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58章
元魔王様と温泉の町 10
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かつての配下の名前にジルが懐かしんでいたが、二人は少し言葉を失う程の衝撃を受けた様だ。
突然大物の名前が出てきてしまって混乱している。
「その続きはどうなったんだ?」
固まってしまった二人に話しの続きを促す。
「あ、そうね。えーっと、レギオンハートの登場に勇者様達が臨戦態勢を取ると話し合いにきただけだと言われたそうよ。」
「話し合いですか?魔族と話す事なんて。」
女将が警戒する様に言う。
そんな言葉は信じられないと言う感情が表情からも伝わってくる。
「敵対勢力だから勇者様達も当然警戒したそうよ。でも何人かの争いを好まない勇者様達はそれに応じたらしいわ。」
勇者の中にも様々な考えを持つ者がいるのは元魔王や配下達は理解していた。
魔族を滅ぼそうと躍起になっている者の方が少なかった。
「勇者様達も突然異世界から召喚され、戦争の道具にされて色々と溜まっていたらしいわね。レギオンハートが全く敵意を持っていなかったのと単独だった事でこの地で人族と魔族による話し合いが行われた。」
その勇者達との話し合いに関しては元魔王の頃に報告が入っている。
単身で人族の国に向かうと言うのも事前にレギオンハートと話したのは今でも覚えている。
「そしてこの手記を書いた勇者双葉瑞稀様もレギオンハートとの話し合いに参加した。人族と見た目が違うだけでしっかりと話し合いが行える人物だったと書いてあるわね。」
多くの魔物を率いる将であるレギオンハートは好戦的な性格でもあるが知的な面もある。
何でも武力で解決したりせず、こう言った話し合いも出来る男なのだ。
「私達が抱く魔族の印象と随分違いますね。」
女将が少し戸惑う様に言う。
魔族は悪と言う知識が人族の世界で常識となっている。
歪んだ歴史ではあるが今の人族はそれを知る手段が無い。
だからこそ勇者の手記を見て情報の齟齬に困惑しているのだ。
「話し合いを終えた後は一緒に食事に酒、温泉にも入ってるみたいよ。何人かの勇者様はレギオンハートに招かれて魔国に招待もされたらしいわ。」
レギオンハートが勇者を引き連れて戻ってきたのは記憶している。
元魔王の頃に魔国に来た勇者達と会って、もてなしつつ実際に色々と言葉も交わした。
魔王を前に萎縮していたが歓迎の気持ちは伝わった筈だ。
「敵の本拠地に赴いたのですか!?危険では!?」
「でも数日で何事も無く帰ってきたと書いてあるわね。魅了の類いや記憶操作等も行われず、魔王と会談までしてきた…って魔王と会ってきた!?」
「魔王…。」
魔王と言う一般の冒険者や平民からすると架空の存在とも思える者だが、確かに魔王は存在していた。
その転生体が目の前にいるとは思いもしないだろう。
「それを終えて勇者様達は魔族では無く人族に疑問を抱く様になり、話し合いで解決出来無いのかと国の上層部に進言しに向かった。その日から勇者達の周りがおかしくなった。」
「おかしくなった?」
「突然の失踪、王の傀儡、性格が変わった様に戦闘狂になる、これって…。」
不信感を抱く勇者達を強制的に戦闘の道具としたのだろう。
口封じ、魅了、理性の破壊と非人道的な事をしていたらしい。
これではどちらが悪か分からない。
「これ以上この場にいれば今度は自分が自分では無くなる。勇者双葉瑞稀は同じ思いの勇者様と共に魔国フュデスへ亡命した。」
「魔族の下へですか。にわかには信じられない話しですね。」
二人は信じられないかもしれないが実際に勇者達が魔国フュデスに庇護を求めてきたのは事実だ。
それを受け入れたのが自分なのだから間違い無い。
「魔王様は話しを聞いて心良く私達を迎え入れて平穏な暮らしを寿命が尽きるまで送らせてくれた。この手記も寿命が尽きる前に当時の正しい事実を伝える為に人族の国に残したいと言う我儘を叶えて、魔族が人族の国まで連れてきてくれたらしいわ。」
勇者双葉瑞稀は間違った人族の考えを後世に伝えたくなかったのだろう。
魔族は話せば分かる、自分達と見た目が違うだけの存在だと次世代の者達にも分かってほしかったのだ。
「その手記は本物でしょうか?」
「どうかしらね。勇者様の名を語って魔族が書いた可能性もあるし、操られて書かされた可能性もあるわ。でも魔族の国に行った後に書かれているのは幸せそうな様子ばかりね。」
「本当にその通りならば勇者様も安らかに眠れたでしょうね。」
勇者を庇護した後は自由に過ごさせたので不満は聞いた事が無かった。
元の世界の知識を使って魔国の発展に協力してくれたので、元魔王としても有り難い存在だった。
「それと余生はここでは無く別の場所で過ごしたらしいけど、様々な温泉石の研究資料や魔法道具の類いは鞄に仕舞って残してあるから、見つけた人に譲渡するって書いてあるわ!勇者様の遺品、確実にお宝じゃない!」
手記の最後の方に書いてあった内容に町長のテンションが大きく高まる。
勇者の所有物を貰えるなんてかなりの幸運だ。
「温泉石の研究資料も有り難いですね。まだまだこの町は温泉で大きくなっていくでしょうし。」
「我にも見せてくれるか?」
