。けれど確実に奥へと進むルドヴィク様を必死に受け入れて。

「あぁっ!」

 そうしてずんっと一番奥を叩かれた。

「――大丈夫か」

 あまりの圧迫感に、はっはっと息を継いでいた私の、いつの間にかきつく枕を握りしめていた手を解かれて指を絡められる。
 圧迫感に苦しくはあるけれど、痛みとは違って。
 だから私は絡められている指にきゅっと力を込める。

「はい……ルドヴィク様……」

 ルドヴィク様はほっとなさったようなお顔をなさって、そして私の肩口に顔を埋めた。

「いなく、なるなよ」
「……え?」

 小さな小さな呟きの意味を理解する前に、ルドヴィク様は一度私の瞼に口付けると、動くぞ、と掠れた声で仰った。
 そして少しだけ腰を引かれて、すぐにとんと奥を叩かれる。
 とん、とん、と何度か繰り返されて、そして徐々に動きが大きくなっていく。

「あ、あ……ルド……ルドヴィクさま……っ」
「エミーリア」

 ぐちゅ、ぬぷ、と響く水音に、ぱちゅっと身体がぶつかる音が重なり始める。
 指を絡めたままきつく手を握って、ルドヴィク様が私の名を呼ぶ。
 どこか必死な様子のルドヴィク様に、私はやっと、先程の呟きの意味を理解した。

「ルドヴィクさま……私、どこにも、いきません……ずっと……ずっと、おそば、に……っ」
「エミーリア……っ」
「ルドヴィク、さま、ル、ド……ぁ、あん……っ!」
  
 水音が、身体がぶつかる音が、どんどん激しくなって、それに合わせて呼吸が甘く、漏れる声は高くなっていく。

「エミーリア……エミーリアっ」

 苦しいほどの気持ち良さに蕩けかける意識の片隅が、けれど名を呼ばれる度に冷えていく。
 悲しみとは少し違う。
 切ない、とかやるせない、とか……心の奥からじわじわと溢れてくるのは、そういった感情。

 その時ぱちっと頭の中で光が弾けるような感じがして、私は理解した。
 あぁ、これがえみりの「お願い」なのね、と。
 それならば、きっと言わなくては――

「ルドヴィクさま……っま、て……っ」

 絡められている指にぎゅっと力を込めながら必死で見上げると、ルドヴィク様ははっと動きを止めた。

「すまない、辛いか」
「いいえ……いいえ、そうではなくて……。一つだけ、お願いが、ございます……」

 乱れた息を落ち着かせるようにこくりと唾を飲み込んで、ルドヴィク様を見上げる。

「何だ?」

 眦に、頬に、寄せられるルドヴィク様の唇に酔いそうになりながら、私は深く息を吸った。

「一度だけで、構いません……「えみり」と、呼んで下さいませんか」

 私のその「願い」に、ルドヴィク様がはっと目を瞠った。

「……そうか。呼んで、いなかったな」

 そう呟いて、少し考える素振りの後、ルドヴィク様は絡めていた指を解くと私の身体を抱き寄せた。

「エミリ」

 首筋に顔を埋めるようにして囁かれたその名に、途端に全身を痺れるような喜びが駆け抜けて、お腹の奥がきゅんっと反応する。

「っ!」

 ルドヴィク様が小さく呻いて、同時に抱き締められていた腕にも力が籠る。

「そんなに、締め付けるな」
「ぇ、あ……もうしわけ……きゃっ!?」

 申し訳ありません、と言い切る前に、強くルドヴィク様に突き上げられた。
 突然の刺激に、ちかちかと星が舞ったような気がして、息も詰まる。

「ル、ド……」
「エミリ」
「ぁっ」

 また、きゅんっと反応して。
 突き上げられて、「エミリ」と呼ばれて、反応して――
 何度か繰り返したルドヴィク様ははっと可笑しそうに、けれど苦しそうに顔を歪めて、笑った。
 そうして次の瞬間、激しく腰を打ち付けられる。

「あぁっ!? あっ、やっ……あっ、あんっ!」

 今までよりもずっと激しい動きに、苦しいほどの快楽に、頭が真っ白になって、ただ喘ぐ。

 「そんなに、嬉しいか、エミリ」

 囁かれて、抱き締められて突き上げられて――ぱちぱちと、光が躍る。

「ん……うん……うれし、の……ルドヴィク……すき、だいすき、す、き……っ!」
「エミリ……っ」

 強く抱き込まれて、また突き上げられる。
 ぱちぱち、踊る光が、強くなった気がして。

「ひぁ、あぁ! ルドっ……ルドヴィクさま……っ!」
「っエミーリア……」

 ぐぅっとルドヴィク様の腕に力が籠って、そして一層激しく突き上げられる。
 
「あ――……っ!!」

 どぷりとお腹の中に放たれたルドヴィク様の熱と共に、ぱちん、ぱちんと小さな光が弾けて。
 そしてその光がふんわりと溶けてなくなるような感覚を覚えながら、私はゆっくりと目を閉じた――


