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55章

元魔王様と従魔の成長 5

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 騎士達に少し場所を開けてもらってジルと騎士五人が相対する。
騎士団長や副団長を含む騎士団の実力者が一斉に戦うと言う事で騎士達が休憩がてらジル達の戦いに注目している。

「ジル殿、遠慮はいらぬ。全力で頼む。」

 騎士団長が幅の広い両手剣を抜き放ちながら言う。
並の騎士では持ち上げるのも難しそうな両手剣を軽々と振るっており、戦い慣れているのがよく分かる。

「本当に全力でいいのか?直ぐに終わってしまうかもしれんぞ?」

 ジルのその発言に見学していた騎士達の多くが疑う様な視線を向けてくるが、相対している五名からは一切感じられない。
団長と副団長以外の三名も生誕祭の会場にいたのか、ジルが普通の冒険者では無いと知っている様だ。

 むしろその発言で五人の緊張感が高まった様に感じられる。
ジルが圧倒的な強者だと戦う前から分かっているのだ。

「これは実戦を想定しての訓練だ。死ぬ気で挑まねば訓練にはならない。」

「なので遠慮は無用です。どうか胸を貸して下さい。」

 団長の言葉にソートも続く。
実際に黒フードの者達と戦うとなれば死を覚悟して挑まなければならない。
単体でも高ランク冒険者達を軽々と相手に出来る実力を持っている非常に厄介な集団だ。

 それを相手取る為に訓練しているのだから、緩い訓練では犠牲者を捧げにいく様なものである。
訓練であっても死ぬ覚悟を持って挑むのは大事な事だ。

「確かに奴らと死闘を繰り広げるなら相応の実力が求められるからな。一定の実力を身に付けられなければ死者を量産するだけだ。」

 全体的に実力が高いのは分かっているがジルもまだ戦っていない未知数な者までいる。
相手にするには騎士団も更に実力を磨く必要がある。

「いいだろう、死ぬ事は無いし殺すつもりでいくぞ。」

「「「「っ!?」」」」

「これ程か…。凄まじい殺気だ…。」

 ジルから放たれる殺気に五人が思わず身構える。
さすがに臆する者はいなかったが、見学している中には震えている者もいる。

「そ、それでは始め!」

「おりゃー!」

 開始の合図と共に騎士の一人が先手必勝とばかりにジルに突撃して斬り掛かってきた。
さすがに他の騎士達よりも実力があって流れる様なスムーズな攻撃である。
しかしそれは騎士達の中で比較した場合だ。

「実力差があるのに不用意に近付くな。死ににいく様なものだぞ。」

 そう言ってジルが騎士に向けて銀月を素早く二度振るう。

「がはっ!?」

 それだけで騎士の手にあった剣が弾き飛ばされて、無防備な身体が銀月で斬られてしまい、その場に倒れて気絶する。
純粋な身体能力ですらかなりの実力差があるのだ。

「なっ!?」

「一撃…。」

 自分と同等の強さを持つ騎士が一瞬で倒されてしまい、二人の騎士が唖然として固まっている。

「止まらず動け!戦場でそんな体たらくでは簡単に命を落とすぞ!」

 直ぐにその固まっている二人に団長が叱責を飛ばしながら動いているが、ジルからすれば致命的過ぎる隙であった。

「ファイアアロー!」

 ジルが魔法を使用すると周囲に膨大な火矢が出現する。

「「っ!?」」

 初級魔法とは思えない数に驚愕するがそんな暇は無い。
無数に放たれるジルの火魔法によって騎士の二人が蹂躙される。
魔装して耐久力を上げたり得物で弾いたりと必死に耐えている。

 普通の初級火魔法であればそれで問題無かっただろう。
しかし火魔法の適性が高く魔力量の多いジルが使った事で初級火魔法らしからぬ火力となってしまった。
降り注ぐ膨大な火矢に成す術無く二人は倒れていく。

「ここです!」

 騎士達に攻撃していたジルの隙を付く様に背後を取ったソートが斬り掛かる。
かなりの速度で振られた剣だが、ジルは振り向きざまに銀月でそれを軽々と受け止めてしまった。
攻撃中であっても他の者を警戒しない訳が無い。

「良い動きだ。」

「まだです!躁剣!」

 ソートの腰に下げられていた二つの剣が手も触れていないのに同時に鞘から抜けて空中に浮かび上がった。
そして手に持っている剣に合わせる様にジルに向かって自動的に振るわれる。

「ほう。面白いスキルだな。」

 ジルが三つの剣を相手にしながら愉快そうに言う。
手数が増えても全く焦っている様子は無く、まだまだ余裕が窺える。

「くっ、手数を増やしても届きませんか。」

「スキルの剣は随分と軽いから、な!」

 魔装した銀月を真横に一閃する事で全ての剣を弾いた。
ソートの手に持っている剣は弾き飛ばされはしなかったが、真上に大きく弾かれた事でジルの前に無防備な身体を晒してしまった。
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