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53章

元魔王様と極上の蜂蜜 1

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 生誕祭と襲撃騒ぎを終えた翌日、トゥーリはやっとゆっくり出来ると言って、楽しみにしていた王都観光に出掛けた。
ラブリートもまだまだ王都で見て回りたい店が多いらしく、トゥーリの護衛も兼ねて一緒に出掛けている。

「さて、我は何をして時間を潰すか。」

 ジルは目の前で美味しそうにお菓子を頬張って幸せそうな表情を浮かべているホッコを見ながら考える。
ジル達だけ今日の予定が未定だった。

 セダンに帰るまでまだ時間があるので何かしら暇潰しを見つけておかなければ、屋敷でぐーたら過ごす日々になってしまう。
それも悪くは無いが馬車での移動中は大半がのんびり過ごす事になるので、ぐーたらするのは帰る時まで残したい。

 トゥーリの話しでは後1週間くらいは滞在するかもしれないと言っていた。
観光以外にも奴隷商館で購入したエレノラを教会の司祭に治してもらう予定があるので帰る訳にはいかない。

 そのエレノラだが生誕祭の日に起こった出来事をトゥーリが話してあげたらしい。
元主人であり自分を落とし入れたポージャが捕まったと聞いてとても喜んでいた。
これで自分の手を汚して復讐する事も無いだろう。

 なのでエレノラは治療が終わり次第、トゥーリの護衛としてセダンの街に連れ帰る予定となっている。
復讐を平和な形で代わりに果たしてくれたトゥーリに恩義を感じており、セダンの街に戻ってからトゥーリの為に沢山働くと意気込んでいるらしい。

「何も決まっていないのでしたら、ギルドで依頼を受けてみてはいかがですか?」

 ジルとホッコの紅茶やお菓子を用意してくれているキュールネが提案してくる。

「依頼か。別に定期的な依頼は受けているから無理して受ける必要は無いんだがな。」

 ギルドでは身分証となるギルドカードが取り消されない為に定期的な依頼が義務付けられている。
王都に来てからも無限倉庫のスキルを持つジルにとっては簡単な納品依頼を受けているので問題は無い。

「でしたらセダンの街では出回らない依頼を受けてみるのはどうですか?」

「セダンで出回らない依頼?」

「当然土地が違えば出現する魔物も変わってきます。ジルさんは美味しい料理に目がない様子なので、美味しい魔物や素材が手に入る依頼を受けてみては?」

 王都とセダンは馬車でもそれなりの距離を移動する必要がある。
なので都市部の周辺に生息する魔物も環境が違うのでガラリと変わる。
グレートバッファローの様な美味しい魔物も多い。

「成る程、王都でしか手に入らない食材か。それは確かに魅力的だな。」

「依頼であれば正確な場所も記されていますし、収納系のスキルを持つジル様なら依頼数を超えた分は自分の物として持ち帰れますからね。」

 無限倉庫のスキルは収納量が名前の通りに制限が無い。
そして中に収納した物の時間経過が無いので、食材を収納しておいても全く問題無いのだ。

「ちなみに何かお勧めはあるのか?」

「そうですね、王都の南門から南西に進んだ方角に森林地帯があるのですが、そこにハニービーと言う魔物が棲息していた筈です。ハニービーの作り出す蜂蜜は上品な甘さで口当たりが良く、健康にも非常に良いのでとても需要があります。」

 キュールネが紹介してくれたのは蜂蜜だ。
魔物で食材と聞くと肉を思い浮かべがちだが、こう言った物も魔物から入手出来る。
採取が難しい物は通常品よりも価値や味が数段高まっている事も多い。

「ほう、それは是非手に入れたいな。」

 蜂蜜となればジル達が好物としている甘味にも幅広く利用出来そうだ。
お菓子が大好きなホッコも蜂蜜と言う言葉が聞こえた後、食べながら耳を傾けているのがよく分かる。

「もしお暇でしたらその依頼を受けてみるのもいいかもしれませんね。確か王都では需要に供給が追い付いていなかったと記憶しているので。」

「高く買い取りもしてくれると言う事か。まあ、せっかくなら食べてみたいけどな。」

 ハニービーは前世から知っている魔物だが食の喜びに気付いたのは転生してからだ。
なのでハニービーから取れる蜂蜜と言うのは味わった事が無い。

「手に入りましたら、その蜂蜜を使ってパンケーキでも焼きますよ。数ある蜂蜜の中でもハニービーの蜂蜜は最高級品として扱われていまして、お菓子の質を数段階引き上げてくれますから、お店で出される物よりも美味しく提供出来ると思います。」

「それは楽しみだな。早速行ってみるか。」

「ホッコも行くの!」

 お菓子を食べながら話しを聞いていたホッコも立ち上がる。
沢山お菓子を食べていたのにまだ食べるのかとジルとキュールネは呆れていた。
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