○o。. .。o○


「エミィ、というのはどうだ?」
「……え?」

 乱れた息がようやく整った頃、私の髪を撫でながら黙り込んでいたルドヴィク様が唐突にそうおっしゃった。

「エミーリアとエミリを、交互に呼ぶというのも考えたが……途中で訳が分からなくなりそうだ」

 真面目な顔をしておっしゃるルドヴィク様を見上げると、嫌か? と問われる。

「え、と……?」

 まだぼんやりとして回り切っていない頭ではルドヴィク様のおっしゃる意味が上手く捉えられずに、小さく首を傾げる。

「『エミィ』なら、二人同時に呼べるのではないか、と思ったんだが」
「――二人、同時に?」

 ぱちぱちと瞬いていると、ルドヴィク様は僅かに顔を顰めて「忘れろ」とおっしゃったかと思ったら、頭を抱き込まれてしまった。

「エミーリアと、えみりを、同時に……」
 
 私はそこでようやく、ルドヴィク様のおっしゃっている意味が分かった。
 さわさわと嬉しさが込み上げて来て、顔を上げる。

「い、いえ……っいいえ、嬉しいです。どうか、そのまま……っ」

 呼んで下さい、とお願いしようとした声が、唇で閉じ込められる。

「エミィ」

 囁くように呼ばれて、額に、眦に、口付けられる。

「エミィ」
「……はい」

 慣れない呼び掛けに、けれど泣きたくなるような喜びや、くすぐったいような嬉しさが湧き上がってきて、ふふ、と声を出して笑うと、今度は鼻の頭に口付けられて、手の平で両頬を包み込まれる。

「ルドヴィク様、ありがとうございます」

 微笑むと、ルドヴィク様もちらりと笑みを見せて、そしてゆっくりと口付け――の直前で、ルドヴィク様がふと動きを止めた。

「エミィも、何か」
「?」
「俺だけ『ルドヴィク様』のままなのは、不公平だろう」
「え? えぇ……?」

 不公平? ルドヴィク様はお一人なのに? いえ、私も一人ではあるのだけれど――
 という言葉は、じぃっと見つめて来るルドヴィク様の視線の熱さに、音には出来なかった。 

「え、えぇと……ルドヴィク様……ですから、ルド様……?」

 うーん、と悩んでいると、ぽっと一つ浮かんだ。

「では、『エミィ』と合わせて、『ルディ様』はどうでしょうか」

 そう言った途端に「ばかっぷる」という言葉が思い浮かんだけれど、それって何だったかしら、と考えている間にルドヴィク様が決まりだな、と嬉しそうなお顔をなさったので、疑問はどこかに行ってしまった。

「だが、『様』はなしだ」
「え、ですが……」

 それはさすがに、という反論は口付けで閉じ込められてしまった。

「――エミィ」
「ん……ルドヴィ……ルディさ……っ」

 様、と言う前にまた塞がれて、私が恨めしそうにルドヴィク様を見上げると、ルドヴィク様はまた「エミィ」と囁く。

「……ル……ルディ……」

 何とかその愛称を返すと、満足そうなお顔をされたルドヴィク様――ルディ、に、ころんと仰向けにされて圧し掛かられた。
 私がえ? と見上げたのと同時に、いつの間にかまたお元気になられていたルドヴィク様がずぷ、と挿入って来て悲鳴を上げる。

「や、あの……ルドヴィク様っ?」
「違うだろう、エミィ」
「あ、や……っル、ディ……っ!」

 待って、は聞いて貰えるはずもなく、慣れるまで特訓だ、とよく分からない事をおっしゃったルドヴィクさ――ルディに、私はこの日、何度も何度もその愛称を呼ばれて、もう呼び間違える事なんて出来ないくらいに呼ばされて、そしてそれ以上に喘がされた。


 その翌日から、私はルディの寝室で眠るようになった。
 身体を重ねる日もあれば、ただ抱き合って眠るだけの日や、ルディが遅くなる日は先に一人で休んで、翌朝ルディの腕の中で目を覚ます日もある。
 
 グレンダールについて学ぶ私の為、と言いながら、ルディは私を視察に同行させる事も多くて、
 そして「エミィ」「ルディ」と呼び合う私たちが、各所で随分と生暖かく見られているのだと知ったのは、随分後になってから――
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