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61章

元魔王様と旅の報告 2

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 ジル達から許可を得られたハニービー達は早速巣作りに向かった。
何か手伝える事があるかもしれないとホッコも見に行ったのでそちらは任せる事にする。

「次は珍しい素材でも見てもらうとするか。」

「素材なのです?」

「王都に向かう途中に手に入れた物かのう?」

「そうだ、スリープシープと言う魔物だな。」

 ジルが無限倉庫の中から加工されて安全になったスリープシープの羊毛を取り出す。
トゥーリから仲間達に配れる様に貰っておいたのだ。

「おおお、それは珍しいのです!」

「どう言う魔物なんじゃ?」

「その体毛がとんでもない睡眠効果を持っていて触れただけで直ぐに眠らされてしまう恐ろしい魔物なのです。」

「恐ろしい?眠るだけじゃろう?」

 シキはその恐ろしさを理解しているが、スリープシープを知らずに話しだけを聞いたナキナは首を傾げている。

「数時間程度で目覚めるくらいの睡眠では無いのだ。人が餓死するには充分な時間の睡眠効果がある。」

「周りに誰もいなければ死ぬまで眠ったままにされるのです。」

「そ、それは恐ろしいのじゃ。」

 周りに人がいなければ確実な死を齎す危険な魔物なのだ。
どんなに実力があってもスリープシープを知らずに近付いて、初見殺しで人生を終わらせられる可能性がある。

「だがこの素材は既に加工済みだ。だから安心して使えるぞ。」

「加工したら安眠道具に早変わりなのです。快眠が確約されている素晴らしい寝具なのです。」

 シキが羊毛に抱き付いて埋もれている。
小さなシキの身体ならば直ぐにでも寝具が作れそうだ。

「それは良いのう。寝付けない事が無くなるのは有り難いのじゃ。」

「量はそれなりにあるから他の者達にも配るとしよう。」

 充分な量があるので後で仲間達に配る事にして無限倉庫に収納する。

「他にも王都で仕入れた色々な素材や肉があるが、目を見張る素材となるとこれか。」

 次に取り出したのはどちらも出発前に手に入れていた素材だ。
話しだけはしたのだが詳しく紹介出来ていなかった。

「これは前に聞いたドラゴンの素材なのです?」

「こちらの実は見た事が無いのう。」

「シキの言う通り魔の森でスタンピードの時に倒したドラゴンの素材だ。まだまだ大量に余っているから何か使いたくなったら言ってくれ。そしてナキナの持っているのは世界樹の実だ。」

 どちらも滅多に入手出来無い希少な素材だ。

「世界樹の実と言う事はエルフ関連かのう?里に行ったと前に言っておったな?」

「ああ、その時に礼だと言って貰ったのだ。」

「世界樹の実を渡してくるとは驚きなのです。」

 まじまじと世界樹の実を見ながらシキが驚いている。
知識の精霊であるシキの知識には世界樹の実もある様だ。

「そんなに凄い物なのかのう?」

「これは世界に数少ない寿命を伸ばせる類いの物なのです。価値は計り知れないのです。」

「寿命を!?」

 人族よりも長命である鬼人族のナキナだが、寿命を伸ばせると聞けば驚かずにはいられない。
そんな物は世界中探しても片手で数えられるくらいしか存在していないのだ。

「食べれば伸ばせるぞ。我は食べる気が無いから食べたければ一つくれてやろう。」

「い、いや。そんな価値の高い物を簡単には受け取れん。そもそも鬼人族は人族よりは長命じゃから大丈夫じゃ。」

 簡単に実を渡そうとするジルにナキナは手をブンブンと振って拒否する。
元々の寿命だけで充分だと言っている。

「ジル様は何で食べないのです?人族の暮らしを更に楽しめるのですよ?」

「人族と言うのはこの生の短さが普通なのだ。無闇に伸ばせば人族の枠組みからは外れてしまう。それに長命に憧れは無い。」

 元魔王の頃に嫌と言う程長命種の人生は体験出来た。
同族を守る為とは言え、規格外の存在となって死ぬ事すらも出来無くなったあの頃にまた近付きたいとは思わない。

「長生きしたいと考えるのは一般的な考えじゃと思うが変わっておるのう。」

 ジルの前世を知らないナキナは不思議そうにしているがシキは成る程と頷いている。

「シキは分からなくもないのです。精霊の寿命は永遠に近いから親しい者達を沢山見送ってきたのです。それでも生き続けるのは新たな知識が目の前に広がっているからなのです。」

 知らない知識があれば知りたい。
それが知識の精霊であるシキの生きる意味であり理由なのだ。

「シキ殿らしいのう。」

「シキが死ぬとすれば全ての知識を得られた時くらいなのです。つまり死ぬ事は無いのです。」

 自分の名前にもなっている程知識に貪欲なシキに笑う二人だった。
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