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67章

元魔王様とリュシエルに迫る魔の手 7

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 ジルの登場にフラムだけが警戒する様に構えている。

「ジル…。」

 リュシエルが何故出てきてしまったのかと言う視線を向けてくる。
ジルを巻き込みたくなかったのに巻き込んでしまった。

「なんだ貴様は!平民風情が誰に口を聞いているのか分かっているのか!」

 突然現れたジルに向かってブリオルが叫んでいる。

「口の聞き方ならばお前もだろう?目上の貴族に対して好き放題言っていたではないか。」

「これから殺す者に敬意を払って何になる!」

「ならばその言葉をそのまま返してやろう。これから死ぬお前達に敬意を払う必要は皆無だとな。」

 そもそも身分の差があっても敬意なんて払う訳も無い。
このブリオルと言う人族にそんな価値は無いのだ。

「無知な冒険者が!首を突っ込んだ事を後悔させてやる!貴様の様な雑魚が何人束になろうと勝てない圧倒的強者、Sランクの冒険者を前に泣き叫びながら焼き殺されるがいい!フラム、やってしまえ。」

 自分に逆らった者には容赦しない。
ジルも公爵家の者達と共に殺すつもりだ。

「そこの執事、ブリオルを連れて下がっていろ。巻き込まれたくなければな。」

「承知しました。」

 フラムの指示に従ってブリオルを後ろに離そうとする。
炎王と呼ばれる程の火力なので近くにいては巻き添えを受けてしまう。

「おいおい、特等席でゆっくりしていけよ。」

 ジルは断絶結界を展開して周囲を包む。
ブリオル達を逃げられない様に結界内に囲っておく。
公爵家の者達は戦いに巻き込まれない様に、囲ったのは自分と相手の四人だけだ。

「これは結界魔法か。貴様高位の冒険者だな?」

 結界魔法を見てより一層ジルに対する警戒を強める。
ブリオル達と違ってフラムはジルを雑魚などと判断していない。

「高位の冒険者?我はDランクだぞ?」

「戯言を。」

 得物の剣に黒炎を纏わせる。
凄まじい熱気が結界内に広がっていく。

「アイシクルエンチャント!」

 対抗する様にジルは銀月を氷結魔法で強化する。

「ジル様、いいのです?」

 氷結魔法を使用したのを見てシキが意思疎通で尋ねてくる。
大勢の前で火魔法以外を使用した事を言っているのだろう。

「火魔法で相手をするのは面倒だから構わん。公爵家に恩を売っているのだから公爵達も言いふらしたりはしないだろう。こいつらに関しては生かしておくつもりもないしな。」

 目撃者は三人消すつもりだ。
つまり公爵家の者達に口止め出来ればそれで解決だ。

「成る程なのです。ジル様、ファイトなのです。」

「ああ、結界外と言っても危ないからライムのところまで下がっていろ。」

 万が一結界を壊されてしまえば近くで見ていると怪我を負ってしまう。
ライムなら何か起きても上手い事対処してくれるだろう。

「先ずは貴様から殺す。」

「出来ぬ事は口にしない方がいい。」

 ジルの言葉が終わると同時にフラムが一気に距離を詰める。
そして黒炎を纏った剣でジルを刀ごと焼き斬る様に横薙ぎに振るってくる。
ジルはそれを銀月で軽々と受け止める。

「なっ!?」

「Sランク冒険者が隙だらけだぞ!」

「くっ!?」

 まさか受け止められるとは思わなかったのか、フラムが一瞬止まった隙にジルが反撃に出る。
何度か銀月を振るうが、さすがは元Sランクの冒険者、しっかりと対応してくる。
しかしフラムの黒炎には異変が起きていた。

「炎を纏った剣が凍ってるだと!?」

「あのフラムの炎を!?」

「ジル、凄い…。」

 氷結魔法で強化された銀月と打ち合う度に黒炎は弱まって剣が凍り付いていく。
結界内の温度も一度高まったがどんどん温度が下がっている。
それくらい威力の差があった。

「ライム、どうです?ジル様の戦いぶりは?」

 横で一緒に見ているライムへと尋ねる。
スライムに目は無いが正に戦いに釘付けと言った様子だ。
それだけジルの戦闘能力が凄まじい。

「シキはとても懐かしい気持ちになっているのです。ジル様は普段から火魔法を使ってるのですけど、本来得意としているのは真逆の魔法なのです。」

 昔を懐かしむ様にシキがライムに語って聞かせる。
ジルの前世を一緒に生きた者達しか知らない事である。

「火魔法は基礎魔法の中でも分かりやすい火力を再現出来るのです。そしてありふれている魔法だからジル様は普段使いしているのですが、調から使っていると言うのもあるのですよ。」

 ジルの火魔法の適性は決して低くない。
一般的に見ればかなり高い部類であり、極級魔法も使える程の適性の高さだ。
しかしジルの持つ複数の魔法適性の中では火魔法が一番適性が低かった。

「本来ジル様が得意としている系統は水魔法、そしてその派生である氷結魔法を好んで扱っていたのです。魔法適性がずば抜けて高かったのをよく覚えているのです。」

 その適性の高さは他に並ぶ者がいない程だ。
精霊界で最高レベルの氷結魔法の適性を持つ上級精霊や魔法をこの世界に広めたと言われる原初の龍の氷結魔法を扱うドラゴンでも魔王の足元にも及ばなかった。
その適性の高さは転生した今でも殆ど見劣りしない。

「昔の仲間達からはその凄まじい氷結魔法の適性から氷獄の王とも呼ばれていたのですよ。」

 魔王と並ぶくらい仲間内では有名な呼び名だった。

「ライムもいつかジル様の全力を引き出せるくらい強くなるのですよ。手加減されている状態で満足するなんてシキの従魔として駄目なのです。」

 ライムはぴょんぴょん飛び跳ねて分かったとでも言っている様だ。
向上心のある従魔にシキも満足そうに頷く。

「うー、心なしか寒いのです。もう少し離れて観戦するのです。」

 結界のおかげで外に冷気は漏れ出していない筈だが、見ているだけで寒くなってくる。
公爵家の者達も気のせいでなければ最初よりも離れている様に見える。

 結界の外にいる者ですらそんな感じなので、一番近くで逃げる事も許されず受け続けているフラムは更に厳しい状態だろう。
もう直ぐ消えるであろう命の灯火にシキは小さな手を合わせて合掌しておいた。
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