上 下
471 / 736
55章

元魔王様と従魔の成長 4

しおりを挟む
 演習場に到着するとあちこちで騎士や冒険者が模擬戦をしていた。
黒フード達と戦える様にする為の訓練と言う事もあり、騎士団のやる気がとても高い。
王族もこの件に本気で取り組む姿勢の様だ。

「ソート副団長、少し宜しいでしょうか?」

「ユメノ殿、何でしょうか?」

 ユメノが話し掛けたのは冒険者と戦っている騎士達を見ながら指導している女性の騎士だ。

「こちらの方も追加で訓練に加わって下さる冒険者さんです。ランクは低いのですが実力は…。」

「ジル殿ではないですか!?」

「あれ?お知り合いでした?」

 ユメノが言い終わる前にソートがジルを見て驚きながら言う。

「そう言われてみると見覚えがあるな。確かトレンフルのダンジョンで出会った騎士だったか?」

「覚えて頂けているとは光栄です。その節は大変お世話になりました。」

「気にするな。」

 ソートとはトレンフルのダンジョンで出会っていた。
エトワールに万能薬を譲った時に一緒に行動していた者の一人だ。

「お知り合いなら話しは早いですね。ジルさんとホッコさんも訓練に加えて頂きたいのです。」

「ジル殿が高い実力をお持ちなのは知っています。我々としては有り難い限りですが宜しいのですか?」

「我もホッコを騎士と戦わせて鍛える目的があるからな。代わりに騎士の方は我が鍛えてやろう。」

 騎士と戦える経験は滅多に無い。
ホッコにとって良い刺激になる筈だ。

「それは有り難い申し出です。騎士団の数名は今いる冒険者では少し実力に開きがあり、指導に徹していましたので。」

 ユメノの前なのでソートが申し訳無さそうに言う。

「高ランク冒険者が参加しているのではなかったのか?」

「最高でもBランクまでですね。Aランクの方々は都合が合わなかったり、別の依頼を受けていたりと参加者はいないんです。ジルさんの知る美酒の宴の皆さんも依頼中でした。」

 どうやら王都の実力者は皆出払っているらしい。
高ランク冒険者は指名依頼も多いので多忙なのだ。

「成る程な。では騎士団員の実力者達は我が相手をしてやろう。」

 ジルとしても相手が実力者であるのに越した事は無い。
新人騎士の相手をさせられても一瞬で勝負が決まってしまう。

「ジル殿が相手ですか。ギルドに設置してある不死の魔法道具に感謝しなければいけませんね。」

 演習場には全力で訓練出来る様に死者を出さない魔法道具が設置されている。
それが無ければ相手を殺す程の全力を発揮しての訓練なんて出来無い。

「その代わりにホッコの相手も見繕ってくれよ?」

「宜しくなの!」

 騎士と戦えるのでワクワクした表情でホッコが頭を下げる。

「お任せ下さい。どのくらいの強さを希望されますか?」

「そうだな、手始めにCランク冒険者クラスの騎士を頼む。」

「畏まりました。少しお待ち下さい。」

 ソートがジルの希望に合う騎士に声を掛けに向かう。

「それではジルさん、私も受付があるので戻りますね。」

「ああ、助かったぞ。」

 ユメノが受付に戻って直ぐにソートも一人の騎士を連れて戻ってきた。

「お待たせ致しました。」

「宜しくお願いします。」

 騎士がホッコに礼をして言う。
まだ若い騎士であり少し緊張している様だ。

「宜しくなの!早速戦うの!」

「実戦形式で頼むぞ。」

「分かりました。」

 ホッコが空いているスペースに向かって元気良く走っていく。

「それでは早速我らもやるか。」

「そうして下さると助かります。見学しながらの指導ばかりで身体を殆ど動かしていないので。」

 周りの騎士や冒険者は結構汗をかいたり息切れをしたりしているがソートは会った時からずっと涼しい顔をしている。
訓練が始まってから殆ど動いていないのだろう。

「同じ様な騎士は他にどれくらいいる?」

「あちらで見学している者達が私と同じ立場ですね。」

 ソートと同じ様に騎士達に指示を飛ばしている者達がいる。

「全員で五人か。それくらいなら我が纏めて相手をしてやろう。」

「分かりました、それではこちらへ。」

 ジルの言葉に特に文句を言う事も無くソートが案内してくれる。
それが平気で行える実力者だと言う事は度々耳にするジルに関する情報で把握していた。

「団長、少し宜しいでしょうか?」

 後を付いていくと一番高価な装備に身を包む騎士にソートが尋ねた。
どうやら王国騎士団の団長らしい。

「ソートか。どうかしたか?」

「こちらのジルさんが我々の相手を引き受けて下さいました。」

「おおお!貴殿は夜会で闘姫と共に我々の主を守ってくれた冒険者か!その節は世話になった。」

 騎士団長はジルの事を知っていた。
どうやらエトワールの生誕祭の時に現場にいて、賊達と戦っているジルを目撃したらしく、深々と頭を下げながらお礼を言われた。

「あの時にいたのか。」

「ああ、我々よりも遥かに強い冒険者だ。とてもよく印象に残っている。そんな冒険者が引き受けてくれるとは有り難い話しだ。」

「そうか?ならば早速やるか。」

 団長もやる気になっているのでジルも模擬戦を始める事にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...