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68章

元魔王様と結晶石泥棒 2

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 ジル達一向は結晶石が取れる鉱山へとやってきた。
目当ての大結晶石は鉱山の中でも深い場所から採掘されたらしいので、到着して直ぐに降っていく。

「それにしてもお嬢が付いてきたがるとはな。」

 ダナンと大結晶石の話しをしていたら突然自分も付いて行きたいと言ってきた。
危険だからと従者達は引き留めていたが、Sランク冒険者を軽々と圧倒するジルの近く以上に安全な場所は無いだろうと言う公爵の言葉で説得されていた。

 なのでゾロゾロと公爵家の者を引き連れて来なくて済んだが、リュシエルに加えてアンレローゼたげは身の回りの世話役として同行している。
多少は戦闘経験もあるらしいのでリュシエルの護衛も兼ねているのだろう。

「毎日ジルに鍛えられているのですから、実戦も経験してみたいと思ったのです。」

 屋敷の敷地内だけでの訓練には限界がある。
そろそろ魔物とも戦いたかった。

「対人と対魔物は違うからな。比較的安全な魔物は譲ってやろう。」

 魔物との戦闘も訓練になるので危険な魔物以外は任せてみるつもりだ。

「それと鉱山に入った事もありませんでしたからこの機会にと思いまして。採掘の邪魔はしませんから。」

「貴族令嬢が見て楽しめるかは分からないが、暇な時にでもぼんやり眺めてるといい。」

「はい、そうさせてもらいますね。」

 採掘風景を見て楽しいと思えるかは分からないが、ずっと屋敷にこもりきりだったリュシエルからすれば全てが新鮮で楽しいのかもしれない。

「まあ、お前が側にいてくれるならお嬢は安全だろう。頼りにしているぞライム。」

 リュシエルの肩に乗るシキの従魔、ライムに話し掛けると任せろとでも言う様にプルプルと揺れている。
主人であるシキは久々に訪れたシャルルメルト周辺の情報更新に忙しいらしく別行動中だ。

「ここから更に下に降りる。」

「鉱山の中の渓谷ですか。」

 ダナンが覗き込んでいるので続けてジルやリュシエルも覗き込む。
鉱山を一番下まで降ってくると、そこには渓谷があって更に深い場所が見える。
まだ渓谷の下まで続く通路は掘られていない。

「今はここから渓谷の下に安全に降りられる様に鉱石採掘がてら階段を掘っているらしい。」

 採掘途中の通路を指差しながら言う。
一度採掘した結晶石を鉱山の外に持ち出しているのか人は見当たらない。

「渓谷の下にはまだ誰も行っていないと言う事か?」

「鉱石を運搬する事を考えると崖を降りても意味無いからな。」

 安全に行き来出来たり鉱石を運んだりする為の通路作りをする必要がある。
本格的な採掘はそれが完成してからだ。

「ならば一番乗りといくか。ウエイトフィールド!」

「ひゃっ!」

「これは重力魔法!」

「ジル、お前火魔法以外も使えたのか。」

 ジルが他の皆を重力魔法を使用して空中に浮かせて、渓谷をゆっくりと降りていく。
突然の事に皆が驚いており、ダナンは火魔法以外の魔法を使えたのかと更に驚いている。

「ここだけの話しにしてくれよ。取り引きを重ねて信用出来ると判断して教えたのだ。」

 ダナンとはそれなりに付き合ってきたが信用出来る人物だと判断した。
魔法に関してもわざわざ広めたりしないだろう。

「今更お前に不利益を与える様な事はしない。それよりもお前の強さにまだまだ先があったとはな。」

 感心する様な目で見てくる。
火魔法だけしか使えないジルであってもかなり規格外な存在だったのに、他にも魔法を使えるとは想像以上だ。
一体どれだけ強いのかダナンには想像も付かない。

「魔法は便利だが派手に使い過ぎると目を付けられると聞いて制限していたのだ。」

「それで火魔法か。」

 ダナンが納得した様に頷く。
使える者の多い基礎魔法なので変に目立つ事は少ない。
と言っても魔力量の多いジルが使用すると初級魔法から威力が違い過ぎるので結局目立ってはいた。

「ダナン殿には話していなかったのですか?」

「我から言う事はあまり無いな。知っているのも一部の冒険者や貴族のみだ。」

 暫く絡んで大丈夫だろうと思った者には打ち明けている。
様々な魔法が使えると知れ渡って変に目を付けられたくは無い。

「ジルは火魔法しか使っていなくても目立つからな。ある程度の自重はした方がいいだろう。」

「ですが普段暮らしているセダン領からは離れています。シャルルメルトなら多少は問題無いでしょう。」

「そうですね、領主とも繋がりがあるのですから多少の情報管理は出来ますし。」

 それなりに領地同士は離れているのでこちらで有名になってもそこまでセダンでは影響が無いだろうと二人は言う。
それでも気を付けるに越した事は無いだろう。

「人前であまり使う予定は無いけどな。ほら到着したぞ。」

 重力魔法を使ってゆっくりと着地させる。
誰も採掘していない渓谷の下へ到着だ。

「お嬢様、お気を付け下さい。周りを囲まれています。」

「スケルトンの大群ですね。」

 着地したジル達を取り囲む様に大量のスケルトンが戦闘態勢を取っていた。
採掘がされていないと言う事は魔物も一切討伐されていないと言う事だ。

「ジル、どうする?一度上に戻って体制を立て直すか?」

「骨如きにいらん心配だ。ライム、やってしまえ。」

 ジルが指示すると渓谷内に幾度も風切り音が鳴り、その直後に全てのスケルトンが骨の山と化していた。
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