【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん

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67章

元魔王様とリュシエルに迫る魔の手 12

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 ブリオル達が冥府へと旅立たされた翌日、アンレローゼの淹れてくれた紅茶でティータイムをしているとリュシエルが起きてきた。

「おはよう御座います。」

「随分と遅いおはようだな。我よりも寝ているとは。」

「お嬢様、おはよう御座います。」

 いつもならジルよりも随分と早く起きて身支度を整えている。
こんなに遅く起きたのは初めて見た。

「い、色々と考えていたのです。アンレローゼ、私にも頂けますか?」

「はい、お待ち下さい。」

 席に着くと直ぐにアンレローゼが紅茶を用意してくれたので、リュシエルがそれを飲んで一息吐く。

「気持ちの整理はついたのか?」

 昨日はブリオル達との一件があった。
リュシエルの事なので色々と考えた筈だ。

「罪悪感が全く無いと言えば嘘になります。ですが私の家族を殺そうとした方々ですから自業自得だとも思います。」

「あまい考えだ。敵意には敵意を、殺意には殺意を。こちらを殺そうとしてきたのだから殺しても文句を言われる筋合いは無い。」

 相手の身分なんて関係無い。
どう言う対応を取ってくるかでこちらの対応も変わる。
やられたからには徹底的にがジルのスタイルだ。

「冒険者らしい考え方ですね。」

「むしろ貴族の方がそう考える者が多いと思うけどな。」

「私はそこまで割り切れませんでした。私の持つスキルが元々皆さんに恐怖を与えているのは事実ですから。何をされても私が悪い、この前まではそう思って生きてきました。」

 魔誘のスキルのせいでリュシエルはすっかり自信を無くしてしまった。
全てを諦めて受け入れる様になってしまっていた。

「ですがジルと出会ってその考え方は捨てました。私も私の生きたい様に生きたい。伝えるのが遅くなってすみません。昨日は私を救ってもらって有り難う御座います。」

 リュシエルが立ち上がって深々と頭を下げてくる。
ジルのおかげで自分も公爵家も救われた。

「気にするな。我はやりたい様に動いただけだからな。」

「ふふっ、そうですか。私も後悔の無い様にこれからは生きます。自分がしたいと思った自由な行動を取っていきます。誰かから押し付けられる理不尽に負けない様に強くなります。」

 ジルの様に何にも捉われず生きてみたい。
ジルと出会ってからリュシエルはそう感じさせられるくらい強く影響されていた。
もうこれまでの自分とはお別れだ。

「窮屈な思いをしてきたのだから、それを取り返さなくてはな。」

「はい、だからこそジルに頼みがあります。私に訓練を付けて下さい。私にはまだまだ強さが必要です。このスキルと付き合っていく為の強さが。」

 自由を手に入れるには圧倒的に力が足りない。
どんな理不尽にも抗える強さが欲しい。
この凶悪なスキルすらも気にならない程の強さが。

「公爵達にも頼まれているし構わないのだが、いつまで続けられるかは分からないぞ?」

 明確な滞在期間は決まっていないがシャルルメルトにいつまでも常駐している訳では無い。
目的は達せられているので、その内セダンの街に帰る事になる。

「そう言えばジル達は結晶石の採掘の為にシャルルメルトを訪れたのでしたね。」

「それも既に終わっている。雇い主のダナンが知り合いの工房を借りているが、それも満足すればセダンに帰る事になるだろう。」

「そうですか、ではそれまでの間は宜しくお願いしますね。」

 時間は少なくてもジル以上の教官は滅多にお目に掛かれないだろう。
戦闘訓練を付けてもらうのは確実にリュシエルにとってプラスになる。

「仕方が無い、お嬢を少しでも戦える様に強くしてやるか。さすがに昨日のフラムの様な奴は無理だとしても、それ相応の相手と戦えるくらいにはな。」

 あんな化け物はそう簡単に襲ってこない。
普通の犯罪者を相手にするなら冒険者のBランククラスの力でもあれば一先ずは安心出来るだろう。
徹底的に訓練すれば短期間でもCランクやDランクはいけるかもしれないので、後はリュシエルの頑張り次第だ。

「元Sランク冒険者と戦える力が簡単に手に入れば苦労しませんよ。それにしても昨日のジルは凄かったですね。」

「他言するなよ?」

「それはお父様からも言われていますから大丈夫ですよ。あれ程の魔法を見たのは初めてです。とても綺麗でした。」

 ジルの扱った氷結魔法を思い出してリュシエルが呟く。
炎王フラムが使う凶悪な黒炎すらも凍らせる圧倒的な氷結魔法。
これ程の使い手は見た事も聞いた事も無いし、今後も現れないレベルなのだとはっきり理解させられた。

「綺麗とは珍しい感想だな。怖くはなかったのか?」

 その凶悪な威力に昔はよく怖がられたものだ。
配下の魔族ですらも巻き込まれたら恐ろしいと警戒していたくらいだ。

「私達を守ろうとしてくれたジルの力を怖がったりしませんよ。私は実際になんて強くて美しい力なのだろうかと感じましたからね。」

 こんな素晴らしい力をいつかは身に付けたいとリュシエルは心の底から思った。
そこには畏怖では無く純粋な羨望のみがあった。

「さあ、早速訓練を始めましょうか。時間は有限です。」

「そうだな。」

 カップを一気に煽って中身を飲み干し、リュシエルの背中を追って訓練へと向かった。
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