「勿論構わないわよ。」
その後勇者が荷物をまとめてくれていた収納系の魔法道具の鞄を有り難く回収してジル達は鉱山を出た。
突然大物の名前が出てきてしまって混乱している。
「その続きはどうなったんだ?」
固まってしまった二人に話しの続きを促す。
「あ、そうね。えーっと、レギオンハートの登場に勇者様達が臨戦態勢を取ると話し合いにきただけだと言われたそうよ。」
「話し合いですか?魔族と話す事なんて。」
女将が警戒する様に言う。
そんな言葉は信じられないと言う感情が表情からも伝わってくる。
「敵対勢力だから勇者様達も当然警戒したそうよ。でも何人かの争いを好まない勇者様達はそれに応じたらしいわ。」
勇者の中にも様々な考えを持つ者がいるのは元魔王や配下達は理解していた。
魔族を滅ぼそうと躍起になっている者の方が少なかった。
「勇者様達も突然異世界から召喚され、戦争の道具にされて色々と溜まっていたらしいわね。レギオンハートが全く敵意を持っていなかったのと単独だった事でこの地で人族と魔族による話し合いが行われた。」
その勇者達との話し合いに関しては元魔王の頃に報告が入っている。
単身で人族の国に向かうと言うのも事前にレギオンハートと話したのは今でも覚えている。
「そしてこの手記を書いた勇者双葉瑞稀様もレギオンハートとの話し合いに参加した。人族と見た目が違うだけでしっかりと話し合いが行える人物だったと書いてあるわね。」
多くの魔物を率いる将であるレギオンハートは好戦的な性格でもあるが知的な面もある。
何でも武力で解決したりせず、こう言った話し合いも出来る男なのだ。
「私達が抱く魔族の印象と随分違いますね。」
女将が少し戸惑う様に言う。
魔族は悪と言う知識が人族の世界で常識となっている。
歪んだ歴史ではあるが今の人族はそれを知る手段が無い。
だからこそ勇者の手記を見て情報の齟齬に困惑しているのだ。
「話し合いを終えた後は一緒に食事に酒、温泉にも入ってるみたいよ。何人かの勇者様はレギオンハートに招かれて魔国に招待もされたらしいわ。」
レギオンハートが勇者を引き連れて戻ってきたのは記憶している。
元魔王の頃に魔国に来た勇者達と会って、もてなしつつ実際に色々と言葉も交わした。
魔王を前に萎縮していたが歓迎の気持ちは伝わった筈だ。
「敵の本拠地に赴いたのですか!?危険では!?」
「でも数日で何事も無く帰ってきたと書いてあるわね。魅了の類いや記憶操作等も行われず、魔王と会談までしてきた…って魔王と会ってきた!?」
「魔王…。」
魔王と言う一般の冒険者や平民からすると架空の存在とも思える者だが、確かに魔王は存在していた。
その転生体が目の前にいるとは思いもしないだろう。
「それを終えて勇者様達は魔族では無く人族に疑問を抱く様になり、話し合いで解決出来無いのかと国の上層部に進言しに向かった。その日から勇者達の周りがおかしくなった。」
「おかしくなった?」
「突然の失踪、王の傀儡、性格が変わった様に戦闘狂になる、これって…。」
不信感を抱く勇者達を強制的に戦闘の道具としたのだろう。
口封じ、魅了、理性の破壊と非人道的な事をしていたらしい。
これではどちらが悪か分からない。
「これ以上この場にいれば今度は自分が自分では無くなる。勇者双葉瑞稀は同じ思いの勇者様と共に魔国フュデスへ亡命した。」
「魔族の下へですか。にわかには信じられない話しですね。」
二人は信じられないかもしれないが実際に勇者達が魔国フュデスに庇護を求めてきたのは事実だ。
それを受け入れたのが自分なのだから間違い無い。
「魔王様は話しを聞いて心良く私達を迎え入れて平穏な暮らしを寿命が尽きるまで送らせてくれた。この手記も寿命が尽きる前に当時の正しい事実を伝える為に人族の国に残したいと言う我儘を叶えて、魔族が人族の国まで連れてきてくれたらしいわ。」
勇者双葉瑞稀は間違った人族の考えを後世に伝えたくなかったのだろう。
魔族は話せば分かる、自分達と見た目が違うだけの存在だと次世代の者達にも分かってほしかったのだ。
「その手記は本物でしょうか?」
「どうかしらね。勇者様の名を語って魔族が書いた可能性もあるし、操られて書かされた可能性もあるわ。でも魔族の国に行った後に書かれているのは幸せそうな様子ばかりね。」
「本当にその通りならば勇者様も安らかに眠れたでしょうね。」
勇者を庇護した後は自由に過ごさせたので不満は聞いた事が無かった。
元の世界の知識を使って魔国の発展に協力してくれたので、元魔王としても有り難い存在だった。
「それと余生はここでは無く別の場所で過ごしたらしいけど、様々な温泉石の研究資料や魔法道具の類いは鞄に仕舞って残してあるから、見つけた人に譲渡するって書いてあるわ!勇者様の遺品、確実にお宝じゃない!」
手記の最後の方に書いてあった内容に町長のテンションが大きく高まる。
勇者の所有物を貰えるなんてかなりの幸運だ。
「温泉石の研究資料も有り難いですね。まだまだこの町は温泉で大きくなっていくでしょうし。」
「我にも見せてくれるか?」
「勿論構わないわよ。」
その後勇者が荷物をまとめてくれていた収納系の魔法道具の鞄を有り難く回収してジル達は鉱山を出た。
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